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2章:いろんな人の、いろんな事情。
そして、それから。 ――10
しおりを挟む「今日はもう休みなさい。――カイル、エリスを頼む」
「かしこまりました。行きましょう、エリスさま」
カイルはオレを連れて自室へと歩いていく。そして、部屋につくとベッドに座るように促す。すとんとベッドに座ると、彼はその隣に座りじーっとこっちを見つめてくる。な、なんだ、どうした……?
「体調は本当に大丈夫ですか?」
「う、うん。平気。えっと、カイル、どうしたの……?」
いや本当にどうしたんだ? カイルがオレの頬に手を添える。まるで、体温を確認しているかのように。じわじわと彼の体温が頬に溶け込んでいくような不思議な感覚。……あ、これ魔力か?
「エリスさまが昨日倒れてから、ずっと手は繋いでいたのですが、まだまだ足りないようですね」
「え、そうだったの?」
だから目覚めたときにカイルがいたのか。なるほど。カイルの手は頬から離れ、ぎゅっと手を繋ぐ。繋いだ手から魔力が流れてくるのがわかる。ぽわぽわと春の日差しのように暖かい魔力だ。
「……カイル、そんなに魔力を流したら……」
魔力切れを起こすんじゃないかと心配になって声を掛けると、彼はふるふると首を横に振った。
「私はハーフエルフですよ?」
あ、そうだった。いやでもハーフエルフだから平気ってわけでもないだろう。
「エリスさまが倒れるのを見るたびに、本当に心臓が鷲掴みされるくらい、いつも心が痛いのです。目覚めなかったらどうしよう、と」
その表情があまりにも苦しそうで、言葉を紡げなかった。
自分と歳の近い、さらに護衛対象が倒れやすいのだ。なんだか申し訳なくて、カイルに「ごめんな」と謝った。すると、彼はぎゅうっと強く手を握ってきた。
「……エリスさま。寝るときだけでいいので、私をエリスさまの部屋に置いてくれませんか?」
「え?」
「エリスさまの眠っている間、手を繋いでいたいのです」
それってオレが寝ている間ずっと手を繋いでいるってこと?
「それ、カイルの睡眠時間が削られるんじゃ?」
まだ十四歳の子の睡眠時間を削るのはちょっと……憚られるんだけど。でも、カイルは真剣な表情だ。
「オレが眠っている間、カイルは起きているつもりだろ? 睡眠時間は大事だよ」
「手を繋いで、私は椅子で休みます」
「身体に悪そうだからやめて!」
成長期にそんなことをしたらダメだろう。これからすくすく育つ(たぶん)のだから。カイルが大人になったら、ヒューのような美青年になるんだろうか。
そしてその隣に地味なオレ? うーん。なんというか、絵面が面白いことになりそうだ。しかも護衛対象がオレのほうだしね。
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