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season1
55話:婚活はじめました
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ひぐらしの声がカナカナカナ……と遠くで聞こえる、夕暮れ時。
アンティークの店「蜃気楼」では、カウンター近くの椅子に座り冷酒を飲みながらワタクシと暇つぶしをする氏神のシロの姿がありました。
「ねぇ、ジェル。冷酒のおかわりちょうだい」
「まったく……これ高いんですから、ちゃんと味わって飲んでくださいよ?」
ワタクシは、シロのグラスに日本酒を注ぎました。
彼は見た目こそ可愛い子どものような姿ですが、実は500歳近い年齢で神社で祭られるほどの神様です。
神というからには当然、人の世では語られることのない不思議な出来事にも詳しく、いつもなかなかに興味深い話が聞けるので、彼の来店はワタクシの楽しみのひとつなのでした。
「……で、今日はまた何か面白い話があると聞きましたが」
「うん、そうなんだよ。ねぇ、ジェル。この店ってたしか『火鼠の皮衣』あったよね?」
「火鼠の皮衣……えぇ、そういえばアレクが中国を旅行した際に買ってきたのがそうでしたね。陳列しようと思って、すっかり忘れてましたよ」
ワタクシは棚の上に置きっぱなしになっていた桐の箱をカウンターへ持ってきて、蓋を開けました。
「これが、あのかぐや姫の話にも登場する、火をつけても燃えないとされている『火鼠の皮衣』だそうですよ。なかなか見事なお品でしょう?」
箱の中では、毛の先端が黄金に光る紺色の美しい毛皮が輝きを放っています。
「あぁ、これこれ。綺麗だねぇ」
「もしこれが本物なら、火をつけても燃えないはずですが……」
かぐや姫のお話である『竹取物語』の作中では、皮衣が本物か証明するために燃やしてみるのですが、残念ながら皮衣はニセモノであった為あっさり灰になってしまうのです。
「試してみるかい?」
シロは片手をかざしてニヤリと笑いました。
「よしてください、もし燃えたら勿体無いじゃないですか!」
「あはははは、冗談だよ!」
ワタクシが慌てて箱の蓋を閉じると、シロは楽しそうに笑いました。
そもそも、そんなことをしなくても神様であるシロならこれが本物かどうかなんて一目瞭然なはずなのです。
でも、それをたずねると「こういう事は、わからないままの方が面白いよ」といつもはぐらかされてしまうのでした。
「……で、この火鼠の皮衣がいったいどうしたって言うんですか?」
「いやさぁ。実は、かぐや姫が婚活始めたんだけど。ジェルもこの皮衣使って応募してみない?」
……かぐや姫がコンカツ?
あまりにも俗っぽい単語だったので、脳がそれを理解するまでに数秒かかりました。
「婚活って……かぐや姫が結婚相手を探してるということですか⁉ そもそもかぐや姫って実在してるんですか⁉」
「うん、今は月で暮らしてるよ。やっぱり歳をとると独り身が淋しくなったりするもんなのかなぁ、結婚したいんだってさ」
「えぇ……さすがに今更すぎやしませんかね」
――ワタクシが今更だと思った理由、おわかりいただけますでしょうか。
竹取物語を読んだことがある方ならご理解いただけると思うのですが、本編でかぐや姫はたくさんの男性からの求婚を“すべて断っている”のです。
しかもあれは平安時代のお話ですよ。それが1000年以上も経って今更、婚活とは。
アンティークの店「蜃気楼」では、カウンター近くの椅子に座り冷酒を飲みながらワタクシと暇つぶしをする氏神のシロの姿がありました。
「ねぇ、ジェル。冷酒のおかわりちょうだい」
「まったく……これ高いんですから、ちゃんと味わって飲んでくださいよ?」
ワタクシは、シロのグラスに日本酒を注ぎました。
彼は見た目こそ可愛い子どものような姿ですが、実は500歳近い年齢で神社で祭られるほどの神様です。
神というからには当然、人の世では語られることのない不思議な出来事にも詳しく、いつもなかなかに興味深い話が聞けるので、彼の来店はワタクシの楽しみのひとつなのでした。
「……で、今日はまた何か面白い話があると聞きましたが」
「うん、そうなんだよ。ねぇ、ジェル。この店ってたしか『火鼠の皮衣』あったよね?」
「火鼠の皮衣……えぇ、そういえばアレクが中国を旅行した際に買ってきたのがそうでしたね。陳列しようと思って、すっかり忘れてましたよ」
ワタクシは棚の上に置きっぱなしになっていた桐の箱をカウンターへ持ってきて、蓋を開けました。
「これが、あのかぐや姫の話にも登場する、火をつけても燃えないとされている『火鼠の皮衣』だそうですよ。なかなか見事なお品でしょう?」
箱の中では、毛の先端が黄金に光る紺色の美しい毛皮が輝きを放っています。
「あぁ、これこれ。綺麗だねぇ」
「もしこれが本物なら、火をつけても燃えないはずですが……」
かぐや姫のお話である『竹取物語』の作中では、皮衣が本物か証明するために燃やしてみるのですが、残念ながら皮衣はニセモノであった為あっさり灰になってしまうのです。
「試してみるかい?」
シロは片手をかざしてニヤリと笑いました。
「よしてください、もし燃えたら勿体無いじゃないですか!」
「あはははは、冗談だよ!」
ワタクシが慌てて箱の蓋を閉じると、シロは楽しそうに笑いました。
そもそも、そんなことをしなくても神様であるシロならこれが本物かどうかなんて一目瞭然なはずなのです。
でも、それをたずねると「こういう事は、わからないままの方が面白いよ」といつもはぐらかされてしまうのでした。
「……で、この火鼠の皮衣がいったいどうしたって言うんですか?」
「いやさぁ。実は、かぐや姫が婚活始めたんだけど。ジェルもこの皮衣使って応募してみない?」
……かぐや姫がコンカツ?
あまりにも俗っぽい単語だったので、脳がそれを理解するまでに数秒かかりました。
「婚活って……かぐや姫が結婚相手を探してるということですか⁉ そもそもかぐや姫って実在してるんですか⁉」
「うん、今は月で暮らしてるよ。やっぱり歳をとると独り身が淋しくなったりするもんなのかなぁ、結婚したいんだってさ」
「えぇ……さすがに今更すぎやしませんかね」
――ワタクシが今更だと思った理由、おわかりいただけますでしょうか。
竹取物語を読んだことがある方ならご理解いただけると思うのですが、本編でかぐや姫はたくさんの男性からの求婚を“すべて断っている”のです。
しかもあれは平安時代のお話ですよ。それが1000年以上も経って今更、婚活とは。
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