それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season2

76話:豪華客船……?

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 豪華な船という言葉に心を動かされたワタクシは、アレクに勧められるままに一緒に船に乗って帰ることにしました。
 幸い船室に空きがあったらしく、予約は簡単に取れたようです。

「ジェルちゃん喜べ! スィートルーム取れちゃったぞ!」

「え、本当ですか⁉」

 まさかスイートルームとは。そんな豪華な船旅などめったにする機会がありませんので、少し楽しみになってきました。

 しかし、しばらく港で船を待っていたのですが、一向にそれらしき船がくる気配がありません。

「おかしいなぁ。そろそろ到着してもいいはずなんだけどなぁ……」

 アレクは沖の方を眺めながらつぶやきました。
 つい先ほどまで空が晴れていて水面がキラキラと輝いていたはずなのに、いつの間にかどんよりと曇っていて今は少し薄暗く感じられます。

 どうしようかと思ったその時、沖の方に船影が現れてゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えました。

「アレク、あれですかね?」

「うん? あぁ、きっとそうだな」

 ワタクシ達は、喜んで乗船口へと向かいました。
 しかし小さく水しぶきをあげながらゆっくり入港してきた船はスイートルームを完備した近代的な豪華客船とは正反対の、まるで大航海時代のキャラック船のような見た目の帆船でした。

「ずいぶんレトロなデザインですね。こういうのが最近の流行りなんですか?」

 アレクもそれは完全に予想外だったらしく首をひねっています。

「でも、他に船もねぇし、思ってたのとはちょっと違うけどこれじゃねぇかな?」

「懐古趣味のお客さん向けに、見た目をカスタムしてるんですかねぇ」

 不審に思いつつも乗り込みますと、周囲は霧でぼやけていて視界が少し悪い上に甲板の上には誰もいないようです。

「え、ちょっと。これ本当に大丈夫なんですか?」

「変だな。おーい! 誰かいないのか~?」

 アレクが呼びかけても返事はまったく返ってきませんでした。そしてワタクシ達が戸惑っている間に、船はあっという間に岸を離れてしまったではありませんか。

「え、ちょっと! 出航しちゃいましたよ⁉」

「なんだ、どうなってるんだ⁉ ……ん、なんだこの音?」

 驚く我々の背後から、ガチャガチャと硬い物が重なるような音がしています。音のした方を振り返ると、そこには船乗りの格好をした骸骨が立っていたのです。

「うわ、びっくりしたー。おいおい、ハロウィンはもう終わってるぞ?」

「おや、こんなところにスケルトンがいるとは。誰が召喚したんでしょうかね……?」

 びっくりしたと言いつつ全然驚いた様子の無いアレクと真顔のワタクシを見て、骸骨は警戒するように後ずさりしました。

「なんだこいつら。久しぶりに人間が乗ってきたから脅かして怖がらせてやろうと思ったのに……オイラが怖くないのか?」

「ジャパニーズゴーストなら怖いが、物理攻撃が効きそうな相手は怖くねぇなぁ」

「ワタクシもスケルトンなら召喚できますからねぇ……骸骨は見慣れてますよ」

 期待はずれで申し訳ないですが、ワタクシ達は今までに不思議な出来事を散々経験していますから少々のことでは動じないのです。
 骸骨は拍子抜けしたようでしたが、気を取り直したらしく握手を求めながら陽気に話しかけてきました。

「変な奴らだけど、まぁいいや。オイラはジョンだ。よろしくな!」

「おー、よろしくな、ジョン!」

「よろしく。骨と握手するのって変な感じですねぇ」

 ジョンから聞き出してわかったのは、この船が幽霊船であることと、長い間あてもなく彷徨っているということでした。
 どうりで古くて汚いはずです。よく見ると甲板はあちこち破損していますし海草や貝殻の破片などで汚れていて悪臭を放っています。まさに幽霊船らしい恐ろしげな光景です。

 アレクの方を見ると、彼も同じことを思っているらしく甲板を見て顔をしかめていました。

「なぁなぁ。ジョン、デッキブラシはどこだ?」

「え? 倉庫にあるけど……何するつもりだよ?」

 骸骨のくせに可愛らしく首をかしげるジョンに対し、アレクは汚れた甲板を指差しました。

「掃除しようぜ! こんな不衛生な船にいたら病気になって死んじまうぞ⁉」

「いや、オレもう死んでるけど……」

 そんなことを話していると、ジョンによく似た骸骨姿の乗組員達がなんだなんだと言いながら集まってきました。

「どうしましょう、囲まれちゃいましたよ」

「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せろ」

 アレクは前に出て、集まってきた20体くらいの骸骨達に爽やかな笑顔で話しかけました。

「おー、皆。よく来たな! 俺はジョンの友達のアレクだ!」

 予想外のリアクションに戸惑う骸骨達に対し、アレクは両手を大きく広げて演説し始めました。
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