それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season1

54話:リュージの正体

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「うーん。……それじゃ、我が家のことで恐縮なんですが、洗濯と掃除をしてもらえますか?」

「センタクとソウジ……?」

「あ、教えますから大丈夫ですよ」

 ワタクシは店の奥にある家に繋がるドアを開け、彼を家に招きいれました。

「お店とお家くっついてるンダネ!」

「えぇ、そうなんですよ。あ、これが洗濯機で、こっちが洗剤です」

「センタクキ! 初めて見マシタ!」

 目を輝かせる彼に丁寧に使い方を教えて、一緒に洗い物の仕分けをしました。

「ジェルさん、ジェルさん。この小さなキラキラした布は何デスカ?」

「……アレクのパンツです」

「さすがアレクさん! 私だったら恥ずかしくて穿けマセン!」

 素直な感想にワタクシは大きく頷きました。
 洗濯機が回りだしたので、彼に引き続きお風呂とトイレの掃除の手順を教え、洗剤を手渡しました。

「覚えたカラ、後は私ダイジョブヨ。ジェルさんはお店見ててネ!」

「それは頼もしい。ではよろしくお願いしますね」

 ワタクシは店に戻って、カウンターに座りました。
 掃除を彼に任せて読書を楽しんでいますと、店のドアが開いて小柄な和服の男の子が姿を見せました。当店を守護している氏神のシロです。

「ジェル! 遊びに来たよ! いやぁ、今日も暑いねぇ~。」

「シロ、いらっしゃい」

「……あれ、今日は誰か他にいるの?」

「おや、よくわかりましたね。実はアレクの紹介で、リュージさんって方がうちの店を手伝いに来てるんですよ」

「……ふーん、そうなんだ」

 何故か釈然としない様子のシロにとりあえず椅子を勧めると、彼は座っていきなり冷酒を欲しがりました。見た目は子どもですが実年齢は500歳近くて日本酒が大好きなのです。

「もう、シロったら。うちは居酒屋じゃないんですからね」

「せっかくアレク兄ちゃん秘蔵の良い酒があるのに、飲まない手はないからね」

「そういえば冷蔵庫に小さい瓶を冷やしてありましたね……ちょっと待っててください」

 そう言って立ち上がると、奥の扉からリュージさんが顔を出しました。

「ジェルさん、お風呂掃除終わったヨ! アワがいっぱいで楽しいネ! おや、オキャクサン! イラッシャイマセー!」

「リュージさん、お疲れ様です。こちらはシロ。ワタクシの友人です」

「は、初めまして……」

「おー、トモダチいいねー! 私、リュージ言います、ヨロシクネ。それじゃ私、トイレ掃除してくるヨ!」

 リュージさんはそう言って、再び家の方へ戻りました。

「……リュージさんだっけ。あの人なんかどこかで見たことある気がするんだけどなぁ」

 シロは首をかしげながら眉を寄せて思い出そうとしていましたが、結局彼が何者なのか思い出せなかったようでした。
 
「――まぁいいや、それよりお酒だよ、お酒ちょうだい!」

「はいはい……1本だけですからね?」

 シロに冷酒を持ってきて注いでやると、彼は特に用事があるわけでもなく本当にただ遊びに来ただけのようでした。
 彼がちびちびと酒を飲むのを眺めながらあれこれ雑談をしていると、小さな瓶が空になる前に奥のドアからリュージさんがやってきました。

「お風呂もトイレもキレイキレイなったヨ!」

「リュージさん、お疲れ様です。ありがとうございました。あの、これ……ささやかで恐縮なのですが……」

 ワタクシはお礼にお金を包んで渡そうとしましたが、丁寧に断られました。

「ジェルさんアリガトウネ。でも私、恩返しでキタカラ必要ナイヨ。それじゃそろそろ私オウチ帰るヨ」

「そうですか、本当にありがとうございました」

「初めての事ばかりで楽しかったヨ。オウチ帰ったら私もお掃除してみるヨ!」

「それは良いですね」

「それじゃ、ジェルさん、シロさん。またネ!」

 リュージさんを店の外まで見送ると、一陣の風が吹き、彼はにこやかに手を振りキラキラと輝いて消えてしまいました。
 すると急にゴォォォォと大きな風の音がして木が揺れていましたがそれもすぐ止み、何事も無かったかのようにセミが鳴き始めました。

「……リュージさん、何者だったんでしょうね」

「あぁぁぁぁぁぁ‼ 思い出した‼」

 突然、シロが大きな声を上げました。

「何がですか?」

「あの方、リュージさんじゃなくて龍神様りゅうじんさまだよ!」

「え、龍神様……⁉」

「うん、水を司る偉い龍の神様! 神様が集まる会議でスサノオ様と話してるの見たことあるから間違いないよ!」

「えぇぇぇぇぇぇ‼ ワタクシ、あの人にトイレ掃除までやらせちゃったんですが‼」

「スサノオ様が聞いたら卒倒しそうだ……」

 シロは頭を抱え込みました。

「それならそうと言ってくれればよかったのに……」

「あれで本人は『龍神』って名乗ってるつもりなんだよ。でもカタコトだから発音がね……」
 
「事前に龍神様とわかっていれば神通力をもらうとか、もっと有益な頼みごとができたんですがねぇ……」

 惜しいことをしたと心底思いましたが、どうしようもありません。
 セミの声がうるさく響く中、ワタクシはシロと店へ戻ったのでした。
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