それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

文字の大きさ
上 下
31 / 163
season1

31話:アレクのアイデア

しおりを挟む
「お年寄りでも箒を乗って空を飛ぶには……うーん」

 どうしたものかと考えながらプカプカと箒に乗って浮いていますと、自室で寝ていた兄のアレクサンドルがドアの向こうからやってきて、ワタクシの姿を見るなり「すげぇ‼」と声をあげました。

「あら~、アレクちゃん♪」

「おや、アレク。起きてきましたか」

 アレクはおもちゃを見つけた子どものようなキラキラした目で箒を見ています。

「おい、ジンちゃん! ジェル! なんだそれ⁉ 浮くのか?」

「えぇ、そうですよ」

「それ俺もやりたい! 俺もやりたい‼」

 あぁ、そう言うと思った……ワタクシは地面に着地してアレクに箒を渡しました。

「へへ……面白そうだなぁ――っ、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 彼が上機嫌で箒にまたがった瞬間、箒はロケットのように真上に飛んでいき、上空でぴたりと止まりました。

「なんだよこれぇぇぇぇ‼」

 当然またがっていられるはずもなく、落っこちはしなかったもののアレクは箒にぶら下がった状態で宙吊りになっています。

「あぁぁぁぁぁ‼ 大丈夫ですかアレク⁉」

「アレクちゃ~ん! ゆっくり下に降りるように箒に心の中でお願いするのよ~!」

 数秒後、箒にぶら下がったアレクはゆっくりと地面に降りてきました。

「あ~、びっくりしたぁ~。この箒やべぇな」

 なんとなくアレクに渡した時点でこうなる気はしてましたが……落っこちなくてよかったです。ワタクシは胸をなでおろしました。

「そもそもこの箒、乗るとこ狭いし不安定すぎねぇか?」

「そうなのよねぇ~」

「こんなのケツがズレてすぐ落っこっちまうぞ!」

「あはは、ウケる~! いっそ飛行機みたいに座席でもあればいいかもねぇ」

「座席……そう、それですよ!」

「え? 座席?」

 ジンが何気なく言った言葉は、まさしく我々の求めていた解決策でした。

「えぇ。座席を取り付けたらお婆ちゃん達でも箒に乗れませんかね?」

「確かにそれなら安定はするわねぇ」

「おいおい、二人とも、何の話だ?」

 不思議そうにワタクシ達の会話を聞くアレクにも事情を説明しますと、彼はすぐに家から大きなスケッチブックと筆記具を持ってきました。

「とりあえず図にしてみようぜ。うーんとなぁ……まず箒、本体がこれな……」

 そう言いながらスケッチブックに箒の絵を描きました。なかなか上手です。

「で、そこに座席を取り付けるんだな……こんな感じか?」

 箒の柄の根元にふかふかで背もたれの付いた座椅子が描き足されました。

「そうそう、そんな感じ! アレクちゃんってば絵が上手いのねぇ」

「――ん、まぁ多少描いた経験はあるからな」

「意外な特技だわねぇ」

「へへ、まぁな」

 アレクは軽く照れ笑いするとまたすぐに絵の方に集中し始めました。

「……これ背もたれ付きだけど、箒の柄を握る時に前かがみになるからこのままだと背もたれの意味ねぇよなぁ――あ、そうだ」

 そう言って柄の部分から垂直に棒を描き足してそこに軽くカーブした持ち手を加えます。

「うん、良い感じだ。でもこれだと足元が不安定だから……足を置くとこもほしいな」

 アレクは一人で納得してどんどん勝手に描き足していき、箒がどんどん変化していきます。

「ちょっとアレク……」

「なんかバランスわりぃなぁ……よし、前かごと荷台に車輪も付けよう。これでどうだ!」

「――これ自転車じゃないですか!」

 そこには自転車そっくりに改造された箒の絵がありました。
 座席がサドルではなく座椅子ではありますが、どう見ても自転車です。

「なにこれウケる~! 自分で漕がないでいいから、どっちかって言うとスクーターかしらねぇ?」

「箒の原型無くなってますよ、これ」

「必要なものを足していった結果だから仕方ねぇだろ」

「いや、どう見ても車輪とか不要じゃないですか!」

「気分的なもんだよ気分!」

「でもこれだと重たそうですよ?」

「まぁそうだけど……この箒って重かったりデカかったりすると不便か?」

 アレクの問いにジンが答えました。

「箒自体が手にした人の命令をきくから多少重くても一応持ち運びはできると思うわ~……でもできるだけコンパクトで軽い方がいいんじゃないかしら?」

「そっかぁ。じゃあ必要最低限にするべきか……」

 そうつぶやきながらアレクは完成図から車輪と籠と荷台を消して描き直しています。

「そういやこの箒の柄って木だよな……何の木だろ?」

「さぁねぇ。ジェル子ちゃん知ってる?」

「これは書物の知識ですが、本体はおそらくエニシダの木でしょう。そこに仮に金属などの重いものを付けるとなると本体への負荷が心配ですねぇ……」

「――ってことはやっぱり軽い素材の方がいいってことか」

「そうねぇ。鉄より軽い素材がいいわよねぇ……アルミとか?」

 ワタクシは軽い素材と聞いて、ふと今日読んでいた雑誌の炭素繊維強化プラスチックの記事を思い出しました。

「それなら心当たりがあります。炭素から作る繊維を使った素材なのですが……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

此処は讃岐の国の麺処あやかし屋〜幽霊と呼ばれた末娘と牛鬼の倅〜

蓮恭
キャラ文芸
 ――此処はかつての讃岐の国。そこに、古くから信仰の地として人々を見守って来た場所がある。  弘法大師が開いた真言密教の五大色にちなみ、青黄赤白黒の名を冠した五峰の山々。その一つ青峰山の近くでは、牛鬼と呼ばれるあやかしが人や家畜を襲い、村を荒らしていたという。  やがて困り果てた領主が依頼した山田蔵人という弓の名手によって、牛鬼は退治されたのだった。  青峰山にある麺処あやかし屋は、いつも大勢の客で賑わう人気の讃岐うどん店だ。  ただし、客は各地から集まるあやかし達ばかり。  早くに親を失い、あやかし達に育てられた店主の遠夜は、いつの間にやら随分と卑屈な性格となっていた。  それでも、たった一人で店を切り盛りする遠夜を心配したあやかしの常連客達が思い付いたのは、「看板娘を連れて来る事」。  幽霊と呼ばれ虐げられていた心優しい村娘と、自己肯定感低めの牛鬼の倅。あやかし達によって出会った二人の恋の行く末は……?      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

処理中です...