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season1
68話:アレクショボイメッセージ
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それは街路樹が色づき始め、秋が深まったある日の夕方のことでした。
アンティークの店「蜃気楼」のカウンターでは古い科学雑誌を読むワタクシと、棚の掃除をする兄のアレクサンドルの姿がありました。
「なぁ、ジェル。さっきから何読んでるんだ?」
「アレシボメッセージについての記事ですよ」
「あれしぼめっせーじ? なんだそりゃ?」
ハンディモップで棚の上の埃を取っていた彼の手がぴたり、と止まりました。
「1974年にアメリカが、宇宙人に向けてメッセージを送ったんですよ。地球のことや人間のことなどを信号にして電波で宇宙へ発信したんです」
アレクにもわかるように簡単に説明したところ、彼は完全に掃除はそっちのけで興味津々といった顔でやって来て雑誌を覗き込みます。
「なんだこの絵……ちっちゃい四角がいっぱいだけど、これがメッセージなのか?」
「えぇ。1679個の小さな四角を73行23列に並べ替えると、意味のある図形になるんですよ」
その説明に対し、アレクは軽く頭をかいて眉を寄せながら素直な感想を述べました。
「よくわかんねぇなぁ。もっとわかりやすいメッセージにすりゃいいのに」
「そうですねぇ。魔術を応用したらもっとわかりやすい形でいろんな情報を送れると思いますが……」
ワタクシが雑誌のページをめくりながら何気なくそう答えると、彼は玩具を見つけた子どものような弾んだ声を出しました。
「え、マジで⁉ 魔術を応用したら……ってことは、ジェルも宇宙人にメッセージ送れるのか?」
「えぇ。やったことはないですけど、たぶんできると思いますよ」
「すげぇな! 俺も宇宙人にメッセージ送りたい!」
「えぇ……? そんなこと言って掃除をサボる気じゃないんですか?」
ワタクシの冷ややかな視線を軽く受け流して、アレクはニヤリと笑いました。
「ジェルだって本当に魔術で宇宙人にメッセージが送れるのか興味あるだろ? だったら今日の掃除はこれでオシマイだ!」
彼は反論する余地を与えず、さっさとハンディモップを片付けてしまいました。
「しょうがないですねぇ……」
こうしてワタクシ達は、実験も兼ねて宇宙人にメッセージを送る準備を始めたのです。
アレクが見守る中、ワタクシは店の前で特殊に調合したインクで地面に魔法陣を描いていきます。
「魔法陣はこれでよし。あとはパラボラアンテナになる物があればベストなんですが……」
「パラボラアンテナ?」
「えぇ。ほら、このページにあるような浅い半球みたいな形の。形状が似てる物なら何でも構いませんが……」
「あぁ、あるある!」
雑誌に掲載されているアンテナの写真を見せると、彼は大きく頷いて店の奥へ何か取りに行きました。
しかし、我が家にそんな物あったでしょうか……?
「おい、ジェル。これはどうだ?」
彼は家から大きな鉄製の中華なべと自撮り棒を持ってきました。
「……意外とありかもですね」
中華なべをスタンドに傾けて立て、中央に伸ばした自撮り棒を貼り付けますと、見た目は残念ですが一応形状としては問題ないような雰囲気となりました。
「さて。あとはどんなメッセージを送るかですが。とりあえずメモに書き出して、後でまとめて信号に変換しましょう」
ワタクシは、店のカウンターの上にあったメモ用紙とペンをアレクに渡しました。
「何を発信しようかなぁ~」
「そうですねぇ。まずは、本家のアレシボメッセージを参考に内容を考えましょうか」
アメリカが送ったメッセージには1から10までの数字に、水素・炭素・窒素・酸素・リンの原子番号や、デオキシリボ核酸のヌクレオチドに含まれる糖と塩基の化学式やDNAに含まれるヌクレオチドの数……といったことが書かれているのですが。
「ヌクレオチド……? そんなよくわからん話はいらねぇな。それよりお兄ちゃんオススメのハンバーグのレシピ入れとこうぜ!」
アレクが一蹴したことにより、我々のメッセージには『合びき肉300gたまねぎ1個』といった内容が記載されることになりました。
「他にはどんなこと書いたらいいんだ?」
「そうですねぇ……人間がどういう姿かわかる資料でしょうか」
「俺の写真でいいか?」
「アレクの容姿は、平均からちょっと外れてる感じがしますが……」
「いいんだよ!『地球人はこんなカッコいいのか!』って、宇宙人をびっくりさせようぜ!」
そう言いながらアレクはズボンのポケットからスマホをサッと取り出し、腕を伸ばして自分の姿を手際よく撮影しました。
「よし、せっかくだからアプリで盛ろう。美白MAXにして、目もキラキラにでっかくして……」
写真を撮るのは上手いのに加工は苦手なのか、アレクがアプリをタップするたびにアゴが異様に細長くなり目が巨大化して彼の顔がどんどん人間離れしていきます。
「うわ、気持ち悪い」
「加工すんのって案外難しいもんだな……」
現時点で、宇宙へ発信するのがハンバーグのレシピと気持ち悪いアレクの写真だけなんですが、これでいいんでしょうか。――いや、絶対よくない。
アンティークの店「蜃気楼」のカウンターでは古い科学雑誌を読むワタクシと、棚の掃除をする兄のアレクサンドルの姿がありました。
「なぁ、ジェル。さっきから何読んでるんだ?」
「アレシボメッセージについての記事ですよ」
「あれしぼめっせーじ? なんだそりゃ?」
ハンディモップで棚の上の埃を取っていた彼の手がぴたり、と止まりました。
「1974年にアメリカが、宇宙人に向けてメッセージを送ったんですよ。地球のことや人間のことなどを信号にして電波で宇宙へ発信したんです」
アレクにもわかるように簡単に説明したところ、彼は完全に掃除はそっちのけで興味津々といった顔でやって来て雑誌を覗き込みます。
「なんだこの絵……ちっちゃい四角がいっぱいだけど、これがメッセージなのか?」
「えぇ。1679個の小さな四角を73行23列に並べ替えると、意味のある図形になるんですよ」
その説明に対し、アレクは軽く頭をかいて眉を寄せながら素直な感想を述べました。
「よくわかんねぇなぁ。もっとわかりやすいメッセージにすりゃいいのに」
「そうですねぇ。魔術を応用したらもっとわかりやすい形でいろんな情報を送れると思いますが……」
ワタクシが雑誌のページをめくりながら何気なくそう答えると、彼は玩具を見つけた子どものような弾んだ声を出しました。
「え、マジで⁉ 魔術を応用したら……ってことは、ジェルも宇宙人にメッセージ送れるのか?」
「えぇ。やったことはないですけど、たぶんできると思いますよ」
「すげぇな! 俺も宇宙人にメッセージ送りたい!」
「えぇ……? そんなこと言って掃除をサボる気じゃないんですか?」
ワタクシの冷ややかな視線を軽く受け流して、アレクはニヤリと笑いました。
「ジェルだって本当に魔術で宇宙人にメッセージが送れるのか興味あるだろ? だったら今日の掃除はこれでオシマイだ!」
彼は反論する余地を与えず、さっさとハンディモップを片付けてしまいました。
「しょうがないですねぇ……」
こうしてワタクシ達は、実験も兼ねて宇宙人にメッセージを送る準備を始めたのです。
アレクが見守る中、ワタクシは店の前で特殊に調合したインクで地面に魔法陣を描いていきます。
「魔法陣はこれでよし。あとはパラボラアンテナになる物があればベストなんですが……」
「パラボラアンテナ?」
「えぇ。ほら、このページにあるような浅い半球みたいな形の。形状が似てる物なら何でも構いませんが……」
「あぁ、あるある!」
雑誌に掲載されているアンテナの写真を見せると、彼は大きく頷いて店の奥へ何か取りに行きました。
しかし、我が家にそんな物あったでしょうか……?
「おい、ジェル。これはどうだ?」
彼は家から大きな鉄製の中華なべと自撮り棒を持ってきました。
「……意外とありかもですね」
中華なべをスタンドに傾けて立て、中央に伸ばした自撮り棒を貼り付けますと、見た目は残念ですが一応形状としては問題ないような雰囲気となりました。
「さて。あとはどんなメッセージを送るかですが。とりあえずメモに書き出して、後でまとめて信号に変換しましょう」
ワタクシは、店のカウンターの上にあったメモ用紙とペンをアレクに渡しました。
「何を発信しようかなぁ~」
「そうですねぇ。まずは、本家のアレシボメッセージを参考に内容を考えましょうか」
アメリカが送ったメッセージには1から10までの数字に、水素・炭素・窒素・酸素・リンの原子番号や、デオキシリボ核酸のヌクレオチドに含まれる糖と塩基の化学式やDNAに含まれるヌクレオチドの数……といったことが書かれているのですが。
「ヌクレオチド……? そんなよくわからん話はいらねぇな。それよりお兄ちゃんオススメのハンバーグのレシピ入れとこうぜ!」
アレクが一蹴したことにより、我々のメッセージには『合びき肉300gたまねぎ1個』といった内容が記載されることになりました。
「他にはどんなこと書いたらいいんだ?」
「そうですねぇ……人間がどういう姿かわかる資料でしょうか」
「俺の写真でいいか?」
「アレクの容姿は、平均からちょっと外れてる感じがしますが……」
「いいんだよ!『地球人はこんなカッコいいのか!』って、宇宙人をびっくりさせようぜ!」
そう言いながらアレクはズボンのポケットからスマホをサッと取り出し、腕を伸ばして自分の姿を手際よく撮影しました。
「よし、せっかくだからアプリで盛ろう。美白MAXにして、目もキラキラにでっかくして……」
写真を撮るのは上手いのに加工は苦手なのか、アレクがアプリをタップするたびにアゴが異様に細長くなり目が巨大化して彼の顔がどんどん人間離れしていきます。
「うわ、気持ち悪い」
「加工すんのって案外難しいもんだな……」
現時点で、宇宙へ発信するのがハンバーグのレシピと気持ち悪いアレクの写真だけなんですが、これでいいんでしょうか。――いや、絶対よくない。
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