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season1
31話:アレクのアイデア
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「お年寄りでも箒を乗って空を飛ぶには……うーん」
どうしたものかと考えながらプカプカと箒に乗って浮いていますと、自室で寝ていた兄のアレクサンドルがドアの向こうからやってきて、ワタクシの姿を見るなり「すげぇ‼」と声をあげました。
「あら~、アレクちゃん♪」
「おや、アレク。起きてきましたか」
アレクはおもちゃを見つけた子どものようなキラキラした目で箒を見ています。
「おい、ジンちゃん! ジェル! なんだそれ⁉ 浮くのか?」
「えぇ、そうですよ」
「それ俺もやりたい! 俺もやりたい‼」
あぁ、そう言うと思った……ワタクシは地面に着地してアレクに箒を渡しました。
「へへ……面白そうだなぁ――っ、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
彼が上機嫌で箒にまたがった瞬間、箒はロケットのように真上に飛んでいき、上空でぴたりと止まりました。
「なんだよこれぇぇぇぇ‼」
当然またがっていられるはずもなく、落っこちはしなかったもののアレクは箒にぶら下がった状態で宙吊りになっています。
「あぁぁぁぁぁ‼ 大丈夫ですかアレク⁉」
「アレクちゃ~ん! ゆっくり下に降りるように箒に心の中でお願いするのよ~!」
数秒後、箒にぶら下がったアレクはゆっくりと地面に降りてきました。
「あ~、びっくりしたぁ~。この箒やべぇな」
なんとなくアレクに渡した時点でこうなる気はしてましたが……落っこちなくてよかったです。ワタクシは胸をなでおろしました。
「そもそもこの箒、乗るとこ狭いし不安定すぎねぇか?」
「そうなのよねぇ~」
「こんなのケツがズレてすぐ落っこっちまうぞ!」
「あはは、ウケる~! いっそ飛行機みたいに座席でもあればいいかもねぇ」
「座席……そう、それですよ!」
「え? 座席?」
ジンが何気なく言った言葉は、まさしく我々の求めていた解決策でした。
「えぇ。座席を取り付けたらお婆ちゃん達でも箒に乗れませんかね?」
「確かにそれなら安定はするわねぇ」
「おいおい、二人とも、何の話だ?」
不思議そうにワタクシ達の会話を聞くアレクにも事情を説明しますと、彼はすぐに家から大きなスケッチブックと筆記具を持ってきました。
「とりあえず図にしてみようぜ。うーんとなぁ……まず箒、本体がこれな……」
そう言いながらスケッチブックに箒の絵を描きました。なかなか上手です。
「で、そこに座席を取り付けるんだな……こんな感じか?」
箒の柄の根元にふかふかで背もたれの付いた座椅子が描き足されました。
「そうそう、そんな感じ! アレクちゃんってば絵が上手いのねぇ」
「――ん、まぁ多少描いた経験はあるからな」
「意外な特技だわねぇ」
「へへ、まぁな」
アレクは軽く照れ笑いするとまたすぐに絵の方に集中し始めました。
「……これ背もたれ付きだけど、箒の柄を握る時に前かがみになるからこのままだと背もたれの意味ねぇよなぁ――あ、そうだ」
そう言って柄の部分から垂直に棒を描き足してそこに軽くカーブした持ち手を加えます。
「うん、良い感じだ。でもこれだと足元が不安定だから……足を置くとこもほしいな」
アレクは一人で納得してどんどん勝手に描き足していき、箒がどんどん変化していきます。
「ちょっとアレク……」
「なんかバランスわりぃなぁ……よし、前かごと荷台に車輪も付けよう。これでどうだ!」
「――これ自転車じゃないですか!」
そこには自転車そっくりに改造された箒の絵がありました。
座席がサドルではなく座椅子ではありますが、どう見ても自転車です。
「なにこれウケる~! 自分で漕がないでいいから、どっちかって言うとスクーターかしらねぇ?」
「箒の原型無くなってますよ、これ」
「必要なものを足していった結果だから仕方ねぇだろ」
「いや、どう見ても車輪とか不要じゃないですか!」
「気分的なもんだよ気分!」
「でもこれだと重たそうですよ?」
「まぁそうだけど……この箒って重かったりデカかったりすると不便か?」
アレクの問いにジンが答えました。
「箒自体が手にした人の命令をきくから多少重くても一応持ち運びはできると思うわ~……でもできるだけコンパクトで軽い方がいいんじゃないかしら?」
「そっかぁ。じゃあ必要最低限にするべきか……」
そうつぶやきながらアレクは完成図から車輪と籠と荷台を消して描き直しています。
「そういやこの箒の柄って木だよな……何の木だろ?」
「さぁねぇ。ジェル子ちゃん知ってる?」
「これは書物の知識ですが、本体はおそらくエニシダの木でしょう。そこに仮に金属などの重いものを付けるとなると本体への負荷が心配ですねぇ……」
「――ってことはやっぱり軽い素材の方がいいってことか」
「そうねぇ。鉄より軽い素材がいいわよねぇ……アルミとか?」
ワタクシは軽い素材と聞いて、ふと今日読んでいた雑誌の炭素繊維強化プラスチックの記事を思い出しました。
「それなら心当たりがあります。炭素から作る繊維を使った素材なのですが……」
どうしたものかと考えながらプカプカと箒に乗って浮いていますと、自室で寝ていた兄のアレクサンドルがドアの向こうからやってきて、ワタクシの姿を見るなり「すげぇ‼」と声をあげました。
「あら~、アレクちゃん♪」
「おや、アレク。起きてきましたか」
アレクはおもちゃを見つけた子どものようなキラキラした目で箒を見ています。
「おい、ジンちゃん! ジェル! なんだそれ⁉ 浮くのか?」
「えぇ、そうですよ」
「それ俺もやりたい! 俺もやりたい‼」
あぁ、そう言うと思った……ワタクシは地面に着地してアレクに箒を渡しました。
「へへ……面白そうだなぁ――っ、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
彼が上機嫌で箒にまたがった瞬間、箒はロケットのように真上に飛んでいき、上空でぴたりと止まりました。
「なんだよこれぇぇぇぇ‼」
当然またがっていられるはずもなく、落っこちはしなかったもののアレクは箒にぶら下がった状態で宙吊りになっています。
「あぁぁぁぁぁ‼ 大丈夫ですかアレク⁉」
「アレクちゃ~ん! ゆっくり下に降りるように箒に心の中でお願いするのよ~!」
数秒後、箒にぶら下がったアレクはゆっくりと地面に降りてきました。
「あ~、びっくりしたぁ~。この箒やべぇな」
なんとなくアレクに渡した時点でこうなる気はしてましたが……落っこちなくてよかったです。ワタクシは胸をなでおろしました。
「そもそもこの箒、乗るとこ狭いし不安定すぎねぇか?」
「そうなのよねぇ~」
「こんなのケツがズレてすぐ落っこっちまうぞ!」
「あはは、ウケる~! いっそ飛行機みたいに座席でもあればいいかもねぇ」
「座席……そう、それですよ!」
「え? 座席?」
ジンが何気なく言った言葉は、まさしく我々の求めていた解決策でした。
「えぇ。座席を取り付けたらお婆ちゃん達でも箒に乗れませんかね?」
「確かにそれなら安定はするわねぇ」
「おいおい、二人とも、何の話だ?」
不思議そうにワタクシ達の会話を聞くアレクにも事情を説明しますと、彼はすぐに家から大きなスケッチブックと筆記具を持ってきました。
「とりあえず図にしてみようぜ。うーんとなぁ……まず箒、本体がこれな……」
そう言いながらスケッチブックに箒の絵を描きました。なかなか上手です。
「で、そこに座席を取り付けるんだな……こんな感じか?」
箒の柄の根元にふかふかで背もたれの付いた座椅子が描き足されました。
「そうそう、そんな感じ! アレクちゃんってば絵が上手いのねぇ」
「――ん、まぁ多少描いた経験はあるからな」
「意外な特技だわねぇ」
「へへ、まぁな」
アレクは軽く照れ笑いするとまたすぐに絵の方に集中し始めました。
「……これ背もたれ付きだけど、箒の柄を握る時に前かがみになるからこのままだと背もたれの意味ねぇよなぁ――あ、そうだ」
そう言って柄の部分から垂直に棒を描き足してそこに軽くカーブした持ち手を加えます。
「うん、良い感じだ。でもこれだと足元が不安定だから……足を置くとこもほしいな」
アレクは一人で納得してどんどん勝手に描き足していき、箒がどんどん変化していきます。
「ちょっとアレク……」
「なんかバランスわりぃなぁ……よし、前かごと荷台に車輪も付けよう。これでどうだ!」
「――これ自転車じゃないですか!」
そこには自転車そっくりに改造された箒の絵がありました。
座席がサドルではなく座椅子ではありますが、どう見ても自転車です。
「なにこれウケる~! 自分で漕がないでいいから、どっちかって言うとスクーターかしらねぇ?」
「箒の原型無くなってますよ、これ」
「必要なものを足していった結果だから仕方ねぇだろ」
「いや、どう見ても車輪とか不要じゃないですか!」
「気分的なもんだよ気分!」
「でもこれだと重たそうですよ?」
「まぁそうだけど……この箒って重かったりデカかったりすると不便か?」
アレクの問いにジンが答えました。
「箒自体が手にした人の命令をきくから多少重くても一応持ち運びはできると思うわ~……でもできるだけコンパクトで軽い方がいいんじゃないかしら?」
「そっかぁ。じゃあ必要最低限にするべきか……」
そうつぶやきながらアレクは完成図から車輪と籠と荷台を消して描き直しています。
「そういやこの箒の柄って木だよな……何の木だろ?」
「さぁねぇ。ジェル子ちゃん知ってる?」
「これは書物の知識ですが、本体はおそらくエニシダの木でしょう。そこに仮に金属などの重いものを付けるとなると本体への負荷が心配ですねぇ……」
「――ってことはやっぱり軽い素材の方がいいってことか」
「そうねぇ。鉄より軽い素材がいいわよねぇ……アルミとか?」
ワタクシは軽い素材と聞いて、ふと今日読んでいた雑誌の炭素繊維強化プラスチックの記事を思い出しました。
「それなら心当たりがあります。炭素から作る繊維を使った素材なのですが……」
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