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2章:いろんな人の、いろんな事情。
再び、王城へ ――8
しおりを挟むぎょっとしてカイルから逸らしていた視線を向けた。彼は非常にイヤそうに眉根を寄せていた。
「……あのさ、オレ、天族に見えないよね?」
「……ノーコメントでお願いします」
まさか本当に天族に間違えられたわけじゃないよな? 光属性の魔法を使ったからという理由で。そう思いつつ、張り切って指導する彼を眺めながら、オレとカイルは同時に息を吐いた。
「本当、思い込みってすごいですね」
「子どもたちにとって、良い師匠になってくれたらいいんだけど」
「……そうですね」
なんか間があったような。カイルを見上げると、じっと子どもたちを見つめていた。
セシリアがオレらに近付き、パチパチと興奮したように拍手をしながら「カイルくん、強いねぇ!」とほのぼの笑っていた。
――ああ、和む。カイルは褒められたことににこりと微笑み、
「ありがとうございます。ですが、まだまだ精進しなくてはいけません」
なんて殊勝なことを言っていた。
剣術かぁ。憧れはするけれど……
「オレが剣術やりたいって言ったら……」
「ダメです」
「倒れちゃうんじゃない?」
ですよね、知ってた!
王宮で倒れたくはないから、大人しくしておこう。すでに一回、アレン殿下の誕生日パーティーの日に倒れているし。
ふと、カイルが口を開く。
「リンジー卿に求婚されていたみたいですが……」
「……びっくりだよね~」
えへへ、と笑うセシリアの表情が硬い。カイルはちらっとオレを見たけれど、すぐに「いきなりでしたよね」としみじみと呟いた。
「あの、リンジーさんって百歳以上、なんだよね?」
「自己申告では。……ただ」
「ただ?」
「私たちハーフエルフの中では、かなり長い間生きている可能性があると言われています。覚えているのが百までだった、と」
ハーフエルフの平均寿命って何歳なんだろう。セシリアはなにかを考えるように口元に手を当てて、黙り込んでしまった。
「今日、リンジーさんは?」
「一度ルトナーク家に戻り、シェリルさまに魔法紙を書いていると思います。それが終わったらまたこちらに戻る、と」
「あ、そうなんだ?」
昨日、カイルとリンジーは長々と話していたようだし、そのときにシェリルの言葉を伝えたのかな? そのうち戻ってくるであろうリンジーの姿を想像していると、
「じゃあ、戻って来たらリンジーさんとお話しても良いかな?」
「それはオレらに断らなくてもいいことじゃ?」
「でも、ルトナーク家で雇っている人でしょ?」
「それを言うなら、セシリアもだからな?」
え? と目を丸くするセシリアに、父さんたちと話し合ったことを伝えると、その大きな瞳からぽろりと涙がこぼれた。
「あれ、なんで、わたし……っ」
そっとセシリアを抱き寄せて、労わるように頭を撫でた。
彼女はずっと、教会の子たちを見ながら独りでがんばっていたのだろう。たくさん歯がゆい思いをしただろうし、大変な思いをしてきたのだ。
兄として、オレにできることはきっと少ない。でも、彼女が涙を流せて良かったと、心から思ったんだ。
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