最終目標はのんびり暮らすことです。

3章：攻略キャラ、大集合？

彼の秘密。 ――5

　全員がリンジーに視線を集中させる。

　セシリアはともかく、オレは乙女ゲームを遊んでいたわけではないので、中身もよくわからない。だが、セシリアが夢中で遊んでいたので、彼女にとってあのゲームはきっと素晴らしい出来だったのだろう。

　なのに、なぜ……そのトップが自ら命を絶ったんだ？

　そして、どうしてリンジーがそれを知っているんだ？

「リンジー……本当に、何者？」
「そのトップふたりね、ひとりは姉だったんだ。『有馬アリマ一希イツキ』の」
「えっ」

　見事に全員の声が揃った。情報量が多すぎる。思考がうまく、動いていない気がする。耳に届くリンジーの言葉が、あまりにも衝撃的過ぎて。

「もうひとりは誰なんですか？」

　カイルが首を傾げて問う。

「姉の夫……に、なりそうだった人」

　なりそうだった人？　セシリアに目を向けると、ハッとしたように顔を上げてリンジーを見つめた。

「きみには少しだけ話したよね。歳の離れた姉がいたことを」

　こくり、とセシリアが首を縦に動かす。

「えーっと、ちょっと質問していい？　時系列がさっぱりなんだけど」

　そうっと手を上げてリンジーに声を掛けると、「だよねぇ」と彼は眉を下げた。

「まず、ゲームが発売されたのが、『咲耶サクヤ』が十七歳の頃だろ？　オレはそのあとえーっと、交通事故にあった」

　果たしてアレは本当に交通事故だったのか、『エリス』の記憶を持つオレは疑っているんだけどね。『エリス』は十七歳で命を絶つことを何回繰り返していたか……その魂の半分を持っていたから、きっとそうなる運命だったのだろう。

　オレが死んだときのことを思い出したのか、セシリアが俯うつむいてしまった。

「そう。その頃の『一希』は十六歳。沙織サオリと同い年だったんだ。そして『一希』の姉は十歳年上だったので、二十六歳。姉はその頃、乙女ゲーム開発チームにいた。そこに、夫になる予定の上司がいた」

　淡々と語るリンジーの表情は、なんだか辛そうだった。飄々(ひょうひょう)と生きていたとばかり思っていたが、前世の記憶があり、さらに身内が自殺したなんてことがあったとは……

「だが、その一年後、姉と上司は……。どうやら上司はとても厄介な相手に好かれていたみたいでね。じわじわと真綿で首を絞めるように姉にも嫌がらせをしていたようだ」
「うわぁ……」
「ボクたちはそれに気付けなかった。ひとり暮らしをしていた姉が痩せたな、とは思っていたのにね」

　まるで罪を告白するかのように、ぽつぽつと言葉をこぼしていく。ぎゅっと拳を握り、目を閉じるリンジーにセシリアが近付き、そっと彼の拳に自分の手を重ねた。