56 / 163
season1
56話:かぐや姫の条件
しおりを挟む
考え込むワタクシに対し、シロはご近所の噂話でもするかのように話を進めます。
「そういやさぁ、竹取物語の中でかぐや姫が結婚の条件にすごく難しいことを皆に言ったの覚えてる?」
「あぁ、求婚者に対して珍しい宝を要求しましたね。仏の御石の鉢に蓬莱の玉の枝、そしてここにある火鼠の皮衣、龍の首の珠……それに燕の子安貝でしたっけ」
「そうそう、それそれ。でもそんなすごい宝物なんてそうそう用意できないよね。実際求婚した人達、全員脱落したでしょ?」
「そうですねぇ」
「それで、このままだとずっと結婚できなさそうだから、今回はもっとハードル下げようってことになったらしいんだよね」
シロは小さなグラスに入った冷酒をグビッとあおり、ふぅーと小さく息を吐きました。
「ハードルを下げるって、どういうことですか?」
ワタクシはおかわりを要求してきた彼に酒を注ぎながらたずねます。
「えっとねぇ……たとえば仏の御石の鉢って限定されたら見つけるの大変でしょ? だから仏が使った物ならなんでもOKにしたんだって。仏の湯のみとか仏の割り箸とか」
「それはハードルが下がった……と言えるんですかねぇ」
はたして仏が割り箸を使うのかはさておき。ということは他の品もハードルが下がったんでしょうか。
「もう下がりまくりだよ~。蓬莱の玉の枝は551の蓬莱ってメーカーの豚まんで良いってさ」
「それ宝物じゃなくて、ただの関西土産じゃないですか!」
「だよねぇ。蓬莱の玉の枝よりは楽だけど、本当にそんなのでいいのかって思うんだけど。でもほら、かぐや姫って月の住民だから地球の豚まんが珍しいんじゃない?」
「そういうもんなんでしょうかねぇ……」
「ちなみに、火鼠の皮衣は綺麗な毛皮ならなんでもいいってさ」
綺麗な毛皮ならなんでもいい、というのもずいぶん適当ですが、豚まんに比べるとかなりマシな部類な気がします。
「それなら当店にある火鼠の皮衣なら、きっと満足していただけるでしょうね」
シロはそうだろうねぇと頷いて、グラスを傾けました。
「後の2つもすごく簡単でね。龍の首の珠も、龍に関する品なら何でもいいんだって」
「えぇ……? それは意外と難しいのでは。当店にも龍の鱗がありますが、そう簡単に手に入るお品ではありませんよ?」
ワタクシが顔をしかめながらそう答えると、シロは急に真顔になりました。
「――それがさ、ドラゴンボールの単行本全巻セットでOKらしいよ」
「そんなんでいいんですか⁉ さすがにそれはハードル下げすぎでしょう⁉ しかもあれ後半は龍あんまり関係無い気がしますし」
「――あ、でも燕の子安貝は大変かも?」
「え、そこら辺の貝殻でいいとか、そういうんじゃなくて?」
「僕よく知らないんだけど、子安さんって名前の声優がいてその人を連れてくることが条件なんだって」
「それ、かぐや姫が個人的に会いたいだけですよね⁉」
「かもね~、たぶん仏の私物と同じくらい難しい条件じゃないかな」
「仏と同レベル……」
思わずワタクシが呟くと、シロはグラスをカウンターに置いて桐の箱を指差しました。
「――ねぇねぇ、どうする? ジェルならその皮衣があれば求婚できるけど」
「ワタクシは身を固める気なんてありませんよ? ――とはいえ、絶世の美女であるかぐや姫がどんな方なのかこの目で見てみたいですね……」
「じゃ、応募してみようよ。ジェルの写真と皮衣があればOKだし。――ほら、ジェル。ポーズ撮って。あ、これエントリーシート。志望動機は……まぁ適当でいいんじゃない?」
そう言って、シロはやたら軽いノリでワタクシの顔をスマホで撮影して書類を書かせると、火鼠の皮衣が入った箱を抱えて帰っていきました。
「まさかそんな簡単に求婚ができるとは。あまりにもハードルが下がりすぎて、これじゃ過去に求婚した人たちが浮かばれないような……でもちょっと楽しみですね」
それからそわそわしながら待つこと一週間。再びシロが桐の箱を抱えて店にやってきたのです。
「ジェル、お待たせ。かぐや姫から返事きたんだけど……」
「えぇ、どうでしたか?」
箱を抱えてやってきたということは、もしかして皮衣が気に入らなかったとか……?
ワタクシの問いにシロは何か言いたげな顔をしましたが、黙って箱と一緒に1枚のコピー用紙みたいな白い紙をカウンターに置きました。
その紙には、たった一言だけ。
『もっとイケメンがいいです』とありました。
「……ぜ、全然ハードル下がってないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
店の中にワタクシの怒りの声が響き渡りました。
皮衣は返却されましたが、視界に入ると腹が立つので店には陳列せずに桐の箱に入れたまま倉庫に放り込みました。
「まぁほら、イケメンの基準は時代によって違うから……」
シロの慰めも虚しく、ワタクシはしばらくふてくされていたのでした。
「そういやさぁ、竹取物語の中でかぐや姫が結婚の条件にすごく難しいことを皆に言ったの覚えてる?」
「あぁ、求婚者に対して珍しい宝を要求しましたね。仏の御石の鉢に蓬莱の玉の枝、そしてここにある火鼠の皮衣、龍の首の珠……それに燕の子安貝でしたっけ」
「そうそう、それそれ。でもそんなすごい宝物なんてそうそう用意できないよね。実際求婚した人達、全員脱落したでしょ?」
「そうですねぇ」
「それで、このままだとずっと結婚できなさそうだから、今回はもっとハードル下げようってことになったらしいんだよね」
シロは小さなグラスに入った冷酒をグビッとあおり、ふぅーと小さく息を吐きました。
「ハードルを下げるって、どういうことですか?」
ワタクシはおかわりを要求してきた彼に酒を注ぎながらたずねます。
「えっとねぇ……たとえば仏の御石の鉢って限定されたら見つけるの大変でしょ? だから仏が使った物ならなんでもOKにしたんだって。仏の湯のみとか仏の割り箸とか」
「それはハードルが下がった……と言えるんですかねぇ」
はたして仏が割り箸を使うのかはさておき。ということは他の品もハードルが下がったんでしょうか。
「もう下がりまくりだよ~。蓬莱の玉の枝は551の蓬莱ってメーカーの豚まんで良いってさ」
「それ宝物じゃなくて、ただの関西土産じゃないですか!」
「だよねぇ。蓬莱の玉の枝よりは楽だけど、本当にそんなのでいいのかって思うんだけど。でもほら、かぐや姫って月の住民だから地球の豚まんが珍しいんじゃない?」
「そういうもんなんでしょうかねぇ……」
「ちなみに、火鼠の皮衣は綺麗な毛皮ならなんでもいいってさ」
綺麗な毛皮ならなんでもいい、というのもずいぶん適当ですが、豚まんに比べるとかなりマシな部類な気がします。
「それなら当店にある火鼠の皮衣なら、きっと満足していただけるでしょうね」
シロはそうだろうねぇと頷いて、グラスを傾けました。
「後の2つもすごく簡単でね。龍の首の珠も、龍に関する品なら何でもいいんだって」
「えぇ……? それは意外と難しいのでは。当店にも龍の鱗がありますが、そう簡単に手に入るお品ではありませんよ?」
ワタクシが顔をしかめながらそう答えると、シロは急に真顔になりました。
「――それがさ、ドラゴンボールの単行本全巻セットでOKらしいよ」
「そんなんでいいんですか⁉ さすがにそれはハードル下げすぎでしょう⁉ しかもあれ後半は龍あんまり関係無い気がしますし」
「――あ、でも燕の子安貝は大変かも?」
「え、そこら辺の貝殻でいいとか、そういうんじゃなくて?」
「僕よく知らないんだけど、子安さんって名前の声優がいてその人を連れてくることが条件なんだって」
「それ、かぐや姫が個人的に会いたいだけですよね⁉」
「かもね~、たぶん仏の私物と同じくらい難しい条件じゃないかな」
「仏と同レベル……」
思わずワタクシが呟くと、シロはグラスをカウンターに置いて桐の箱を指差しました。
「――ねぇねぇ、どうする? ジェルならその皮衣があれば求婚できるけど」
「ワタクシは身を固める気なんてありませんよ? ――とはいえ、絶世の美女であるかぐや姫がどんな方なのかこの目で見てみたいですね……」
「じゃ、応募してみようよ。ジェルの写真と皮衣があればOKだし。――ほら、ジェル。ポーズ撮って。あ、これエントリーシート。志望動機は……まぁ適当でいいんじゃない?」
そう言って、シロはやたら軽いノリでワタクシの顔をスマホで撮影して書類を書かせると、火鼠の皮衣が入った箱を抱えて帰っていきました。
「まさかそんな簡単に求婚ができるとは。あまりにもハードルが下がりすぎて、これじゃ過去に求婚した人たちが浮かばれないような……でもちょっと楽しみですね」
それからそわそわしながら待つこと一週間。再びシロが桐の箱を抱えて店にやってきたのです。
「ジェル、お待たせ。かぐや姫から返事きたんだけど……」
「えぇ、どうでしたか?」
箱を抱えてやってきたということは、もしかして皮衣が気に入らなかったとか……?
ワタクシの問いにシロは何か言いたげな顔をしましたが、黙って箱と一緒に1枚のコピー用紙みたいな白い紙をカウンターに置きました。
その紙には、たった一言だけ。
『もっとイケメンがいいです』とありました。
「……ぜ、全然ハードル下がってないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
店の中にワタクシの怒りの声が響き渡りました。
皮衣は返却されましたが、視界に入ると腹が立つので店には陳列せずに桐の箱に入れたまま倉庫に放り込みました。
「まぁほら、イケメンの基準は時代によって違うから……」
シロの慰めも虚しく、ワタクシはしばらくふてくされていたのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜
古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。
「これ描いたの、お前か?」
呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。
腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。
内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。
なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。
全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません……
相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。
「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる