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2章:いろんな人の、いろんな事情。

そして、それから。 ――13

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 そして、たぶん、勉強の途中で来てくれたんだろうなぁ。

「……なんかポーラが淹れたお茶を飲みたくなってきちゃった」

 さっきも飲んだけど、部屋の中で飲むとリラックス効果が倍増するような気がするんだよね。

「では、頼んできます」
「うん、カイルも一緒に飲もう」
「はい、ありがとうございます」

 カイルが部屋から出て行き、オレはベッドに寝転んだ。今頃セシリアたちはどうなったのだろう。天井を見つめながら、昨日と今日、起きた出来事を思い返して重々しく息を吐いた。

「……どんな理由があろうとも、ああいうのはいけないことだよなぁ……」

 怯えていた子どもたちのことを思い出し、あの子たちが子どもらしく過ごせることを願った。

 それにしても結局宿屋に泊まってない。宿屋の主人には申し訳ないことをした……けど、お金は前払いしていたから、セーフだと思いたい。

 今度、機会があったら泊まろう。『エリィ』ではなく『エリス』として。

 今後のことを考えていると、ノックの音が聞こえた。きっとカイルとポーラだ。「どうぞ!」と大きな声を上げて起き上がると、扉が開いて想像していた通りのふたりが入ってきた。

「エリス坊ちゃん、リラックスできるお茶をご用意しましたよ!」
「ありがとう。わ、お菓子も持って来てくれたんだ!」
「はい。先程あまり召し上がっていないようでしたので……」

 さすがポーラ。よく見ている。

 ポーラは手際よくお茶を淹れてくれた。ベッドから降りてテーブルに近付き、椅子に座る。ことりとカップを目の前に置かれ、ポーラを見上げた。

「カモミールティーです。……ゆっくりと、休んでくださいね」

 猫耳と尻尾を軽く動かしながら微笑むポーラ。

「ありがとう」

 お礼を伝えると、首を左右に振ってから「なにかありましたら呼んでください」と頭を下げて部屋から出て行く。

 カイルはまだ立ったままだったから、座るように促(うなが)した。

「昨日と今日の短期決戦、お疲れさまでした」
「本当、短期だったな。カイルもお疲れさま!」

 乾杯って感じでカップを上に持ち上げる。そしてそのままお茶を一口。あー、やっぱりポーラの淹れたお茶が口に合う。

「それにしても、宿屋に行く前は『時期じゃない』ってリンジーが言っていたよな?」
「いきなりの短期になりましたね。宿屋についてから、彼の心情が変わったのでしょうか?」

 ふたりでリンジーの言っていたことを思い出し、首を捻る。リンジーが短期決戦に持ち込んだおかげで、あの少女や少年を助けられたとは思うけど、なんでいきなり変えたんだろう?

 でも、もしもリンジーがそう提案していなかったら、あの子たちは身体にも心にもたくさんの傷を負ったはずだ。そう考えるとリンジーナイス。

「もしかしたら、リンジー卿は風魔法で声を聞いていたのかもしれません」
「声を?」
「はい。宿屋に行くまでは普通に過ごしていたけれど、なにかトラブルがあり『躾』の時間ができた、と考えれば……」

 風魔法ってそんなこともできるの? 魔法って本当、便利だなぁ。そしてカイルの言う通りなら、リンジーの意見が変わったのも納得できる。……ただ、彼があそこまで協力的になってくれるとは思わなかった。

 シェリルの護衛としての役割以上のことをしてくれたもんな。
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