最終目標はのんびり暮らすことです。

海里

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2章:いろんな人の、いろんな事情。

再び、王城へ ――11(2章・完)

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 でもまぁ、カイルがこの年齢でこれだけ強いのは、それだけ鍛錬の時間を取っていたということだろうし、完璧人間……じゃなくて、完璧ハーフエルフじゃなくて良かった。ちょっとした親近感が今更湧いてきたぞ。

「……ここは平和そうで良かった」
「剣術の講師がブレントですからね。ですが、公爵夫人が不在のときは誰に教われば良いのでしょうか?」
「あら、一ヶ月はいるから安心してちょうだい。丁度いいわ、わたくしには子がいないから、暇を持て余していたの」

 え、子どもいないんだ。ちょっと意外。オレが目をまたたかせると、ローレンさまは「うふふ」と笑った。ちらりと子どもたちの刺繍を見て、一ヶ月もあればかなり上達しそうだなぁと思った。

「この子たちをよろしくお願いします」
「はい。任されました」

 オレとローレンさまがそんな会話をしているなか、カイルは必死になって糸を解いていた。ちなみにセシリアはとても細かい刺繍をしていた。器用になったんだな、沙織サオリ

 思わず前世を思い出して、感慨深く息を吐く。オレが見ていたことに気付いたのか、セシリアは「どうしたの?」と首を傾げた。

 緩やかに手を振り、「なんでもないよ」とアピールする。セシリアは不思議そうにこっちを見たけど、すぐに刺繍に視線を落して、集中し始めた。

 オレも小さな刺繍を完成させて、今度は調理場へ向かうことになった。

 調理場では、子どもたちが皿を洗っていた。そして、シェフから感謝された。皿洗いをする人材が足りなかったらしい。今は皿洗いだけど、そのうちきちんと教えるから! と熱く語るシェフに「お願いします」と頭を下げ、忙しそうなのですごすごとその場をあとにした。

「なんというか、熱気がすごいな」
「どれだけ皿洗いの需要があったんだろう?」
「下積みってところでしょうか」

 それぞれそんな感想を口にしながら、ふらりと身体がよろつき、カイルがガシッと身体を支えてくれた。

「ごめん、ちょっと、休憩させて」

 たった三ヶ所を見回っただけで、体力がごっそりと削られている。学園に入る前にこの体質が治りますように。そのためにカイルの時間を奪うことになるだろうけど、本当申し訳ない。

「お兄ちゃんはゆっくり休んで。……『エリス』って病弱設定なかったんだけどなぁ?」
「あ~、この世界、いろいろおかしくなっている気がするよな……」
「エリスさま、部屋へ戻ってベッドで休んでください。顔色が悪いですよ」

 心配そうに眉を下げるカイルとセシリア。こくりとうなずいて、借りている部屋に向かう。魔法を使ったのはあの一回だけなのに。

 自分でもびっくりするほど体力がない。

 ……確か、学園で剣術が必須科目に入っていたような。ちゃんと剣術の授業受けられるか心配になってきた。

 そんな不安を抱えつつ、カイルに支えられながら部屋に向かう。

「……セシリア、あとで記憶のすり合わせしたいから、話そう」
「うん。今は休んで。本当にひどい顔色だよ」

 そんなにヤバイ顔色してんの? と思わず自分の顔に触れる。今朝の体調は普通だと思ったんだけどなぁ。

 十字路でセシリアと別れ、部屋まで歩いた。カイル、本当は背負おうとしてくれたけど、男の意地で歩いた。……支えられて、だけど。

 部屋に入りベッドに横になると、カイルがぷちぷちとオレの首元のボタンを外した。

「寝間着に着替えたほうが楽だとは思いますが……」
「いいよ、ちょっと休むだけだから。……王城って広いんだなぁ」
「迷路っぽくもありますよね。……エリスさま、私はここで待機していてもよろしいでしょうか?」
「カイルはカイルで、探索してきても良いんだぜ……?」
「私はエリスさまの護衛です。主人がゆっくり休める環境を作るのも、役目のひとつですよ」

 ……そうなのかなぁ? でも、ダメだ。考えることができないくらいの睡魔が襲ってきた。目を閉じると、あっという間に眠りに落ちてしまう。

 カイルに、過保護もほどほどにって伝えなきゃ……って思っていたのに、オレの意思とは関係なく、深い眠りに落ちた。
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