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season2
89話:俺のチョコ
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なぁ、バレンタインデーって知ってるか。
俺が弟のジェルからチョコレートをもらえる日のことだ。
でももらえるって言っても簡単じゃなくてさ。ジェルのやつ、俺が簡単に受け取れないように毎年どこかにチョコを隠すんだよ。
しかも単に隠すだけじゃなくて、ゴーレムを召喚したりモンスターを配置してまで妨害するわけ。
普通に渡してくれたらいいのになぁって思いつつ、そういう趣向(ゲーム)なんだろうと解釈して俺は毎年トラップを乗り越えてあいつのチョコを受け取ってたんだよ。
だけど、ついにジェルは素直に渡すことを覚えたらしくてな。去年は何のトラップも妨害も無くて普通にテーブルの上に置いてあったんだ。
綺麗なピンクの包装紙に赤いリボンと花の飾りでラッピングされてて「アレク用のバレンタインチョコです。受け取ってください」って書かれたメッセージカードまで添えられてた。
“アレク用”って言い方はどうかと思ったけど、でもそんなこと気にしない気にしない。
なにせ中身は心がこもった手作りだったから。
雑誌で読んだことあるけど、手作りチョコって「本命」ってやつだろ?
一番大事な人にあげるやつだって書いてあった。
つまり、これはジェルが一番大事なのはお兄ちゃんだってことだよな。
「――よくまぁそう都合よく解釈できるねぇ、アレク兄ちゃんは。まぁジェルもなんだかんだで活き活きしてる感じだったし、別にいいけど」
神社の境内に設置された足湯に足を浸しながら、俺は友人である氏神のシロと今年のバレンタインデーについて話し合っていた。
「今年はどんなチョコがもらえるのかなぁ。楽しみだ」
俺の言葉を聞いたシロは、小さな足でチャプチャプとお湯を軽くかき回すようにしながら軽くため息をつく。
「まったく。もらうことばっかり考えてちゃダメだよ、アレク兄ちゃん。与えることも考えないと」
「与えること……?」
――そうか。それもそうだよな。
バレンタインデーは俺がチョコをもらえる日だとばかり思ってたけど、別に俺がジェルにあげたって構わないんだということに気付いた。
もし俺がチョコをあげたらあいつは喜ぶだろうか。どんな顔をするのかちょっと見てみたい気がする。
「シロ、ありがとうな。俺ちょっといいこと思いついちゃったわ!」
「いいことって?」
「へへ、内緒。じゃ、そろそろ帰るよ」
湯で温まった足をタオルで拭いてシロに軽く手を振り、神社を後にした。家に帰るとリビングで読書をしていたジェルが俺に気づいて顔を上げた。
「おかえりなさい、アレク。どこに行ってたんですか?」
「いや、ちょっと散歩ついでにシロの神社に寄ってきただけ」
「そうでしたか。外は寒かったでしょう、今お茶入れますね」
そう言ってジェルは読みかけの本を置いて立ち上がり、キッチンで紅茶を入れて持ってきた。
俺はソファーに座って紅茶を飲みながら、ジェルにチョコの話を切り出してみることにする。
「あ、あのな、ジェル。バレンタインなんだけどさ」
「バレンタインがどうしましたか?」
「いつも俺がもらってばかりだから、今年は俺がチョコあげようと思うんだが……」
その言葉にジェルは一瞬目を丸くしたが、すぐにパッと花が咲いたような明るい笑顔を見せた。
「アレクがワタクシにくださるんですか。それは楽しみですね」
――よかった。いい提案だったみたいだ。
「うん。俺、すげぇの用意するから楽しみにしててくれ!」
俺は紅茶と一緒に出されたクッキーをつまみながら、どんなチョコをプレゼントしようか考えていた。
どうせなら特注品にしよう。
チョコといえばやっぱりベルギーだろうか。
数日後。俺は知り合いに紹介してもらったベルギーの菓子職人(ショコラティエ)に会いに行き、あるデザインのチョコを注文することにした。
「しかし良いとこだなぁ。こんなにたくさんチョコレートの店があるとは思わなかった」
俺が向かったのはベルギーの首都から電車で1時間くらいのブルージュという小さな街だ。
中世ヨーロッパの古い建物がそのまま残っていて、その絵画のような風景は観光地としても人気の街で、歩いているだけでも楽しい。
街の中はたくさんのチョコの店があって、ラッキーなことにその中でも特に美味しいと評判の菓子職人の店で作ってもらえることになった。
特注品はかっこいい俺の全身像……と思ったんだけど、菓子職人と相談した結果、手を模ったチョコにした。
そもそも等身大の俺の形したのなんて型をとるのも大変だし、デカすぎて食いきれねぇだろうしな。
手のポーズはどうするか迷ったけど、ピースサインにした。俺の手がカッコよく見えるイカしたポーズだ。
菓子職人の手によって型から取り出され飾りつけされたチョコは、ちょっとした芸術品みたいで俺は絶賛しながらあらゆる角度から写真を撮った。
ジェルに写真を送ったら「これはすごい! 実物もきっと素敵でしょうね。楽しみにしてます!」と返事が返ってきて、なかなかの好感触だ。
ジェルのうれしそうな反応を見て、俺は一刻も早くこの完成品を渡したくなった。
この芸術的なチョコを見たらきっと感激してくれるに違いない。
「よーし! 後は持って帰るだけだ! ありがとな!」
俺は美しくラッピングされた箱を受け取ってトランクの中に入れた。
菓子職人には「別便で空輸したほうが温度管理がしっかりできていいんじゃないか?」と言われたが、それは断って自分でチョコを持って帰ることにした。
やはりこういうのは自分で運んで直接ジェルに渡したいからな。
俺が弟のジェルからチョコレートをもらえる日のことだ。
でももらえるって言っても簡単じゃなくてさ。ジェルのやつ、俺が簡単に受け取れないように毎年どこかにチョコを隠すんだよ。
しかも単に隠すだけじゃなくて、ゴーレムを召喚したりモンスターを配置してまで妨害するわけ。
普通に渡してくれたらいいのになぁって思いつつ、そういう趣向(ゲーム)なんだろうと解釈して俺は毎年トラップを乗り越えてあいつのチョコを受け取ってたんだよ。
だけど、ついにジェルは素直に渡すことを覚えたらしくてな。去年は何のトラップも妨害も無くて普通にテーブルの上に置いてあったんだ。
綺麗なピンクの包装紙に赤いリボンと花の飾りでラッピングされてて「アレク用のバレンタインチョコです。受け取ってください」って書かれたメッセージカードまで添えられてた。
“アレク用”って言い方はどうかと思ったけど、でもそんなこと気にしない気にしない。
なにせ中身は心がこもった手作りだったから。
雑誌で読んだことあるけど、手作りチョコって「本命」ってやつだろ?
一番大事な人にあげるやつだって書いてあった。
つまり、これはジェルが一番大事なのはお兄ちゃんだってことだよな。
「――よくまぁそう都合よく解釈できるねぇ、アレク兄ちゃんは。まぁジェルもなんだかんだで活き活きしてる感じだったし、別にいいけど」
神社の境内に設置された足湯に足を浸しながら、俺は友人である氏神のシロと今年のバレンタインデーについて話し合っていた。
「今年はどんなチョコがもらえるのかなぁ。楽しみだ」
俺の言葉を聞いたシロは、小さな足でチャプチャプとお湯を軽くかき回すようにしながら軽くため息をつく。
「まったく。もらうことばっかり考えてちゃダメだよ、アレク兄ちゃん。与えることも考えないと」
「与えること……?」
――そうか。それもそうだよな。
バレンタインデーは俺がチョコをもらえる日だとばかり思ってたけど、別に俺がジェルにあげたって構わないんだということに気付いた。
もし俺がチョコをあげたらあいつは喜ぶだろうか。どんな顔をするのかちょっと見てみたい気がする。
「シロ、ありがとうな。俺ちょっといいこと思いついちゃったわ!」
「いいことって?」
「へへ、内緒。じゃ、そろそろ帰るよ」
湯で温まった足をタオルで拭いてシロに軽く手を振り、神社を後にした。家に帰るとリビングで読書をしていたジェルが俺に気づいて顔を上げた。
「おかえりなさい、アレク。どこに行ってたんですか?」
「いや、ちょっと散歩ついでにシロの神社に寄ってきただけ」
「そうでしたか。外は寒かったでしょう、今お茶入れますね」
そう言ってジェルは読みかけの本を置いて立ち上がり、キッチンで紅茶を入れて持ってきた。
俺はソファーに座って紅茶を飲みながら、ジェルにチョコの話を切り出してみることにする。
「あ、あのな、ジェル。バレンタインなんだけどさ」
「バレンタインがどうしましたか?」
「いつも俺がもらってばかりだから、今年は俺がチョコあげようと思うんだが……」
その言葉にジェルは一瞬目を丸くしたが、すぐにパッと花が咲いたような明るい笑顔を見せた。
「アレクがワタクシにくださるんですか。それは楽しみですね」
――よかった。いい提案だったみたいだ。
「うん。俺、すげぇの用意するから楽しみにしててくれ!」
俺は紅茶と一緒に出されたクッキーをつまみながら、どんなチョコをプレゼントしようか考えていた。
どうせなら特注品にしよう。
チョコといえばやっぱりベルギーだろうか。
数日後。俺は知り合いに紹介してもらったベルギーの菓子職人(ショコラティエ)に会いに行き、あるデザインのチョコを注文することにした。
「しかし良いとこだなぁ。こんなにたくさんチョコレートの店があるとは思わなかった」
俺が向かったのはベルギーの首都から電車で1時間くらいのブルージュという小さな街だ。
中世ヨーロッパの古い建物がそのまま残っていて、その絵画のような風景は観光地としても人気の街で、歩いているだけでも楽しい。
街の中はたくさんのチョコの店があって、ラッキーなことにその中でも特に美味しいと評判の菓子職人の店で作ってもらえることになった。
特注品はかっこいい俺の全身像……と思ったんだけど、菓子職人と相談した結果、手を模ったチョコにした。
そもそも等身大の俺の形したのなんて型をとるのも大変だし、デカすぎて食いきれねぇだろうしな。
手のポーズはどうするか迷ったけど、ピースサインにした。俺の手がカッコよく見えるイカしたポーズだ。
菓子職人の手によって型から取り出され飾りつけされたチョコは、ちょっとした芸術品みたいで俺は絶賛しながらあらゆる角度から写真を撮った。
ジェルに写真を送ったら「これはすごい! 実物もきっと素敵でしょうね。楽しみにしてます!」と返事が返ってきて、なかなかの好感触だ。
ジェルのうれしそうな反応を見て、俺は一刻も早くこの完成品を渡したくなった。
この芸術的なチョコを見たらきっと感激してくれるに違いない。
「よーし! 後は持って帰るだけだ! ありがとな!」
俺は美しくラッピングされた箱を受け取ってトランクの中に入れた。
菓子職人には「別便で空輸したほうが温度管理がしっかりできていいんじゃないか?」と言われたが、それは断って自分でチョコを持って帰ることにした。
やはりこういうのは自分で運んで直接ジェルに渡したいからな。
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