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season1
18話:チューさせろ!
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ジンは不機嫌そうなワタクシとげんなりした顔の兄を交互に見つめて、納得いかないといった表情を浮かべています。
「ねぇ、アレクちゃん? アタシに嘘ついてたりしなぁ~い? ホントに婚約者なのぉ? 2人からラブラブな感じまったくしないんだけど~?」
「そ、そんなことないって! なー、ジェル子ー! そんなことないよ、なぁ?」
兄が救いを求めるような目でこちらを見てくるので仕方なく調子を合わせてやることにしました。
「……え、えぇ。とてもラブラブなんですよ」
ワタクシは冷めた目でぎこちなく答えました。
あぁ、めんどくさい。どうしてワタクシがこんなくだらない事に付き合わされているんでしょうか。
そもそも、アレクが最初にもっとキッパリ毅然とした態度で断っていればこんな事にならなかったんじゃないですかね。傷つけまいとやんわり断ったりするからこんなことになるんですよ、まったく。
ワタクシがイライラしていると、2人は気遣うような顔でこっちを見てきます。
「じぇ、ジェル子ぉ~……なぁ、そんな怖い顔しないで……な?」
――誰のせいだと思ってるんですか。
「あんらぁ~、ジェル子ちゃんご機嫌ナナメみたいねぇ~」
「そ、そうだな」
「ちゃんと愛情表現してあげてる~? 日頃のスキンシップって大事なのよ?」
「えーっと、そうだな……」
――え、ちょっと、なに急に恋愛相談みたいな流れになってるんですか?
「愛情表現……そうだ! ジェル子。おかえりなさいのチューがまだじゃないか‼」
「あら~、いいわねぇ。やっぱりそういうのって大事よねぇ~!」
ジンはうんうんと頷いています。いや、そこ同意しないで。
「アタシ、そんなラブラブ見せつけられたらさすがにアレクちゃんのこと諦めちゃうかもしれないわねぇ~」
「ほ、ホントか! よし!」
「バカ! アレク! ちょっと何するんですか!」
精神的に参っている中で、急に降って湧いた解決策にまんまと乗せられた彼は、ワタクシの頭を抱え込み、無理やり顔を近づけキスしようとしました。
「ジェル、ちょっとだけ我慢しろ」
「イヤですよ!」
「いいからチューさせろ」
「あ、あなたバカですか……するわけ……ないでしょ……!」
「先っちょだけだから……!」
「それは違うやつです!」
ワタクシは必死で抵抗しましたが、彼も力任せにグイグイ組み付いてきます。
いよいよ精神的に追い詰められたのか、彼のマリンブルーの瞳には光が無くあきらかに目が据わっています。
これはおかえりなさいの軽いキス程度で済む気がしません。
キスをすればオカマは納得するかもしれませんが、ワタクシの大切な何かが失われる気がします。
「アレク……やめ……うぐっ!」
「抵抗すんじゃねぇ……観念しろ……!」
「か……観念しません……!」
「ジェル……往生際が悪いぞ」
「くっ……!」
そして彼とワタクシの最悪な力比べの勝敗がつきそうになったその瞬間。
店の入り口から、ごめんくださいと若い男の声がしました。
「あの、すみません。こちらで古いランプを見かけ……ジンちゃぁぁぁぁん!!!!」
「ダァ~リ~ン!!!!」
白い服にスカーフを頭に被った若い男が笑顔で両手を広げると、ジンはすぐさま駆け寄って、2人はひしと抱き合いました。
「あぁ、よかった。無事だったんだね、ずいぶん探したんだよ!」
「ダーリン、逢いたかったわぁ~! 誘拐されて怖かったしアタシ淋しかったのよぉ~!」
「ごめんよ、僕が目を離したばっかりに。じゃ、うちに帰ろうか」
「えぇ、もう離さないでねぇ~」
突然の出来事にポカンとしているワタクシ達の前で、ジンはこれ見よがしに顔を伏せて大げさに泣き真似をし始めました。
「うぅ……アレクちゃん、ごめんなさい! あなたの気持ちはうれしいんだけどぉ……しくしく。アタシ、あなたの愛には応えられないの! 可哀想だけどぉ~、縁が無かったとあきらめて美しい思い出にしてね、サヨナラ~!」
「――あ、あぁ。よかったな」
兄はそう言うと、気が抜けたのかその場にへたりこみました。
「ジェル子ちゃん、どうかお兄ちゃんとお幸せにねぇ~!」
「もしかして、あなた……最初から全部わかってたんじゃ……!」
「うふふ、とってもお似合いだったわよぉ? バイバーイ!」
こうしてアラビアンナイトのランプの魔人は恋人と一緒に仲良く帰っていきました。
彼の中でアレクのことはおそらくモテ自慢の1ページとして刻まれたことでしょう。
「はぁ。とんだ茶番に付き合わされたものです」
「……すまん」
ワタクシの隣でへたり込んだままアレクがポツリと答えました。
「ワタクシが女で、アレクの婚約者で、男装趣味……酷いじゃないですか」
「だから悪かったって。ジンちゃんさぁ、何言ってもめげずに迫ってくるんだぜ。お兄ちゃんだって必死だったの!」
「だからってワタクシに無理やりキスするとか最低ですよ」
「してないし! ……だからごめんってば」
えぇ、確かに未遂ですが、未遂だから無罪ってことはないでしょう?
ワタクシはアレクを睨みつけて罰を宣告しました。
「クソしょうもないことに付き合わされて疲れました。部屋で休みますから代わりに店番お願いします!」
「え、ちょっと! お兄ちゃんだって旅行帰りで疲れてるんですけどー? ……おい、待てよ! ジェル~? おーい、ジェルちゃーん! ジェルちゃんってばぁ~!」
なさけない声で呼び続ける彼を無視してワタクシは奥にある自室へ戻り、店には静寂が訪れました。
後でこっそり様子を見に行ってみると、すっかり日が陰り薄暗くなった店のカウンターでアレクは疲れてぐっすり眠っていて、ジンの置いて行ったランプが存在を主張するようにキラキラと輝いていたのでした。
「ねぇ、アレクちゃん? アタシに嘘ついてたりしなぁ~い? ホントに婚約者なのぉ? 2人からラブラブな感じまったくしないんだけど~?」
「そ、そんなことないって! なー、ジェル子ー! そんなことないよ、なぁ?」
兄が救いを求めるような目でこちらを見てくるので仕方なく調子を合わせてやることにしました。
「……え、えぇ。とてもラブラブなんですよ」
ワタクシは冷めた目でぎこちなく答えました。
あぁ、めんどくさい。どうしてワタクシがこんなくだらない事に付き合わされているんでしょうか。
そもそも、アレクが最初にもっとキッパリ毅然とした態度で断っていればこんな事にならなかったんじゃないですかね。傷つけまいとやんわり断ったりするからこんなことになるんですよ、まったく。
ワタクシがイライラしていると、2人は気遣うような顔でこっちを見てきます。
「じぇ、ジェル子ぉ~……なぁ、そんな怖い顔しないで……な?」
――誰のせいだと思ってるんですか。
「あんらぁ~、ジェル子ちゃんご機嫌ナナメみたいねぇ~」
「そ、そうだな」
「ちゃんと愛情表現してあげてる~? 日頃のスキンシップって大事なのよ?」
「えーっと、そうだな……」
――え、ちょっと、なに急に恋愛相談みたいな流れになってるんですか?
「愛情表現……そうだ! ジェル子。おかえりなさいのチューがまだじゃないか‼」
「あら~、いいわねぇ。やっぱりそういうのって大事よねぇ~!」
ジンはうんうんと頷いています。いや、そこ同意しないで。
「アタシ、そんなラブラブ見せつけられたらさすがにアレクちゃんのこと諦めちゃうかもしれないわねぇ~」
「ほ、ホントか! よし!」
「バカ! アレク! ちょっと何するんですか!」
精神的に参っている中で、急に降って湧いた解決策にまんまと乗せられた彼は、ワタクシの頭を抱え込み、無理やり顔を近づけキスしようとしました。
「ジェル、ちょっとだけ我慢しろ」
「イヤですよ!」
「いいからチューさせろ」
「あ、あなたバカですか……するわけ……ないでしょ……!」
「先っちょだけだから……!」
「それは違うやつです!」
ワタクシは必死で抵抗しましたが、彼も力任せにグイグイ組み付いてきます。
いよいよ精神的に追い詰められたのか、彼のマリンブルーの瞳には光が無くあきらかに目が据わっています。
これはおかえりなさいの軽いキス程度で済む気がしません。
キスをすればオカマは納得するかもしれませんが、ワタクシの大切な何かが失われる気がします。
「アレク……やめ……うぐっ!」
「抵抗すんじゃねぇ……観念しろ……!」
「か……観念しません……!」
「ジェル……往生際が悪いぞ」
「くっ……!」
そして彼とワタクシの最悪な力比べの勝敗がつきそうになったその瞬間。
店の入り口から、ごめんくださいと若い男の声がしました。
「あの、すみません。こちらで古いランプを見かけ……ジンちゃぁぁぁぁん!!!!」
「ダァ~リ~ン!!!!」
白い服にスカーフを頭に被った若い男が笑顔で両手を広げると、ジンはすぐさま駆け寄って、2人はひしと抱き合いました。
「あぁ、よかった。無事だったんだね、ずいぶん探したんだよ!」
「ダーリン、逢いたかったわぁ~! 誘拐されて怖かったしアタシ淋しかったのよぉ~!」
「ごめんよ、僕が目を離したばっかりに。じゃ、うちに帰ろうか」
「えぇ、もう離さないでねぇ~」
突然の出来事にポカンとしているワタクシ達の前で、ジンはこれ見よがしに顔を伏せて大げさに泣き真似をし始めました。
「うぅ……アレクちゃん、ごめんなさい! あなたの気持ちはうれしいんだけどぉ……しくしく。アタシ、あなたの愛には応えられないの! 可哀想だけどぉ~、縁が無かったとあきらめて美しい思い出にしてね、サヨナラ~!」
「――あ、あぁ。よかったな」
兄はそう言うと、気が抜けたのかその場にへたりこみました。
「ジェル子ちゃん、どうかお兄ちゃんとお幸せにねぇ~!」
「もしかして、あなた……最初から全部わかってたんじゃ……!」
「うふふ、とってもお似合いだったわよぉ? バイバーイ!」
こうしてアラビアンナイトのランプの魔人は恋人と一緒に仲良く帰っていきました。
彼の中でアレクのことはおそらくモテ自慢の1ページとして刻まれたことでしょう。
「はぁ。とんだ茶番に付き合わされたものです」
「……すまん」
ワタクシの隣でへたり込んだままアレクがポツリと答えました。
「ワタクシが女で、アレクの婚約者で、男装趣味……酷いじゃないですか」
「だから悪かったって。ジンちゃんさぁ、何言ってもめげずに迫ってくるんだぜ。お兄ちゃんだって必死だったの!」
「だからってワタクシに無理やりキスするとか最低ですよ」
「してないし! ……だからごめんってば」
えぇ、確かに未遂ですが、未遂だから無罪ってことはないでしょう?
ワタクシはアレクを睨みつけて罰を宣告しました。
「クソしょうもないことに付き合わされて疲れました。部屋で休みますから代わりに店番お願いします!」
「え、ちょっと! お兄ちゃんだって旅行帰りで疲れてるんですけどー? ……おい、待てよ! ジェル~? おーい、ジェルちゃーん! ジェルちゃんってばぁ~!」
なさけない声で呼び続ける彼を無視してワタクシは奥にある自室へ戻り、店には静寂が訪れました。
後でこっそり様子を見に行ってみると、すっかり日が陰り薄暗くなった店のカウンターでアレクは疲れてぐっすり眠っていて、ジンの置いて行ったランプが存在を主張するようにキラキラと輝いていたのでした。
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