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season1
32話:ジンの魔法
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「なんだそりゃ?」
「炭素の繊維?」
さすがにアレクやジンもそれでは何のことかわからないようです。
「カーボンフレームってわかります?」
その言葉にアレクは、思い当たることがあったようで軽くうなづいて口を開きました。
「あぁ、それなら聞いた事あるな。前に競技用の自転車を借りて乗ったことあるんだけどさ、すげぇ軽くてさぁ。そしたら貸してくれた人がカーボンフレームだからって言ってたなぁ。あんな感じなら確かに良いかも」
「へぇ、そんなものがあるのねぇ。ジェル子ちゃん、それってどうすればいいの?」
「うーん、ジンの魔法で直接パーツをジンに出してもらうってのは無理ですか?」
ジンは魔法でいろんな物を出現させることができます。
それならカーボン素材のパーツを作ってもらえば簡単かなと思ったのですが……
ワタクシの問いにジンはすまなそうな顔をしました。
「残念だけど、既にある物を調達することしかできないのよ~。だからさすがに今から作る物を想像して用意するのは無理だわねぇ……お役に立てなくてごめんなさい」
「いえいえ、さすがにそんな簡単にはいかないですね……では、アクリル繊維の毛糸は可能ですか?」
「それなら調達できるけども……どういうこと?」
「正しくはアクリル繊維の原料のアクリロニトリルに用があるんですが……それを酸素の無い状況下で熱処理をして炭素繊維を作ろうと思いまして」
「ややこしそうねぇ……」
ジンは眉を寄せて腕組みをしました。
「えぇ。2日は必要になると思いますが、錬金術と魔術も使えばここでも可能だと思います。それを樹脂と合わせて形状を加工すれば部品ができるはずです」
まさか今日読んだ知識をいきなり実行することになるとは思いませんでしたが、物質の生成や加工は錬金術でやっていることなので得意分野です。
しかもワタクシの錬金術は西洋魔術も取り入れた特殊なものなので、魔法陣が描ける環境があればよくて、大きな機械や設備も必要ありません。
さすがに大量生産には向きませんが、箒2つ分の部品ならおそらく生産できるでしょう。
「とりあえず、具体的にどんな部品が必要か検討するところからですね」
「じゃあ、それはアレクちゃんとジェル子ちゃんにお願いするとして……アタシはアクリル繊維の調達だわねぇ」
ジンが両手を地面にかざしてなにやら呪文を唱えると両手から光が放たれて、アクリル100%とラベルの貼られた色とりどりの毛糸玉が出現しました。
「アクリル繊維の毛糸玉ってこれのことかしら?」
「そうです、もっと必要なんで引き続きお願いします」
「了解っ♪ おまかせあれ~!」
「あ、ついでにこの絵みたいな感じのふかふかの座椅子もお願いできますか?」
「えぇ、大丈夫よぉ~! そぉれっ♪」
ジンの合図と共に目の前の地面が光って、パステルピンクのクッションのよくきいて柔らかそうな座椅子が出現しました。これで座席の材料も確保完了です。
「さすがランプの魔人ですねぇ……」
「うふふ、ありがとっ♪ さぁ毛糸もじゃんじゃんいくわよぉ~!」
そう言って再びジンは手をかざして毛糸玉を出現させました。
手品のように鮮やかな色の毛糸玉がどんどん出てくるのはなかなか面白い光景でしたが、いつまでも見ているわけにはいきません。
「さぁ、アレク。部品の具体的な図をお願いできますか。ベースになるパーツとそれを接続する為に必要な物も全部です」
「マジかよ、大変なことになったな……」
こうして私とアレク、そして途中からジンも加わり、あぁでもないこうでもないと3時間ほど検討してやっと設計図ができました。
「ここからはワタクシの仕事ですね」
「外で作業するの?」
「えぇ、そこそこ大掛かりな作業なので」
「じゃあこの毛糸の山はこのままにしておけないわね……えぃっ!」
ジンが魔法で簡易的な物置を出現させて、3人で大量の毛糸を中に運び込みました。
当店は結界が張られていて周囲から隔離された場所ではありますが、毛糸の山を外に放置するのはどうかと思ったので助かりました。
「よし、これで大丈夫です。明日ここに魔法陣を設置して炭素繊維を作ってみます」
「2日かかるって言ってたわね、それじゃ明後日にまた来るけどいいかしら?」
「えぇ、後は任せてください」
「ありがとう。ジェル子ちゃん、アレクちゃん、後はよろしくね~」
「頑張ります!」
「おう、俺とジェルに任せとけ!」
夕焼けの空の下、ワタクシとアレクはジンを笑顔で見送ったのでした。
そして翌日。
店の前のスペースに魔法陣を用意したワタクシは、その上に大量の毛糸を乗せました。
「さて……これを無酸素の状態で3000度まで熱して……と」
非常に危険なので念のため魔法陣の周囲は障壁で囲みました。
ちなみに作業をアレクに邪魔されないように、事前に彼に三国志の漫画全60巻を与えておきました。
きっと今頃はリビングで夢中になって読んでいることでしょう。
「えっと、炎の精霊で火力を安定させて……あとは……これでよし!」
魔術を使ってしばらく待つと、魔法陣の中央には黒く光る炭素繊維ができていました。
「やはり魔術を使うと短時間で作れますねぇ……」
後はこの繊維を樹脂と合成して形を加工するだけです。
「――さぁて、ここからが問題なんですよねぇ……」
「炭素の繊維?」
さすがにアレクやジンもそれでは何のことかわからないようです。
「カーボンフレームってわかります?」
その言葉にアレクは、思い当たることがあったようで軽くうなづいて口を開きました。
「あぁ、それなら聞いた事あるな。前に競技用の自転車を借りて乗ったことあるんだけどさ、すげぇ軽くてさぁ。そしたら貸してくれた人がカーボンフレームだからって言ってたなぁ。あんな感じなら確かに良いかも」
「へぇ、そんなものがあるのねぇ。ジェル子ちゃん、それってどうすればいいの?」
「うーん、ジンの魔法で直接パーツをジンに出してもらうってのは無理ですか?」
ジンは魔法でいろんな物を出現させることができます。
それならカーボン素材のパーツを作ってもらえば簡単かなと思ったのですが……
ワタクシの問いにジンはすまなそうな顔をしました。
「残念だけど、既にある物を調達することしかできないのよ~。だからさすがに今から作る物を想像して用意するのは無理だわねぇ……お役に立てなくてごめんなさい」
「いえいえ、さすがにそんな簡単にはいかないですね……では、アクリル繊維の毛糸は可能ですか?」
「それなら調達できるけども……どういうこと?」
「正しくはアクリル繊維の原料のアクリロニトリルに用があるんですが……それを酸素の無い状況下で熱処理をして炭素繊維を作ろうと思いまして」
「ややこしそうねぇ……」
ジンは眉を寄せて腕組みをしました。
「えぇ。2日は必要になると思いますが、錬金術と魔術も使えばここでも可能だと思います。それを樹脂と合わせて形状を加工すれば部品ができるはずです」
まさか今日読んだ知識をいきなり実行することになるとは思いませんでしたが、物質の生成や加工は錬金術でやっていることなので得意分野です。
しかもワタクシの錬金術は西洋魔術も取り入れた特殊なものなので、魔法陣が描ける環境があればよくて、大きな機械や設備も必要ありません。
さすがに大量生産には向きませんが、箒2つ分の部品ならおそらく生産できるでしょう。
「とりあえず、具体的にどんな部品が必要か検討するところからですね」
「じゃあ、それはアレクちゃんとジェル子ちゃんにお願いするとして……アタシはアクリル繊維の調達だわねぇ」
ジンが両手を地面にかざしてなにやら呪文を唱えると両手から光が放たれて、アクリル100%とラベルの貼られた色とりどりの毛糸玉が出現しました。
「アクリル繊維の毛糸玉ってこれのことかしら?」
「そうです、もっと必要なんで引き続きお願いします」
「了解っ♪ おまかせあれ~!」
「あ、ついでにこの絵みたいな感じのふかふかの座椅子もお願いできますか?」
「えぇ、大丈夫よぉ~! そぉれっ♪」
ジンの合図と共に目の前の地面が光って、パステルピンクのクッションのよくきいて柔らかそうな座椅子が出現しました。これで座席の材料も確保完了です。
「さすがランプの魔人ですねぇ……」
「うふふ、ありがとっ♪ さぁ毛糸もじゃんじゃんいくわよぉ~!」
そう言って再びジンは手をかざして毛糸玉を出現させました。
手品のように鮮やかな色の毛糸玉がどんどん出てくるのはなかなか面白い光景でしたが、いつまでも見ているわけにはいきません。
「さぁ、アレク。部品の具体的な図をお願いできますか。ベースになるパーツとそれを接続する為に必要な物も全部です」
「マジかよ、大変なことになったな……」
こうして私とアレク、そして途中からジンも加わり、あぁでもないこうでもないと3時間ほど検討してやっと設計図ができました。
「ここからはワタクシの仕事ですね」
「外で作業するの?」
「えぇ、そこそこ大掛かりな作業なので」
「じゃあこの毛糸の山はこのままにしておけないわね……えぃっ!」
ジンが魔法で簡易的な物置を出現させて、3人で大量の毛糸を中に運び込みました。
当店は結界が張られていて周囲から隔離された場所ではありますが、毛糸の山を外に放置するのはどうかと思ったので助かりました。
「よし、これで大丈夫です。明日ここに魔法陣を設置して炭素繊維を作ってみます」
「2日かかるって言ってたわね、それじゃ明後日にまた来るけどいいかしら?」
「えぇ、後は任せてください」
「ありがとう。ジェル子ちゃん、アレクちゃん、後はよろしくね~」
「頑張ります!」
「おう、俺とジェルに任せとけ!」
夕焼けの空の下、ワタクシとアレクはジンを笑顔で見送ったのでした。
そして翌日。
店の前のスペースに魔法陣を用意したワタクシは、その上に大量の毛糸を乗せました。
「さて……これを無酸素の状態で3000度まで熱して……と」
非常に危険なので念のため魔法陣の周囲は障壁で囲みました。
ちなみに作業をアレクに邪魔されないように、事前に彼に三国志の漫画全60巻を与えておきました。
きっと今頃はリビングで夢中になって読んでいることでしょう。
「えっと、炎の精霊で火力を安定させて……あとは……これでよし!」
魔術を使ってしばらく待つと、魔法陣の中央には黒く光る炭素繊維ができていました。
「やはり魔術を使うと短時間で作れますねぇ……」
後はこの繊維を樹脂と合成して形を加工するだけです。
「――さぁて、ここからが問題なんですよねぇ……」
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