50 / 163
season1
50話:箱の中身
しおりを挟む
それからワタクシは店をアレクに任せ、丸一日かけて呪いの解析作業をすることとなりました。
箱をルーペで覗き、浮かび上がった呪いの文字列をチェックしては、手元の羊皮紙に特別に調合したインクと水晶のペンでひたすら文字を書き写していきます。
「これはかなり厳重ですねぇ。やはり噂どおり、中身は長寿の秘密なのでしょうか……」
幸い、呪いは他人に害を与えるような内容ではなく、あくまで「自分以外の人が箱を開くことができない」ということに特化しているので、何かトラップが発動してワタクシに呪いがかかるということが無いので助かりました。
――そして翌日。再び店にやってきたジンにワタクシは告げました。
「めんどくさい」
「えぇぇぇぇぇぇぇ‼ どういうことよ~⁉」
「時間をかければ開く様にできますが、かなりストレスが伴います」
この呪いはプログラムで例えるなら、ド素人が無茶苦茶に書いたコードのような物でした。よくまぁこれで効力を発揮したなと感心するぐらい無駄な言葉が配置されていて、真面目に解析するのがバカらしくなるようなものです。
複雑でデタラメで、ぐちゃぐちゃの複数の色が混ざった糸の塊をほぐすような面倒さがあり、できればやりたくないシロモノなのは言うまでもありません。
「たしかにそれは面倒ねぇ……」
ワタクシの説明に、ジンはあごヒゲを撫でながら考え込みます。
その時、外で窓拭きをしていたアレクが店に入ってきました。
「おーい、今日の掃除終わったぞー! 次はペンキでも塗るか?」
「お疲れ様です。休憩してていいですよ」
「……おい、ジェルもジンちゃんも真剣な顔して、どうかしたのか?」
「えぇ。この箱がどうやっても開かないんで困ってたんですよ」
アレクはカウンターの机に置かれた木箱に目をやりました。
「どうやっても開かないのか?」
「えぇ」
「そうなのよ~。困ったわねぇ……」
「中の物は生き物か?」
「違いますね。鑑定した時に生命反応はありませんでしたから。でも中身が何かはわからないんです」
「ふーん。とにかく開けばいいってことか?」
「まぁそうなりますね」
ワタクシ達が簡単に経緯を説明するとアレクは少し考えるような仕草をして、何か思いついたのか急に目を輝かせニヤリと笑いました。
「よし、お前ら、危ないからちょっと離れてろ」
彼はワタクシ達を箱から遠ざけるとカウンターの前に立ち、足を広げ右手を大きく振りかぶりました。
「アレク、なにするんですか――まさか、ちょっとアレク!」
「カラテマスターの極意、とくと見よ! 必殺カラテチョップ!!!!」
そう言いながら、箱に勢いよく手刀を叩き付けた結果。
バキッと大きな音がして箱が真っ二つになり、勢いで中に入っていたたくさんの紙が宙を舞いました。
――まさかそんな力任せで箱が開くなんて。ワタクシもジンも開いた口がふさがりませんでした。
「ワタクシ達は難しく考えすぎていた、ということですかね……」
「かもねぇ……」
「どうだ! これがカラテマスター、アレクサンドルの真の力だ‼」
得意げに構えて格好をつけているアレクの足元に、宙に舞っていた紙がばさりと落ちました。
彼はそれを拾うと、目を大きく見開いて叫んだのです。
「うわわわわっ! ジェル! これ、エッチなやつだからオマエは見ちゃダメだ‼」
「何バカなこと言ってんですか。どれどれ――」
何が描かれているのかとワタクシも落ちた紙を拾って見てみますと、そこには裸の男女のあられもない姿の絵がありました。いわゆる春画と呼ばれる浮世絵です。
「こら、ジェルは見ちゃだめだってば!」
「んまぁ~、箱の中身がこんな物だって知ってたら、ちゃんとおじいちゃんのお墓に入れてあげたのに!」
箱の中身は長寿の秘密でもなんでもなく、ただのエロコレクションだったということですか。
180年生きた高名な僧侶でも、色欲から逃れることはできなかったのだと思うと、なんとも言えない気持ちになりました。
「これ……どうしましょうか?」
「こういうのはな、見なかったことにして燃やしてやるのが武士の情けってもんだ!」
ワタクシが床や机に落ちた春画を拾い集めると、アレクがしたり顔で答えます。
「ワタクシにはよくわかりませんが、そういうもんなんですかね?」
「そうねぇ、アレクちゃんの言う通りかも。おじいちゃんも墓に埋めるか、もしくは燃やしてくれって言ってたし」
こういった物は歴史的価値もあり、コレクターに高く売れそうなだけに燃やしてしまうのはもったいないと思いましたが、彼らの意見に従って店先で燃やすことにしました。
「ジェル子ちゃん、アレクちゃん。ありがとうね、きっとおじいちゃんも安心すると思うわ」
「だと良いのですが。好奇心で無粋な真似をしてしまったことをどうか墓前でお詫びしておいてください」
「箱割っちゃってごめんなーって言っておいてくれ!」
「うふふ、そうねぇ。伝えておくわ♪」
ワタクシが火を付けると、たくさんの春画はまたたく間に炎に包まれ白い煙が舞い上がります。
煙の向こうに安堵する僧侶の姿が一瞬見えたように思いましたが、それも煙とともに消えてしまい、後には灰が残るばかりなのでした。
箱をルーペで覗き、浮かび上がった呪いの文字列をチェックしては、手元の羊皮紙に特別に調合したインクと水晶のペンでひたすら文字を書き写していきます。
「これはかなり厳重ですねぇ。やはり噂どおり、中身は長寿の秘密なのでしょうか……」
幸い、呪いは他人に害を与えるような内容ではなく、あくまで「自分以外の人が箱を開くことができない」ということに特化しているので、何かトラップが発動してワタクシに呪いがかかるということが無いので助かりました。
――そして翌日。再び店にやってきたジンにワタクシは告げました。
「めんどくさい」
「えぇぇぇぇぇぇぇ‼ どういうことよ~⁉」
「時間をかければ開く様にできますが、かなりストレスが伴います」
この呪いはプログラムで例えるなら、ド素人が無茶苦茶に書いたコードのような物でした。よくまぁこれで効力を発揮したなと感心するぐらい無駄な言葉が配置されていて、真面目に解析するのがバカらしくなるようなものです。
複雑でデタラメで、ぐちゃぐちゃの複数の色が混ざった糸の塊をほぐすような面倒さがあり、できればやりたくないシロモノなのは言うまでもありません。
「たしかにそれは面倒ねぇ……」
ワタクシの説明に、ジンはあごヒゲを撫でながら考え込みます。
その時、外で窓拭きをしていたアレクが店に入ってきました。
「おーい、今日の掃除終わったぞー! 次はペンキでも塗るか?」
「お疲れ様です。休憩してていいですよ」
「……おい、ジェルもジンちゃんも真剣な顔して、どうかしたのか?」
「えぇ。この箱がどうやっても開かないんで困ってたんですよ」
アレクはカウンターの机に置かれた木箱に目をやりました。
「どうやっても開かないのか?」
「えぇ」
「そうなのよ~。困ったわねぇ……」
「中の物は生き物か?」
「違いますね。鑑定した時に生命反応はありませんでしたから。でも中身が何かはわからないんです」
「ふーん。とにかく開けばいいってことか?」
「まぁそうなりますね」
ワタクシ達が簡単に経緯を説明するとアレクは少し考えるような仕草をして、何か思いついたのか急に目を輝かせニヤリと笑いました。
「よし、お前ら、危ないからちょっと離れてろ」
彼はワタクシ達を箱から遠ざけるとカウンターの前に立ち、足を広げ右手を大きく振りかぶりました。
「アレク、なにするんですか――まさか、ちょっとアレク!」
「カラテマスターの極意、とくと見よ! 必殺カラテチョップ!!!!」
そう言いながら、箱に勢いよく手刀を叩き付けた結果。
バキッと大きな音がして箱が真っ二つになり、勢いで中に入っていたたくさんの紙が宙を舞いました。
――まさかそんな力任せで箱が開くなんて。ワタクシもジンも開いた口がふさがりませんでした。
「ワタクシ達は難しく考えすぎていた、ということですかね……」
「かもねぇ……」
「どうだ! これがカラテマスター、アレクサンドルの真の力だ‼」
得意げに構えて格好をつけているアレクの足元に、宙に舞っていた紙がばさりと落ちました。
彼はそれを拾うと、目を大きく見開いて叫んだのです。
「うわわわわっ! ジェル! これ、エッチなやつだからオマエは見ちゃダメだ‼」
「何バカなこと言ってんですか。どれどれ――」
何が描かれているのかとワタクシも落ちた紙を拾って見てみますと、そこには裸の男女のあられもない姿の絵がありました。いわゆる春画と呼ばれる浮世絵です。
「こら、ジェルは見ちゃだめだってば!」
「んまぁ~、箱の中身がこんな物だって知ってたら、ちゃんとおじいちゃんのお墓に入れてあげたのに!」
箱の中身は長寿の秘密でもなんでもなく、ただのエロコレクションだったということですか。
180年生きた高名な僧侶でも、色欲から逃れることはできなかったのだと思うと、なんとも言えない気持ちになりました。
「これ……どうしましょうか?」
「こういうのはな、見なかったことにして燃やしてやるのが武士の情けってもんだ!」
ワタクシが床や机に落ちた春画を拾い集めると、アレクがしたり顔で答えます。
「ワタクシにはよくわかりませんが、そういうもんなんですかね?」
「そうねぇ、アレクちゃんの言う通りかも。おじいちゃんも墓に埋めるか、もしくは燃やしてくれって言ってたし」
こういった物は歴史的価値もあり、コレクターに高く売れそうなだけに燃やしてしまうのはもったいないと思いましたが、彼らの意見に従って店先で燃やすことにしました。
「ジェル子ちゃん、アレクちゃん。ありがとうね、きっとおじいちゃんも安心すると思うわ」
「だと良いのですが。好奇心で無粋な真似をしてしまったことをどうか墓前でお詫びしておいてください」
「箱割っちゃってごめんなーって言っておいてくれ!」
「うふふ、そうねぇ。伝えておくわ♪」
ワタクシが火を付けると、たくさんの春画はまたたく間に炎に包まれ白い煙が舞い上がります。
煙の向こうに安堵する僧侶の姿が一瞬見えたように思いましたが、それも煙とともに消えてしまい、後には灰が残るばかりなのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる