69 / 163
season1
69話:宇宙へのメッセージ
しおりを挟む
「あの。もうちょっと、宇宙人にとって有益な情報を送るべきだと思うんですが」
「有益ってどんなのだよ?」
「たとえば地球の人口とか……」
「そういや地球の人口って何人だ? 俺とジェルがいて……シロがいて、ジンちゃんがいて。スサノオとか神社の人もいて。そもそも神様は人口に入れていいのか?」
アレクが考え込んで答えのでないループに入ってしまったので、ワタクシは正解を答えました。
「77億人らしいですよ。神様や魔人はノーカンです」
「人ってたくさんいるんだな……」
アレクは感心しながらメモに『人はたくさんいます』と書き込みました。
「あとは太陽系の絵が必要じゃないでしょうか?」
「何のために描くんだ?」
「地球から発信されたメッセージですよって知らせる為です」
「なるほど。よし、お兄ちゃんが描いてやるよ!」
アレクは家からスケッチブックを持ってきて、スマホで検索した太陽系の図を見ながら惑星を描いていきました。
「まず太陽があって……おい、水星すげぇちっちゃいな……木星と土星はデカすぎだろ。えーっと、うちはここです。近くまで来たら寄ってくれ。――よし、オッケーだ!」
彼は地球に矢印を追加して、うちの店の住所を書き込んでいました。
「これでいいのか?」
「えぇ。でももっと、わざわざ解読するだけの価値のある情報が欲しいですよねぇ」
「しょうがねぇなぁ。お兄ちゃん秘蔵のとっておきの写真を放出してやるか……」
アレクはスマホの画像フォルダを確認し始めました。とっておきの写真……?
「これを見れば宇宙人も大興奮まちがいなしだな!」
「ちょ、ちょっとアレク、いかがわしいものは……あっ」
アレクがスマホを差し出すと、画面には可愛い柴犬の写真が何枚も並んでいました。
「俺のワンちゃんコレクションだ! いいだろ~!」
「――はぁ。じゃ、その犬の写真も送りますか」
ワタクシは写真をプリントアウトした紙や絵、そしてメモをお手製のパラボラアンテナが設置された魔法陣の上に置きました。
「さて……これで魔法陣を起動すれば宇宙へメッセージが送られるはずです」
ワタクシは手をかざし、呪文を唱えました。
「――我はクロノスの眼を欺きし者。今ここに新たなる門は開かれた。はるか彼方にありし存在よ、我が問いに答えよ!」
呪文を唱え終わると同時に魔法陣が光り輝き、光が中華なべを経由して自撮り棒の先端から細い光の帯がレーザー光線のように空に向けて一度放たれると、辺りに静寂が訪れました。
「……え、これだけ?」
「これだけですよ?」
アレクは不満そうに口をとがらせました。
「おい、ジェル。どういうことだ? 宇宙人から返事は来ないのか?」
「返事は来ても2万年後とかじゃないですかね? だって、アレシボメッセージも送っただけで返事はきてませんし」
「なんだよ、つまんねぇの~。おーい! 宇宙人! メッセージ受け取ったなら返事ぐらいしろ~!」
夕日が落ちて暗くなりはじめた空に向かって、彼は大声で呼びかけました。
「ちょっと、アレク。そんなこと言ってもUFOなんて来るわけが……えぇっ⁉」
急に地面が照らされたので上を見たら、そこにはピカピカと光を点滅させる巨大な円盤の姿があったのです。
この周囲には店の存在を隠すための結界が張り巡らせてあるのですが、それがピシッと音を立てたかと思うと、一瞬ですべて破壊されました。なんとも恐ろしいパワーです。
「あぁぁぁぁぁぁ‼ ワタクシの魔術結界がぁぁぁぁぁぁ~‼」
「やったぁ! マジでUFOきた! メッセージ届いたんだな‼」
アレクは結界が壊れたことなんかまったく気にならないらしく、空を見上げて大喜びしています。
すると円盤から柱のような太い光が射して、その中に二人組みと思われる人影らしきものが見えました。
「やった、宇宙人だ!」
「えぇっ⁉ どうしましょう、もし友好的な宇宙人じゃなかったら――」
相手は結界を一瞬で破壊するほどの高い能力の持ち主です。もし今から地球を侵略する、なんてことになったりしたら……
ワタクシが最悪の事態を想定して身構えると、光の向こうから間の抜けた男性の声が聞こえました。
「なんや。誰かと思ったらオマエらかいな」
目の前にいたのは、オカルト雑誌で見たような小柄で全身銀色で覆われた身体に大きく真っ黒な目の典型的な宇宙人達です。
しかし、お揃いのアロハシャツにステテコ、そして下駄を履いていました。
「え、宇宙人……ですよね?」
「せやで? あんさんの顔も知ってるで。あんたら正月に神社で羽根突きしとったろ?」
宇宙人は親しげに話しかけてきました。
「あー! あんときの! 俺にアンテナぶっ刺した宇宙人かよ!」
アレクが大声で反応しました。そういえば、お正月に神社で羽根突きをした際にUFOが来てアレクと知らないおっさんが拉致されるという事件がありましたっけ。
ワタクシ達の反応をよそに、宇宙人たちはマイペースに話し始めました。
「なんや、せっかくカッコえぇとこ見せよう思って、張り切ってUFO乗って来たのに損したわー」
「せやな。ここやったら別にチャリでよかったわ」
「え、そんなご近所にお住まいなんですか⁉」
「そうやで。ここから真っ直ぐ行ったらパチ屋あるの知ってる? そこの角曲がったとこ」
たった今、政府に報告しないといけないような重要な情報を掴んだ気がしますが、ワタクシは聞かなかったことにしておこうと思いました。
「ところで、犬どこ?」
「え、犬……?」
「柴犬の写真、送ってきたやん。うちら犬触りに来たんやけど」
ワタクシ達が柴犬を飼っていないことを知ると、宇宙人達はがっかりしました。
「なんや。ほな帰るわ」
「自分ら、あんましょうもないことしたらあかんで。ほな、さいなら」
宇宙人は光の柱の中へ戻って行き、円盤の中に吸い込まれました。そしてUFOは音も無くパチンコ屋のある方向へと消えて行ったのです。
「宇宙人、すっかり地球に馴染んでましたね……」
「そうだな……」
星が輝き始めた真っ暗な空を、アレクとワタクシはぼんやりと見つめていたのでした。
「有益ってどんなのだよ?」
「たとえば地球の人口とか……」
「そういや地球の人口って何人だ? 俺とジェルがいて……シロがいて、ジンちゃんがいて。スサノオとか神社の人もいて。そもそも神様は人口に入れていいのか?」
アレクが考え込んで答えのでないループに入ってしまったので、ワタクシは正解を答えました。
「77億人らしいですよ。神様や魔人はノーカンです」
「人ってたくさんいるんだな……」
アレクは感心しながらメモに『人はたくさんいます』と書き込みました。
「あとは太陽系の絵が必要じゃないでしょうか?」
「何のために描くんだ?」
「地球から発信されたメッセージですよって知らせる為です」
「なるほど。よし、お兄ちゃんが描いてやるよ!」
アレクは家からスケッチブックを持ってきて、スマホで検索した太陽系の図を見ながら惑星を描いていきました。
「まず太陽があって……おい、水星すげぇちっちゃいな……木星と土星はデカすぎだろ。えーっと、うちはここです。近くまで来たら寄ってくれ。――よし、オッケーだ!」
彼は地球に矢印を追加して、うちの店の住所を書き込んでいました。
「これでいいのか?」
「えぇ。でももっと、わざわざ解読するだけの価値のある情報が欲しいですよねぇ」
「しょうがねぇなぁ。お兄ちゃん秘蔵のとっておきの写真を放出してやるか……」
アレクはスマホの画像フォルダを確認し始めました。とっておきの写真……?
「これを見れば宇宙人も大興奮まちがいなしだな!」
「ちょ、ちょっとアレク、いかがわしいものは……あっ」
アレクがスマホを差し出すと、画面には可愛い柴犬の写真が何枚も並んでいました。
「俺のワンちゃんコレクションだ! いいだろ~!」
「――はぁ。じゃ、その犬の写真も送りますか」
ワタクシは写真をプリントアウトした紙や絵、そしてメモをお手製のパラボラアンテナが設置された魔法陣の上に置きました。
「さて……これで魔法陣を起動すれば宇宙へメッセージが送られるはずです」
ワタクシは手をかざし、呪文を唱えました。
「――我はクロノスの眼を欺きし者。今ここに新たなる門は開かれた。はるか彼方にありし存在よ、我が問いに答えよ!」
呪文を唱え終わると同時に魔法陣が光り輝き、光が中華なべを経由して自撮り棒の先端から細い光の帯がレーザー光線のように空に向けて一度放たれると、辺りに静寂が訪れました。
「……え、これだけ?」
「これだけですよ?」
アレクは不満そうに口をとがらせました。
「おい、ジェル。どういうことだ? 宇宙人から返事は来ないのか?」
「返事は来ても2万年後とかじゃないですかね? だって、アレシボメッセージも送っただけで返事はきてませんし」
「なんだよ、つまんねぇの~。おーい! 宇宙人! メッセージ受け取ったなら返事ぐらいしろ~!」
夕日が落ちて暗くなりはじめた空に向かって、彼は大声で呼びかけました。
「ちょっと、アレク。そんなこと言ってもUFOなんて来るわけが……えぇっ⁉」
急に地面が照らされたので上を見たら、そこにはピカピカと光を点滅させる巨大な円盤の姿があったのです。
この周囲には店の存在を隠すための結界が張り巡らせてあるのですが、それがピシッと音を立てたかと思うと、一瞬ですべて破壊されました。なんとも恐ろしいパワーです。
「あぁぁぁぁぁぁ‼ ワタクシの魔術結界がぁぁぁぁぁぁ~‼」
「やったぁ! マジでUFOきた! メッセージ届いたんだな‼」
アレクは結界が壊れたことなんかまったく気にならないらしく、空を見上げて大喜びしています。
すると円盤から柱のような太い光が射して、その中に二人組みと思われる人影らしきものが見えました。
「やった、宇宙人だ!」
「えぇっ⁉ どうしましょう、もし友好的な宇宙人じゃなかったら――」
相手は結界を一瞬で破壊するほどの高い能力の持ち主です。もし今から地球を侵略する、なんてことになったりしたら……
ワタクシが最悪の事態を想定して身構えると、光の向こうから間の抜けた男性の声が聞こえました。
「なんや。誰かと思ったらオマエらかいな」
目の前にいたのは、オカルト雑誌で見たような小柄で全身銀色で覆われた身体に大きく真っ黒な目の典型的な宇宙人達です。
しかし、お揃いのアロハシャツにステテコ、そして下駄を履いていました。
「え、宇宙人……ですよね?」
「せやで? あんさんの顔も知ってるで。あんたら正月に神社で羽根突きしとったろ?」
宇宙人は親しげに話しかけてきました。
「あー! あんときの! 俺にアンテナぶっ刺した宇宙人かよ!」
アレクが大声で反応しました。そういえば、お正月に神社で羽根突きをした際にUFOが来てアレクと知らないおっさんが拉致されるという事件がありましたっけ。
ワタクシ達の反応をよそに、宇宙人たちはマイペースに話し始めました。
「なんや、せっかくカッコえぇとこ見せよう思って、張り切ってUFO乗って来たのに損したわー」
「せやな。ここやったら別にチャリでよかったわ」
「え、そんなご近所にお住まいなんですか⁉」
「そうやで。ここから真っ直ぐ行ったらパチ屋あるの知ってる? そこの角曲がったとこ」
たった今、政府に報告しないといけないような重要な情報を掴んだ気がしますが、ワタクシは聞かなかったことにしておこうと思いました。
「ところで、犬どこ?」
「え、犬……?」
「柴犬の写真、送ってきたやん。うちら犬触りに来たんやけど」
ワタクシ達が柴犬を飼っていないことを知ると、宇宙人達はがっかりしました。
「なんや。ほな帰るわ」
「自分ら、あんましょうもないことしたらあかんで。ほな、さいなら」
宇宙人は光の柱の中へ戻って行き、円盤の中に吸い込まれました。そしてUFOは音も無くパチンコ屋のある方向へと消えて行ったのです。
「宇宙人、すっかり地球に馴染んでましたね……」
「そうだな……」
星が輝き始めた真っ暗な空を、アレクとワタクシはぼんやりと見つめていたのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
生贄娘と呪われ神の契約婚
乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。
二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。
しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。
生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。
それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。
これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。
6年3組わたしのゆうしゃさま
はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏
夏休みが終わり登校すると
クオラスメイトの少女が1人
この世から消えていた
ある事故をきっかけに彼女が亡くなる
一年前に時を遡った主人公
なぜ彼女は死んだのか
そして彼女を救うことは出来るのか?
これは小さな勇者と彼女の物語
【完結】似て非なる双子の結婚
野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。
隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。
そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。
ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。
たまゆら姫と選ばれなかった青の龍神
濃子
キャラ文芸
「帰れ」、と言われても母との約束があるのですがーー。
玉響雪音(たまゆらゆきね)は母の静子から「借金があるので、そこで働いて欲しい」と頼まれ、秘境のなかの旅館に向かいます。
そこでは、子供が若女将をしていたり働いている仲居も子供ばかりーー。
変わった旅館だな、と思っていると、当主の元に連れて行かれ挨拶をしたとたんにーー。
「おまえの顔など見たくない」とは、私が何かしましたか?
周囲の願いはふたりが愛し合う仲になること。まったく合わない、雪音と、青の龍神様は、恋人になることができるのでしょうかーー。
不定期の連載になりますが、よろしくお願い致します。
太陽と月の終わらない恋の歌
泉野ジュール
キャラ文芸
ルザーンの街には怪盗がいる──
『黒の怪盗』と呼ばれる義賊は、商業都市ルザーンにはびこる悪人を狙うことで有名だった。
夜な夜な悪を狩り、盗んだ財産を貧しい家に届けるといわれる黒の怪盗は、ルザーンの光であり、影だ。しかし彼の正体を知るものはどこにもいない。
ただひとり、若き富豪ダヴィッド・サイデンに拾われた少女・マノンをのぞいては……。
夜を駆ける義賊と、彼に拾われた少女の、禁断の年の差純愛活劇!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる