79 / 163
season2
80話:ノッカー
しおりを挟む
ワタクシはきょとんとしている彼に背を向け、急いで書庫から鉱山関係の本を持ってきて調べました。
「うーん……時間はかかりますが黒字にできそうですねぇ。ねぇ、アレク。あなたのツテを辿って、いくらまでなら借金できますか?」
「そうだなぁ……3億ぐらいまでなら何とか」と答えました。
「とりあえず1億借りてさっさと税金を払ってしまいましょうか」
「わかった、なんとかする」
後はどうやって大金を稼ぐかですが……。
翌日、ワタクシとアレクは転送魔術でイングランドのコーンウォールのとある鉱山に来ていました。
「外は寒いですが、坑道の中は意外と暖かいですね。これなら問題なさそうです」
「しかし急に錫鉱山を買えだなんてどういうことだ。政府の人が錫はもう採れないから買ってもしょうがないって言ってたぞ」
「えぇ。そこでノッカーの力を借りるんです」
「ノッカー?」
「ノッカーはこの地方に住んでいる妖精の一種で、昔はノッカーが鉱夫達に良質の鉱脈を知らせていたのです。しかし文明の発達と共に、その信仰は徐々に失われて姿を消してしまったのですよ」
「それで……ジェルはその妖精に何をするつもりなんだ?」
事情が飲み込めないでいるアレクに、ワタクシはさらに説明を追加しました。
「今からノッカーを召喚して、鉱脈を教えてもらおうと思うんです。人間が知らないだけできっとまだ良い鉱脈があるはずですから」
「じゃあこの美味そうな飯はなんだ? パーティでもするのか?」
目の前にはワタクシが制作した魔法陣があり、その隣にはまるでピクニックのようにビニールシートが敷かれていて、アウトドア用のテーブルの上にたくさんの料理が入った大きなバスケットとピッチャーに入ったミルクが置かれています。
「えぇ、そういうことですね」
鉱脈を教えてもらうには、まずノッカーをもてなして友好的な関係を築かないといけません。
ご馳走やミルクはその為の準備なのでした。
「なるほどなぁ……」
「友好的な関係を築けるようにアレクも協力してくださいね。よろしくお願いしますよ」
「よし、お兄ちゃんに任せろ!」
アレクは大きく胸を張りました。
文献で調べて出来る限りの準備はしましたし、後はノッカーを召喚するだけです。
ワタクシは呪文を唱え、魔力を魔法陣へ注ぎ込みました。
「――善意の土の民。親切な優しき妖精よ。どうか今ここに再び姿を現したまえ……!」
輝く魔法陣から現れたのは背丈が50cm程度の小さな男性でした。鉱夫の服装をして小さなつるはしと布袋を持っています。
「なんだ。オマエら、ここに何しにきた!」
ノッカーはつるはしを振りかざし威嚇(いかく)してきました。しかしここで応戦してはいけません。
ワタクシは彼の目の前に跪きました。
「急にお呼び出ししたご無礼、どうかお許しくださいませ。ワタクシはジェルマン。しがない錬金術師でございます」
そう名乗ってじっとノッカーを見つめると、彼は頬を赤らめ構えを解いてつるはしを下ろしました。
「ふん、近頃にしては珍しく礼儀のわかる娘じゃないか。まぁ、話くらいは聞いてやらなくもない」
娘、と言われたのは引っかかりましたが、話の腰を折るのもなんでしたしワタクシが女性に間違われるのはよくあることなので、訂正せずにそのまま返しました。
「ありがとうございます。こちらは兄のアレクサンドル。ワタクシ達は伝説の鉱山の妖精であるあなた様にどうしてもお会いしたく参上したのです」
アレクも慌てて同じように跪いてノッカーに挨拶しました。
「えーっと、なんだっけ、あの。そうだ、俺。ノッカーさんのファンなんだ。だからどうしても会いたくて」
ファンと聞いて怪訝な顔をするノッカーに、ワタクシ達は食事とミルクを勧めました。
「お、これはフムス(豆のペースト)じゃないか! そっちはナスのフライ、そのケバブも美味そうだな」
「えぇ、上質のラム肉を使いました。ピタパンと一緒にどうぞ。よろしければ温かいスープもございますよ」
「おうおう、ありがとう。これは美味いなぁ」
反応はなかなかいい感じです。とある文献にノッカーの素性についてユダヤ人の亡霊であるという説があったのでイスラエル料理なら喜ぶのではと思ったのですが、どうやら上手くいったようです。
「うーん……時間はかかりますが黒字にできそうですねぇ。ねぇ、アレク。あなたのツテを辿って、いくらまでなら借金できますか?」
「そうだなぁ……3億ぐらいまでなら何とか」と答えました。
「とりあえず1億借りてさっさと税金を払ってしまいましょうか」
「わかった、なんとかする」
後はどうやって大金を稼ぐかですが……。
翌日、ワタクシとアレクは転送魔術でイングランドのコーンウォールのとある鉱山に来ていました。
「外は寒いですが、坑道の中は意外と暖かいですね。これなら問題なさそうです」
「しかし急に錫鉱山を買えだなんてどういうことだ。政府の人が錫はもう採れないから買ってもしょうがないって言ってたぞ」
「えぇ。そこでノッカーの力を借りるんです」
「ノッカー?」
「ノッカーはこの地方に住んでいる妖精の一種で、昔はノッカーが鉱夫達に良質の鉱脈を知らせていたのです。しかし文明の発達と共に、その信仰は徐々に失われて姿を消してしまったのですよ」
「それで……ジェルはその妖精に何をするつもりなんだ?」
事情が飲み込めないでいるアレクに、ワタクシはさらに説明を追加しました。
「今からノッカーを召喚して、鉱脈を教えてもらおうと思うんです。人間が知らないだけできっとまだ良い鉱脈があるはずですから」
「じゃあこの美味そうな飯はなんだ? パーティでもするのか?」
目の前にはワタクシが制作した魔法陣があり、その隣にはまるでピクニックのようにビニールシートが敷かれていて、アウトドア用のテーブルの上にたくさんの料理が入った大きなバスケットとピッチャーに入ったミルクが置かれています。
「えぇ、そういうことですね」
鉱脈を教えてもらうには、まずノッカーをもてなして友好的な関係を築かないといけません。
ご馳走やミルクはその為の準備なのでした。
「なるほどなぁ……」
「友好的な関係を築けるようにアレクも協力してくださいね。よろしくお願いしますよ」
「よし、お兄ちゃんに任せろ!」
アレクは大きく胸を張りました。
文献で調べて出来る限りの準備はしましたし、後はノッカーを召喚するだけです。
ワタクシは呪文を唱え、魔力を魔法陣へ注ぎ込みました。
「――善意の土の民。親切な優しき妖精よ。どうか今ここに再び姿を現したまえ……!」
輝く魔法陣から現れたのは背丈が50cm程度の小さな男性でした。鉱夫の服装をして小さなつるはしと布袋を持っています。
「なんだ。オマエら、ここに何しにきた!」
ノッカーはつるはしを振りかざし威嚇(いかく)してきました。しかしここで応戦してはいけません。
ワタクシは彼の目の前に跪きました。
「急にお呼び出ししたご無礼、どうかお許しくださいませ。ワタクシはジェルマン。しがない錬金術師でございます」
そう名乗ってじっとノッカーを見つめると、彼は頬を赤らめ構えを解いてつるはしを下ろしました。
「ふん、近頃にしては珍しく礼儀のわかる娘じゃないか。まぁ、話くらいは聞いてやらなくもない」
娘、と言われたのは引っかかりましたが、話の腰を折るのもなんでしたしワタクシが女性に間違われるのはよくあることなので、訂正せずにそのまま返しました。
「ありがとうございます。こちらは兄のアレクサンドル。ワタクシ達は伝説の鉱山の妖精であるあなた様にどうしてもお会いしたく参上したのです」
アレクも慌てて同じように跪いてノッカーに挨拶しました。
「えーっと、なんだっけ、あの。そうだ、俺。ノッカーさんのファンなんだ。だからどうしても会いたくて」
ファンと聞いて怪訝な顔をするノッカーに、ワタクシ達は食事とミルクを勧めました。
「お、これはフムス(豆のペースト)じゃないか! そっちはナスのフライ、そのケバブも美味そうだな」
「えぇ、上質のラム肉を使いました。ピタパンと一緒にどうぞ。よろしければ温かいスープもございますよ」
「おうおう、ありがとう。これは美味いなぁ」
反応はなかなかいい感じです。とある文献にノッカーの素性についてユダヤ人の亡霊であるという説があったのでイスラエル料理なら喜ぶのではと思ったのですが、どうやら上手くいったようです。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
結婚したくない腐女子が結婚しました
折原さゆみ
キャラ文芸
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。
仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。
本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは?
※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。
主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。
※番外編を随時更新中。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
後宮に住まうは竜の妃
朏猫(ミカヅキネコ)
キャラ文芸
後宮の一つ鳳凰宮の下女として働いていた阿繰は、蛇を捕まえたことで鳳凰宮を追い出されることになった。代わりの職場は同じ後宮の応竜宮で、そこの主は竜の化身だと噂される竜妃だ。ところが応竜宮には侍女一人おらず、出てきたのは自分と同じくらいの少女で……。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
忌み子と呼ばれた巫女が幸せな花嫁となる日
葉南子
キャラ文芸
★「忌み子」と蔑まれた巫女の運命が変わる和風シンデレラストーリー★
妖が災厄をもたらしていた時代。
滅妖師《めつようし》が妖を討ち、巫女がその穢れを浄化することで、人々は平穏を保っていた──。
巫女の一族に生まれた結月は、銀色の髪の持ち主だった。
その銀髪ゆえに結月は「忌巫女」と呼ばれ、義妹や叔母、侍女たちから虐げられる日々を送る。
黒髪こそ巫女の力の象徴とされる中で、結月の銀髪は異端そのものだったからだ。
さらに幼い頃から「義妹が見合いをする日に屋敷を出ていけ」と命じられていた。
その日が訪れるまで、彼女は黙って耐え続け、何も望まない人生を受け入れていた。
そして、その見合いの日。
義妹の見合い相手は、滅妖師の名門・霧生院家の次期当主だと耳にする。
しかし自分には関係のない話だと、屋敷最後の日もいつものように淡々と過ごしていた。
そんな中、ふと一頭の蝶が結月の前に舞い降りる──。
※他サイトでも掲載しております
転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜
万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。
こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?!
私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。
バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。
その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。
鬼が現れ戦う羽目に。
事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの?
この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。
鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます!
一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。
はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
太陽と月の終わらない恋の歌
泉野ジュール
キャラ文芸
ルザーンの街には怪盗がいる──
『黒の怪盗』と呼ばれる義賊は、商業都市ルザーンにはびこる悪人を狙うことで有名だった。
夜な夜な悪を狩り、盗んだ財産を貧しい家に届けるといわれる黒の怪盗は、ルザーンの光であり、影だ。しかし彼の正体を知るものはどこにもいない。
ただひとり、若き富豪ダヴィッド・サイデンに拾われた少女・マノンをのぞいては……。
夜を駆ける義賊と、彼に拾われた少女の、禁断の年の差純愛活劇!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる