最終目標はのんびり暮らすことです。

2章:いろんな人の、いろんな事情。

作戦を決行しよう ――3

　リンジーが確認するように声を掛けてきた。オレはカイルに向けてうなずく。

「終わりました。魔法を解いてください」

　パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。リンジーの魔法が解け、変装完了したみんなと初顔合わせ。

　リンジーはいつもの黒から白へと変わっていた。白というか、銀？　逆にカイルの髪色が銀色から黒に変わっていたから、色の交換をしようと決めていたのかもしれない。セシリアも少年のような格好に着替えていた。白のシャツにこげ茶のハーフパンツ。髪を隠せるように帽子を深めに被り、オレの格好を見ると目をキラキラと輝かせる。

「わぁ、お兄ちゃん可愛い！」
「……うん、嬉しくない！」
「あ、お兄ちゃんじゃおかしいよね。今は女の子だもん。名前、どうしよう？」

　それにしてもシェリルといいセシリアといい、なんでそんなに男装が似合っているんだ。

　それは置いといて、名前か。正直、このまま『エリス』でも女性として通じるとは思うけど……危険だよな。

「あんまり捻るとオレが反応出来ないと思うから、エリィで良いんじゃね？」
「エリィかぁ！　可愛いね！　良いと思う！　ふたりも良いですか？」

　セシリアがカイルとリンジーに尋(たず)ねる。ふたりともうなずいたので、この格好のオレの名前は『エリィ』に決まった。……我ながら安直なネーミングだとは思うけど、どうせこの格好でいるのは短い間だけ。なら、いいかな、と。

「それじゃあ、付いて来て！　ここら辺は良く絵を描きに来ていたから詳しいの！」

　セシリアの案内で教会に割と近い宿屋に向かう。それにしてもこれ、他の人にはどんな風に見えるんだろう。お忍びのお嬢さまと護衛、それから案内？　……そう見えていると良いんだけど。

　宿屋につき、リンジーが宿屋の主人と話をする。彼が小袋に入ったお金を見せた途端、宿屋の主人はぱぁっと表情を明るくしたので、お金の力ってスゲーなとしみじみ思った。

　部屋を案内されて目を見開く。そこそこ広い部屋で、ベッドが四つある。ここでみんな一緒に寝るってことなんだろうけど……。案内してくれた宿屋の主人が「それではごゆっくり！」と扉を閉めたのを確認してから、口を開いた。

「全員同じ部屋なの？　セシリアは女の子だよ？」

　男女同じ部屋で良いのか？

　首を傾げてつい、そう言ってしまった。

「大丈夫だよ、エリィちゃん！」

　セシリアに『エリィちゃん』って呼ばれるのって、なんだか複雑な気持ちになるなー……

　リンジーは早速ベッドに座って魔法紙を作っているし、カイルは窓を開けて辺りを見渡し、すぐに窓を閉めた。

「確かに割と近いですね」
「うん。それに、この辺の人たちは孤児院の子たちに関しても、結構寛容なのですよ」
「寛容？」
「教会でのこと、知っている人たちもいるから……。とはいえ、教会に目をつけられたくないから、関わろうとはしないけど」

　肩をすくめるセシリアに、オレは彼女の頭を優しく撫でた。そんな状況下で暮らしていて、よく耐えていたな……と。