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season2
82話:ドスケベセクシートナカイ
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それは雪がちらつくある日の出来事でした。
アンティークの店「蜃気楼」に、魔人のジンが白い手提げ袋を持ってやってきたのです。
「ねぇ、アレクちゃんにジェル子ちゃん。アタシ困ってるのよ。ちょっと助けてくれない?」
「いきなりどうしたんですか?」
「とりあえず、この服を見てちょうだい」
彼の大きな体に見合わぬ小さな手提げ袋の中から出てきたのは、ファーが付いたビキニと網タイツ。そしてトナカイの角を模したカチューシャ。
それは女性向けのクリスマス用コスチュームでした。パッケージには「ドスケベセクシートナカイ」と書かれています。
「な、なんですか。このいかがわしいコスチュームは……」
「うわ、すげーエッチな服だ! ――お、紐でサイズ調整できるな!」
好奇心旺盛な兄のアレクサンドルは、大喜びでコスチュームを引っ張ったり裏返したりして細かいところをチェックしています。
「こら、アレク。あんまり引っ張ったら破けますよ」
「だってどうなってるのか気になるじゃねぇか。……なぁジンちゃん、これがどうかしたのか? エッチだけど普通の服だよな?」
確かにアレクの言うようにいかがわしいデザインではありますが、特に呪いなどかかっている様子も無く、普通のクリスマス用のコスチュームに見えます。
「えぇ。別にいわく付きとかそういうのじゃないのよ~。でもね、手違いで100着も仕入れちゃったの!」
「え、100着もあるのかよ!」
「そう、だからこれをクリスマスまでになんとか売り切りたいのよ~! お願い! 買ってちょうだい!」
ジンは両手をあわせて拝むようなポーズで頼んできました。
季節商品はなるべく早く売り切りたいんでしょうけど、ワタクシもアレクも男です。
仮に買ったとして着るわけ無いし、どうしようもないじゃありませんか。
「え、そんなこと言われたって、着もしない服なんて要りませんよ……」
「じゃ、クリスマスを一緒に過ごすお相手に着てもらう用にどうかしら?」
ワタクシ達は顔を見合わせ、同時にため息をつきました。
「そんな相手がいないから、300年以上も独身なんですけど……」
「クリスマスは家族と一緒に過ごす日だとお兄ちゃんは思うぞ!」
その言葉を聞いたジンは肩をすくめて、やれやれ……という顔をして提案しました。
「しょうがないわねぇ……じゃあ、買わないんならせめてこの服を完売させる方法を一緒に考えてちょうだい! あなた達も商売人なんだからそれくらいできるでしょ?」
――後になって思えば、ジンはワタクシ達に服を売りつける気なんてさらさら無く、本当の目的は売るのを手伝わせることだった気がします。まったく抜け目がない魔人です。
「しょうがないですねぇ。普段お世話になってますし、それくらいは協力いたしますよ」
「よし、そういうことなら俺も協力するぜ!」
「うふふ、ありがとうね~♪」
彼はワタクシ達が快諾したので満足そうな笑顔を浮かべました。
しかしクリスマスまでに100着も売るとは、なかなかに大変そうです。
ツテを頼って売り歩くにも、商品内容がこうもいかがわしい品では買うほうも恥ずかしくて、対面では買ってはくれないでしょう。
「ワタクシが思うに、これは通信販売で売るべきだと思います」
「そうよねぇ。アタシみたいな乙女がこれを買いに行くのはちょっと恥ずかしいしぃ~」
ジンは頬に手をあてて左右にくねくね動きました。ムキムキの体で乙女と言われてもあまり説得力がないですが、それはさておき。
「販売するサイトはすぐ用意できるとして……まずは宣伝のキャッチコピーが欲しいですねぇ」
そもそも商品名が「ドスケベセクシートナカイ」というド直球の名前ですから、せめてそれをカバーできるような買いやすいライトな感じにできればいいのですが。
「そうねぇ……『可愛いトナカイちゃん』とか?」
「なるほど。可愛いと付けばイメージは少しは良くなるかもですよね。じゃあそんな感じで」
「それと必要なのは宣伝用の文章かしら?」
「そうですね。ドスケベセクシートナカイを買うことが、いかに人生で重要であるかを訴える必要があります」
ワタクシは宣伝文の参考になりそうな本が無かったか、書庫に探しに行きました。
クリスマスは本来キリストの生誕を祝う日です。決して浮かれたカップルの日ではありません。
――えぇ、だからワタクシが家族であるアレクと毎年過ごしているのは正しいのです。
そんなことを考えながらしばらく本棚を見ていたのですが、残念ながら宣伝文のアイデアになりそうな書籍はありませんでした。
「うーん、サンタクロースは聖ニコラウス(サン・ニコラ)がモデルですからそっちのアプローチにすべきか、はたまたトナカイがいかに家畜として有能であるかアピールすべきか……」
いい案が出ずに悩みながら店に戻ってみると、ジンが「宣伝文はこれでいいかしら」とメモを見せてきました。
『あの人とのトクベツなクリスマスに! ラグジュアリーでふわもこキュートなトナカイ♪ ワンランク上のスペシャルコスチューム!』
それはワタクシには浮かばないワードの数々でした。乙女の語彙力恐るべし。
「なるほど、これなら女性にも喜んでいただけますでしょうね」
「でしょでしょ! じゃ、宣伝文はこれでオッケー♪ 後は着用イメージ写真が欲しいわねぇ……」
ジンが何か言いたげに、ちらりとワタクシを見たので嫌な予感がしました。
アンティークの店「蜃気楼」に、魔人のジンが白い手提げ袋を持ってやってきたのです。
「ねぇ、アレクちゃんにジェル子ちゃん。アタシ困ってるのよ。ちょっと助けてくれない?」
「いきなりどうしたんですか?」
「とりあえず、この服を見てちょうだい」
彼の大きな体に見合わぬ小さな手提げ袋の中から出てきたのは、ファーが付いたビキニと網タイツ。そしてトナカイの角を模したカチューシャ。
それは女性向けのクリスマス用コスチュームでした。パッケージには「ドスケベセクシートナカイ」と書かれています。
「な、なんですか。このいかがわしいコスチュームは……」
「うわ、すげーエッチな服だ! ――お、紐でサイズ調整できるな!」
好奇心旺盛な兄のアレクサンドルは、大喜びでコスチュームを引っ張ったり裏返したりして細かいところをチェックしています。
「こら、アレク。あんまり引っ張ったら破けますよ」
「だってどうなってるのか気になるじゃねぇか。……なぁジンちゃん、これがどうかしたのか? エッチだけど普通の服だよな?」
確かにアレクの言うようにいかがわしいデザインではありますが、特に呪いなどかかっている様子も無く、普通のクリスマス用のコスチュームに見えます。
「えぇ。別にいわく付きとかそういうのじゃないのよ~。でもね、手違いで100着も仕入れちゃったの!」
「え、100着もあるのかよ!」
「そう、だからこれをクリスマスまでになんとか売り切りたいのよ~! お願い! 買ってちょうだい!」
ジンは両手をあわせて拝むようなポーズで頼んできました。
季節商品はなるべく早く売り切りたいんでしょうけど、ワタクシもアレクも男です。
仮に買ったとして着るわけ無いし、どうしようもないじゃありませんか。
「え、そんなこと言われたって、着もしない服なんて要りませんよ……」
「じゃ、クリスマスを一緒に過ごすお相手に着てもらう用にどうかしら?」
ワタクシ達は顔を見合わせ、同時にため息をつきました。
「そんな相手がいないから、300年以上も独身なんですけど……」
「クリスマスは家族と一緒に過ごす日だとお兄ちゃんは思うぞ!」
その言葉を聞いたジンは肩をすくめて、やれやれ……という顔をして提案しました。
「しょうがないわねぇ……じゃあ、買わないんならせめてこの服を完売させる方法を一緒に考えてちょうだい! あなた達も商売人なんだからそれくらいできるでしょ?」
――後になって思えば、ジンはワタクシ達に服を売りつける気なんてさらさら無く、本当の目的は売るのを手伝わせることだった気がします。まったく抜け目がない魔人です。
「しょうがないですねぇ。普段お世話になってますし、それくらいは協力いたしますよ」
「よし、そういうことなら俺も協力するぜ!」
「うふふ、ありがとうね~♪」
彼はワタクシ達が快諾したので満足そうな笑顔を浮かべました。
しかしクリスマスまでに100着も売るとは、なかなかに大変そうです。
ツテを頼って売り歩くにも、商品内容がこうもいかがわしい品では買うほうも恥ずかしくて、対面では買ってはくれないでしょう。
「ワタクシが思うに、これは通信販売で売るべきだと思います」
「そうよねぇ。アタシみたいな乙女がこれを買いに行くのはちょっと恥ずかしいしぃ~」
ジンは頬に手をあてて左右にくねくね動きました。ムキムキの体で乙女と言われてもあまり説得力がないですが、それはさておき。
「販売するサイトはすぐ用意できるとして……まずは宣伝のキャッチコピーが欲しいですねぇ」
そもそも商品名が「ドスケベセクシートナカイ」というド直球の名前ですから、せめてそれをカバーできるような買いやすいライトな感じにできればいいのですが。
「そうねぇ……『可愛いトナカイちゃん』とか?」
「なるほど。可愛いと付けばイメージは少しは良くなるかもですよね。じゃあそんな感じで」
「それと必要なのは宣伝用の文章かしら?」
「そうですね。ドスケベセクシートナカイを買うことが、いかに人生で重要であるかを訴える必要があります」
ワタクシは宣伝文の参考になりそうな本が無かったか、書庫に探しに行きました。
クリスマスは本来キリストの生誕を祝う日です。決して浮かれたカップルの日ではありません。
――えぇ、だからワタクシが家族であるアレクと毎年過ごしているのは正しいのです。
そんなことを考えながらしばらく本棚を見ていたのですが、残念ながら宣伝文のアイデアになりそうな書籍はありませんでした。
「うーん、サンタクロースは聖ニコラウス(サン・ニコラ)がモデルですからそっちのアプローチにすべきか、はたまたトナカイがいかに家畜として有能であるかアピールすべきか……」
いい案が出ずに悩みながら店に戻ってみると、ジンが「宣伝文はこれでいいかしら」とメモを見せてきました。
『あの人とのトクベツなクリスマスに! ラグジュアリーでふわもこキュートなトナカイ♪ ワンランク上のスペシャルコスチューム!』
それはワタクシには浮かばないワードの数々でした。乙女の語彙力恐るべし。
「なるほど、これなら女性にも喜んでいただけますでしょうね」
「でしょでしょ! じゃ、宣伝文はこれでオッケー♪ 後は着用イメージ写真が欲しいわねぇ……」
ジンが何か言いたげに、ちらりとワタクシを見たので嫌な予感がしました。
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