それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

文字の大きさ
上 下
68 / 163
season1

68話:アレクショボイメッセージ

しおりを挟む
 それは街路樹が色づき始め、秋が深まったある日の夕方のことでした。

 アンティークの店「蜃気楼」のカウンターでは古い科学雑誌を読むワタクシと、棚の掃除をする兄のアレクサンドルの姿がありました。

「なぁ、ジェル。さっきから何読んでるんだ?」

「アレシボメッセージについての記事ですよ」

「あれしぼめっせーじ? なんだそりゃ?」

 ハンディモップで棚の上の埃を取っていた彼の手がぴたり、と止まりました。

「1974年にアメリカが、宇宙人に向けてメッセージを送ったんですよ。地球のことや人間のことなどを信号にして電波で宇宙へ発信したんです」

 アレクにもわかるように簡単に説明したところ、彼は完全に掃除はそっちのけで興味津々といった顔でやって来て雑誌を覗き込みます。

「なんだこの絵……ちっちゃい四角がいっぱいだけど、これがメッセージなのか?」

「えぇ。1679個の小さな四角を73行23列に並べ替えると、意味のある図形になるんですよ」

 その説明に対し、アレクは軽く頭をかいて眉を寄せながら素直な感想を述べました。 

「よくわかんねぇなぁ。もっとわかりやすいメッセージにすりゃいいのに」

「そうですねぇ。魔術を応用したらもっとわかりやすい形でいろんな情報を送れると思いますが……」

 ワタクシが雑誌のページをめくりながら何気なくそう答えると、彼は玩具を見つけた子どものような弾んだ声を出しました。

「え、マジで⁉ 魔術を応用したら……ってことは、ジェルも宇宙人にメッセージ送れるのか?」

「えぇ。やったことはないですけど、たぶんできると思いますよ」

「すげぇな! 俺も宇宙人にメッセージ送りたい!」

「えぇ……? そんなこと言って掃除をサボる気じゃないんですか?」

 ワタクシの冷ややかな視線を軽く受け流して、アレクはニヤリと笑いました。

「ジェルだって本当に魔術で宇宙人にメッセージが送れるのか興味あるだろ? だったら今日の掃除はこれでオシマイだ!」

 彼は反論する余地を与えず、さっさとハンディモップを片付けてしまいました。

「しょうがないですねぇ……」

 こうしてワタクシ達は、実験も兼ねて宇宙人にメッセージを送る準備を始めたのです。
 アレクが見守る中、ワタクシは店の前で特殊に調合したインクで地面に魔法陣を描いていきます。

「魔法陣はこれでよし。あとはパラボラアンテナになる物があればベストなんですが……」

「パラボラアンテナ?」

「えぇ。ほら、このページにあるような浅い半球みたいな形の。形状が似てる物なら何でも構いませんが……」

「あぁ、あるある!」

 雑誌に掲載されているアンテナの写真を見せると、彼は大きく頷いて店の奥へ何か取りに行きました。
 しかし、我が家にそんな物あったでしょうか……?

「おい、ジェル。これはどうだ?」

 彼は家から大きな鉄製の中華なべと自撮り棒を持ってきました。

「……意外とありかもですね」

 中華なべをスタンドに傾けて立て、中央に伸ばした自撮り棒を貼り付けますと、見た目は残念ですが一応形状としては問題ないような雰囲気となりました。

「さて。あとはどんなメッセージを送るかですが。とりあえずメモに書き出して、後でまとめて信号に変換しましょう」

 ワタクシは、店のカウンターの上にあったメモ用紙とペンをアレクに渡しました。

「何を発信しようかなぁ~」

「そうですねぇ。まずは、本家のアレシボメッセージを参考に内容を考えましょうか」

 アメリカが送ったメッセージには1から10までの数字に、水素・炭素・窒素・酸素・リンの原子番号や、デオキシリボ核酸のヌクレオチドに含まれる糖と塩基の化学式やDNAに含まれるヌクレオチドの数……といったことが書かれているのですが。

「ヌクレオチド……? そんなよくわからん話はいらねぇな。それよりお兄ちゃんオススメのハンバーグのレシピ入れとこうぜ!」

 アレクが一蹴したことにより、我々のメッセージには『合びき肉300gたまねぎ1個』といった内容が記載されることになりました。

「他にはどんなこと書いたらいいんだ?」

「そうですねぇ……人間がどういう姿かわかる資料でしょうか」

「俺の写真でいいか?」

「アレクの容姿は、平均からちょっと外れてる感じがしますが……」

「いいんだよ!『地球人はこんなカッコいいのか!』って、宇宙人をびっくりさせようぜ!」
 
 そう言いながらアレクはズボンのポケットからスマホをサッと取り出し、腕を伸ばして自分の姿を手際よく撮影しました。

「よし、せっかくだからアプリで盛ろう。美白MAXにして、目もキラキラにでっかくして……」

 写真を撮るのは上手いのに加工は苦手なのか、アレクがアプリをタップするたびにアゴが異様に細長くなり目が巨大化して彼の顔がどんどん人間離れしていきます。

「うわ、気持ち悪い」

「加工すんのって案外難しいもんだな……」

 現時点で、宇宙へ発信するのがハンバーグのレシピと気持ち悪いアレクの写真だけなんですが、これでいいんでしょうか。――いや、絶対よくない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜

古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。 「これ描いたの、お前か?」 呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。 腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。 内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。 なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。 全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません…… 相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。 「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...