26 / 163
season1
26話:ジェルの秘策
しおりを挟む
そしてバレンタインデーの翌日。
再び店を訪れたシロの手には、ワタクシによって託されたダイヤモンドのような形の箱がありました。
「ジェル、頼まれてたの持って来たよ」
「あぁ、ありがとうございます! 紅茶を入れますから一緒にいただきましょう」
箱の中は、宝石をデザインした色とりどりのチョコレートが並んでいました。
「あぁ、わざわざ出かけた甲斐がありました……さすがデルレイ。クリーミーで美味しいです!」
「すごいね、これ。口の中であっという間に滑らかに溶けていく……」
二人でチョコレートの美味しさに感動したのち、シロが口を開きました。
「まさか僕にチョコを預けるなんて、思わなかったよ」
「えぇ。まぁそこが一番安全だと思いまして」
「でもよくアレク兄ちゃんに気づかれなかったね」
「えぇ。今年は我が家でダミーを制作して、それをおとりとして設置したのです」
「ダミー?」
そう、ダミー。この日の為に材料を吟味し、ありとあらゆる高級チョコに負けない製法を研究し、ワタクシ自らチョコレートを作りました。
何度も試行錯誤して、やっと完璧な最高のチョコレートを作り上げたのです。
もちろんラッピングも抜かりありません。
なにせ名だたる高級チョコと同等か、それ以上に見えるようにしないといけないんですから。
精巧に細工を施した箱に包装とリボンもこだわりました。どこからどう見てもラグジュアリーで完璧なチョコレートです。
「あのクオリティならアレクも騙されるでしょう。例年通りワタクシが自分用に買ってきた高級チョコレートだと思って食べたに違いありません!」
「ねぇ、ジェル……」
シロはどこか遠慮しながら口を開きました。
「ダミーなら箱だけでよかったんじゃ……それ兄ちゃん普通に最高級なチョコ貰えてるよね?」
――あ。
「ジェルって本当、真面目すぎるというか、目的と手段が入れ替わって当初の目的はどこかへ行っちゃうよね」
「うぅ……反論の余地がありません……」
たしかに途中からチョコレートの研究をする方に夢中になってしまい、いかに完璧なバレンタインチョコレートを作り上げるかしか考えていませんでした。
「そういやアレク兄ちゃん、昨日ジェルの手作りチョコもらっちゃった~♪って浮かれてたけど……」
「……えぇぇぇぇぇぇぇ‼ ワタクシが作ったってバレてるんですか‼」
「そうみたいだよ」
「そんなぁ……来年のバレンタインはどういたしましょう……」
策をすべて使い果たし、これから先どうしたものかと思案しながら食べたチョコレートは、気のせいかほろ苦い感じがしたのでした。
再び店を訪れたシロの手には、ワタクシによって託されたダイヤモンドのような形の箱がありました。
「ジェル、頼まれてたの持って来たよ」
「あぁ、ありがとうございます! 紅茶を入れますから一緒にいただきましょう」
箱の中は、宝石をデザインした色とりどりのチョコレートが並んでいました。
「あぁ、わざわざ出かけた甲斐がありました……さすがデルレイ。クリーミーで美味しいです!」
「すごいね、これ。口の中であっという間に滑らかに溶けていく……」
二人でチョコレートの美味しさに感動したのち、シロが口を開きました。
「まさか僕にチョコを預けるなんて、思わなかったよ」
「えぇ。まぁそこが一番安全だと思いまして」
「でもよくアレク兄ちゃんに気づかれなかったね」
「えぇ。今年は我が家でダミーを制作して、それをおとりとして設置したのです」
「ダミー?」
そう、ダミー。この日の為に材料を吟味し、ありとあらゆる高級チョコに負けない製法を研究し、ワタクシ自らチョコレートを作りました。
何度も試行錯誤して、やっと完璧な最高のチョコレートを作り上げたのです。
もちろんラッピングも抜かりありません。
なにせ名だたる高級チョコと同等か、それ以上に見えるようにしないといけないんですから。
精巧に細工を施した箱に包装とリボンもこだわりました。どこからどう見てもラグジュアリーで完璧なチョコレートです。
「あのクオリティならアレクも騙されるでしょう。例年通りワタクシが自分用に買ってきた高級チョコレートだと思って食べたに違いありません!」
「ねぇ、ジェル……」
シロはどこか遠慮しながら口を開きました。
「ダミーなら箱だけでよかったんじゃ……それ兄ちゃん普通に最高級なチョコ貰えてるよね?」
――あ。
「ジェルって本当、真面目すぎるというか、目的と手段が入れ替わって当初の目的はどこかへ行っちゃうよね」
「うぅ……反論の余地がありません……」
たしかに途中からチョコレートの研究をする方に夢中になってしまい、いかに完璧なバレンタインチョコレートを作り上げるかしか考えていませんでした。
「そういやアレク兄ちゃん、昨日ジェルの手作りチョコもらっちゃった~♪って浮かれてたけど……」
「……えぇぇぇぇぇぇぇ‼ ワタクシが作ったってバレてるんですか‼」
「そうみたいだよ」
「そんなぁ……来年のバレンタインはどういたしましょう……」
策をすべて使い果たし、これから先どうしたものかと思案しながら食べたチョコレートは、気のせいかほろ苦い感じがしたのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】似て非なる双子の結婚
野村にれ
恋愛
ウェーブ王国のグラーフ伯爵家のメルベールとユーリ、トスター侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は共に双子だった。メルベールとユーリは一卵性で、キリアムとオーランドは二卵性で、兄弟という程度に似ていた。
隣り合った領地で、伯爵家と侯爵家爵位ということもあり、親同士も仲が良かった。幼い頃から、親たちはよく集まっては、双子同士が結婚すれば面白い、どちらが継いでもいいななどと、集まっては話していた。
そして、図らずも両家の願いは叶い、メルベールとキリアムは婚約をした。
ユーリもオーランドとの婚約を迫られるが、二組の双子は幸せになれるのだろうか。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
忌み子と呼ばれた巫女が幸せな花嫁となる日
葉南子
キャラ文芸
★「忌み子」と蔑まれた巫女の運命が変わる和風シンデレラストーリー★
妖が災厄をもたらしていた時代。
滅妖師《めつようし》が妖を討ち、巫女がその穢れを浄化することで、人々は平穏を保っていた──。
巫女の一族に生まれた結月は、銀色の髪の持ち主だった。
その銀髪ゆえに結月は「忌巫女」と呼ばれ、義妹や叔母、侍女たちから虐げられる日々を送る。
黒髪こそ巫女の力の象徴とされる中で、結月の銀髪は異端そのものだったからだ。
さらに幼い頃から「義妹が見合いをする日に屋敷を出ていけ」と命じられていた。
その日が訪れるまで、彼女は黙って耐え続け、何も望まない人生を受け入れていた。
そして、その見合いの日。
義妹の見合い相手は、滅妖師の名門・霧生院家の次期当主だと耳にする。
しかし自分には関係のない話だと、屋敷最後の日もいつものように淡々と過ごしていた。
そんな中、ふと一頭の蝶が結月の前に舞い降りる──。
※他サイトでも掲載しております
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる