最終目標はのんびり暮らすことです。

海里

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2章:いろんな人の、いろんな事情。

作戦を決行しよう ――5

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 セシリアは天族だから、リンジーの言っていた『庇護対象』にはならないはずだけど……? 彼の言っている意味がわからなくて、セシリアと顔を見合わせて首を傾げる。

 もしかしてこのふたり、知り合いだったのか? と思ったけど、セシリアには身に覚えがないみたいだ。

 リンジーに問おうか考えていると、彼女は「えっと、よろしくお願いします……?」とリンジーに頭を下げた。

 その頭をぽむぽむと優しく撫でると、リンジーはオレらを見てから窓の先を見つめる。

「そろそろ行こうか。あと一時間もしないうちに始まるよ。――『お仕置き』が」

 みんなで顔を見合わせて、こくりと小さくうなずいた。そして、教会に向かう前に、オレとセシリアで念のため光魔法を掛けておく。この魔法は火との姿をぼやけさせる効果がある。効かない人もいるらしいけど、人間には有効だとヒューの魔法講座で教えてもらったことがある。まぁ、口頭じゃなくて文章だったけど!

「あとで落ち合おう!」
「うん、気をつけてね、エリィちゃん!」

 自分で名付けたけど、セシリアから『エリィちゃん』って呼ばれるの、やっぱり複雑な気分になるな……と思いつつ、オレとカイルは事前に教えてもらっていた教会の裏口へ向かう。

 裏口にも誰もいないようで……むしろ、この時間なら誰かいてもおかしくない時間だよな。まだ午前中だし。こっそり中へ侵入することに成功。

 あまりにも呆気ない。罠か?

「それじゃ、地下に向かおう」
「ええ。気をつけて行きましょう」

 カイルがオレの前に立ち、警戒しつつ地下へと足を進める。教会の中はしんと静まり返っていて逆に不気味だ。教会で暮らしている子たちは、一体どこに……?

 地下に近付けば近付くほど、人の気配を感じる。地下に全員集まっているのか?

 シスター服を着た人が見えた。檻の中に、子どもたちが
いっぱい。その子たちは、助けを求めるように手を伸ばしている。

「やめて、お願いします、シスター!」
「あなたたちが私の言うことを聞かないから、お仕置きするんですよ。お仕置きついでにお金も手に入るのですから、一石二鳥ではありませんか」

 くす、と笑う声。怯えるように身を震わせる十代の少女の姿と、ガタイのいい三十代から四十代くらいの男性が数人。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているのを見て、ぞわりと鳥肌が立った。

「やだ……、来ないで、来ないでください……!」

 少女の両手には縄が巻き付かれていて、男性の手には鞭が見える。子どもたちの前であの少女を痛めつけようとしているのがわかった。

「大人しくしとけよ。お前がダメなら、あっちの奴らからやるからな?」
「……ッ!」
「そうそう。オレらは金を払ってお前らを買ってんだから。教会の存続のためになぁ?」

 ……やっぱりこの教会腐ってる! 腐りすぎているってことで良いんだよな。ちらりとカイルを見ると、無表情だった。どんな感情が彼の中で巡っているのかちっともわからない。

 カイルがなにかを呟く。これも、事前に話し合って決めていたこと。

「ほら、いつものようにねだれよ。『悪い子に躾をお願いします』ってなぁ!」

 鞭を大きく振りかぶる男性に向けて、風の魔法紙を破った。ひゅん、と音が聞こえて、鞭を持った男性に命中した。「がはっ」と鳩尾に一発。バタンと倒れた音が聞こえた。ナイス威力だ、リンジー。

「な、だ、誰です! この神聖な儀式に水を差すのは!」
「証拠はとれた?」
「ええ、バッチリ。声も顔も。……私の無属性魔法が、こんなことにも使えるとは思いませんでしたね」
「ほんと、無属性魔法の便利さよ……。さて。ねえ、これって犯罪だよね、シスター?」

 オレたちがシスターに近付くと、男性たちがシスターに「おい、どういうことだよ!」と叫ぶ。シスターは「知りませんよ」と忌々しそうにこちらを睨んできた。

 暴力で子どもたちを屈服させようとしているなんて……、本当、頭がいかれているとしか思えない。

「――『お仕置き』の時間だよ、シスター。腐りきった教会のね!」
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