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season2
79話:蜃気楼、倒産する
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ワタクシとアレクが自由気ままに経営している「蜃気楼」という名のアンティークの店。
これからもずっと何事もなくのんびりやっていけると思っていたのですが、まさかの倒産の危機となりました。
――いえ、別に店の物が売れないから倒産、というわけではないんですよ。
そもそもうちにお客さんが来るのは年に数回ですからね。後の来客は酒を飲みにくる氏神と、たまに行商にやってくる魔人くらいのものでして。
じゃあ何があったのかと言いますと――
事件はうちの店の存在を覆い隠している結界が壊れたことから始まります。
当店は日本のとある場所にありまして、普通の人間には店が認識できないように西洋魔術を使った結界を張り巡らせています。
地面に魔力を宿した宝石を埋めて、ひとつひとつ細かい条件付けをした魔術をかけていって最後にひとつに繋げるという、とても手間のかかるものです。
この結界のおかげで、通りすがりの人達には気付かれないけどワタクシが許可した存在や店の商品に導かれた限られた人だけが来店できる、という仕組みになっています。
ところがつい先日、兄のアレクサンドルが呼び寄せたUFOのせい(68話「アレクショボイメッセージ」参照)で結界が大破してしまいました。
だから今は店の存在が、その辺を歩いている人達に丸見えなのです。
結界が無くなってからは看板を出さず、窓にはカーテンを引いて中が見えないようにしていましたから、誰も来ることはないだろうと思っていました。
実際、何かを買いに来たお客さんは1人もいませんでしたし。
でも突然見慣れない西洋風の建物が現れたのがご近所のうわさにはなっていたようで、どういう経緯かはわかりませんが役所が調査に来たのです。
その結果、ワタクシ達に多額の税金が請求されることになってしまいました。
「いやー、日本のお役所ってすげぇなぁ。そういや、外国人でも長く住んでると税金払わないとダメだったような……うぇぇぇなんだこの金額!」
兄のアレクサンドルは、職員が残していった請求の書類を見て目を丸くしています。
「なぁ、ジェル。これさぁ、バーコード付きの支払い票でコンビニでも支払えますのでって渡されたけど――」
アレクから受け取った用紙を見ると、なんとゼロが8個も並んでいました。
「えっ……1億円ですか⁉ こんなの払えませんよ‼」
「払えたとしてもコンビニで1億支払うとか迷惑すぎるだろ……」
支払い期限は1週間後。
払えないと言った途端、再び職員が来て店の商品が並んだ棚にベタベタと差し押さえの紙が貼られました。
「アレク大変です! このまま払えないとなると、家や店を売却しないといけませんよ!」
「よし、今日から野宿だ! 大丈夫、寝袋もテントもあるぞ!」
アレクは散歩に出かける前の犬のような活き活きした顔をしています。
「いやいや、いきなり野宿ってことはないですが……」
しかしながら、このままだとここには住めませんし数々のコレクションたちを手放さないといけないのは確かです。
当店には神話にまつわるような伝説の品やいわく付きの物がたくさんあります。もしそれが競売にかけられて流出したら大変なことになってしまいます。
「結界を張りなおせば、もう取立てに来れなくなるんじゃないか?」
「ダメです。完全に破壊されたので、また最初から結界を張りなおしなんです。……最低でも2週間はかかります。支払い期限に間に合いません。それに我々は日本に住んでいるんですから税金はちゃんと払わないといけませんよ」
「じゃ、やっぱり野宿か? 野宿なのか⁉」
なんでこの人はこんなにうれしそうなんでしょうか。キャンプに行くんじゃないんですから。
「いいですか、アレク。お店の商品が良くない人の手に渡ることになるかもしれないんですよ? 道楽でやっている店ではありますが、倒産だけは避けないといけません」
「そうかもだけどさぁ。一億なんて金、どこから生み出すんだ?」
「そこなんですよねぇ」
「俺の友達なら貸してくれる人がいるとは思うけど、それじゃダメか?」
世界中を旅しているアレクの交友関係はとても広くて、財界人や政治家にまでツテがあるのです。
彼が困っているとなれば、きっとあちこちから救いの手が差し伸べられることでしょう。
「でも、どこかから借りて税金を支払っても結局マイナス1億なのは変わりません。ワタクシ達は何らかの形で1億稼がないといけないんですよ」
「そっかー。いっそのこと金やダイヤモンドでも掘り当てて一攫千金……ってわけにはいかねぇか、ハハハ」
アレクは少し眉を下げて困ったように笑いました。
「……ふむ。掘り当てて一攫千金。案外いいかもしれませんね」
これからもずっと何事もなくのんびりやっていけると思っていたのですが、まさかの倒産の危機となりました。
――いえ、別に店の物が売れないから倒産、というわけではないんですよ。
そもそもうちにお客さんが来るのは年に数回ですからね。後の来客は酒を飲みにくる氏神と、たまに行商にやってくる魔人くらいのものでして。
じゃあ何があったのかと言いますと――
事件はうちの店の存在を覆い隠している結界が壊れたことから始まります。
当店は日本のとある場所にありまして、普通の人間には店が認識できないように西洋魔術を使った結界を張り巡らせています。
地面に魔力を宿した宝石を埋めて、ひとつひとつ細かい条件付けをした魔術をかけていって最後にひとつに繋げるという、とても手間のかかるものです。
この結界のおかげで、通りすがりの人達には気付かれないけどワタクシが許可した存在や店の商品に導かれた限られた人だけが来店できる、という仕組みになっています。
ところがつい先日、兄のアレクサンドルが呼び寄せたUFOのせい(68話「アレクショボイメッセージ」参照)で結界が大破してしまいました。
だから今は店の存在が、その辺を歩いている人達に丸見えなのです。
結界が無くなってからは看板を出さず、窓にはカーテンを引いて中が見えないようにしていましたから、誰も来ることはないだろうと思っていました。
実際、何かを買いに来たお客さんは1人もいませんでしたし。
でも突然見慣れない西洋風の建物が現れたのがご近所のうわさにはなっていたようで、どういう経緯かはわかりませんが役所が調査に来たのです。
その結果、ワタクシ達に多額の税金が請求されることになってしまいました。
「いやー、日本のお役所ってすげぇなぁ。そういや、外国人でも長く住んでると税金払わないとダメだったような……うぇぇぇなんだこの金額!」
兄のアレクサンドルは、職員が残していった請求の書類を見て目を丸くしています。
「なぁ、ジェル。これさぁ、バーコード付きの支払い票でコンビニでも支払えますのでって渡されたけど――」
アレクから受け取った用紙を見ると、なんとゼロが8個も並んでいました。
「えっ……1億円ですか⁉ こんなの払えませんよ‼」
「払えたとしてもコンビニで1億支払うとか迷惑すぎるだろ……」
支払い期限は1週間後。
払えないと言った途端、再び職員が来て店の商品が並んだ棚にベタベタと差し押さえの紙が貼られました。
「アレク大変です! このまま払えないとなると、家や店を売却しないといけませんよ!」
「よし、今日から野宿だ! 大丈夫、寝袋もテントもあるぞ!」
アレクは散歩に出かける前の犬のような活き活きした顔をしています。
「いやいや、いきなり野宿ってことはないですが……」
しかしながら、このままだとここには住めませんし数々のコレクションたちを手放さないといけないのは確かです。
当店には神話にまつわるような伝説の品やいわく付きの物がたくさんあります。もしそれが競売にかけられて流出したら大変なことになってしまいます。
「結界を張りなおせば、もう取立てに来れなくなるんじゃないか?」
「ダメです。完全に破壊されたので、また最初から結界を張りなおしなんです。……最低でも2週間はかかります。支払い期限に間に合いません。それに我々は日本に住んでいるんですから税金はちゃんと払わないといけませんよ」
「じゃ、やっぱり野宿か? 野宿なのか⁉」
なんでこの人はこんなにうれしそうなんでしょうか。キャンプに行くんじゃないんですから。
「いいですか、アレク。お店の商品が良くない人の手に渡ることになるかもしれないんですよ? 道楽でやっている店ではありますが、倒産だけは避けないといけません」
「そうかもだけどさぁ。一億なんて金、どこから生み出すんだ?」
「そこなんですよねぇ」
「俺の友達なら貸してくれる人がいるとは思うけど、それじゃダメか?」
世界中を旅しているアレクの交友関係はとても広くて、財界人や政治家にまでツテがあるのです。
彼が困っているとなれば、きっとあちこちから救いの手が差し伸べられることでしょう。
「でも、どこかから借りて税金を支払っても結局マイナス1億なのは変わりません。ワタクシ達は何らかの形で1億稼がないといけないんですよ」
「そっかー。いっそのこと金やダイヤモンドでも掘り当てて一攫千金……ってわけにはいかねぇか、ハハハ」
アレクは少し眉を下げて困ったように笑いました。
「……ふむ。掘り当てて一攫千金。案外いいかもしれませんね」
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