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2章:いろんな人の、いろんな事情。
今後の話し合い ――4
しおりを挟むとりあえず、今のオレらのことをセシリアに話した。沙織なら、ゲームの内容を多少覚えているかもしれないと思ったから。
セシリアはふむふむと神妙な顔をしながらうなずいていた。
シェリルとオレの二年前の話や、『エリス』が何度もループを繰り返していたことを話したら、『エリス』のことを思ってか、はたまたどのルートでも断罪される『乙女ゲームのシェリル』のことを思い出したのか、ポロポロと大粒の涙をこぼした。
「うううう、エリスさんにそんな過去があったなんて……。シェリルちゃんのこと、本当は大好きだったんだねぇ」
なんてハンカチで目元を押さえながら言葉にしていた。
「本当ねぇ。あたくしもびっくりしたわ」
頬に手を添えるシェリルは、小さく呟いた。『人形』として過ごして来た日々を、シェリルは覚えていないだろう。見たのは『エリス』の記憶のときだけ。
それでも、『エリス』が何度も彼女を救おうとしたことを、彼女は知っている。『エリス』がシェリルを大切に思っていることを、彼女は知っている。
まぁ、オレも結構好きだけどね、今のシェリル。生き生きしているし、目の輝きが違うような気がするし。
「なによ、その顔は」
「ん? オレ、どんな顔をしてる?」
「なーんか、ニマニマしてるわよ?」
手を伸ばしてオレの頬をぐにぐに引っ張るシェリルに、カイルは「シェリルさま……」と困ったように手を離させようとした。それにしても、なんだか不思議な縁で繋がっているよな、オレら。
「なぁ、セシリア。お前が孤児になるのはある事件がきっかけって言っていたよな。それ、どんな事件なんだ?」
「天界でいざこざが起きるの。えっと、要するにクーデターが起きちゃうんだ。それに巻き込まれて両親が亡くなって、親戚にたらい回しにされたあとにぽーいって教会に捨てられるはずだったんだけど……」
主人公の設定重くない? いや、そういう重い過去があるからこそ、幸せを掴んで欲しいってことなんだろうか。セシリアは「その前に捨てられちゃった」と明るい声色で話すもんだから、思わずじっと彼女を見てしまった。……無理をしているようには見えないけど、人の心は見えないからな。
「いやぁ、『沙織』は老衰で亡くなったから、人生経験はそれなりに豊富なんだけど……まさか赤ちゃんの頃に捨てられるとは思わなかったなぁ。孤児の子たちも良い子たちなんだよ! みんな可愛いの! そりゃ、ちょっといろいろ擦れちゃった子もいるけど、私から見るとみんな可愛い子たちでねぇ……」
孫を可愛がるおばあちゃんのようなことを言い出した。そういえば、セシリアも同じくらいの年齢で良いんだろうか。だとすると、
「シェリルちゃんも可愛いし、お兄ちゃんとも会えたし、幸せだなぁ……」
「……オレはちょっと複雑だなぁ……」
沙織が老衰で亡くなったってことは、『咲耶』の年齢を超えてしまったということで。お兄ちゃんは嬉しいけれど、ちょっぴり複雑です。いや、喜ばしいことだとは思っているよ? オレがいなくても、彼女はちゃんと自分の足で歩いて行けたってことだから。
「ふふ、でもね、お兄ちゃんはずっと『沙織』と一緒だったんだよ。みんなで撮った写真、お守りとして持ち歩いていたんだ。えっと、それでね、前世で夫になった人はね……」
セシリアが、まるで埋められなかった時間を埋めていくかのように、『沙織』の人生がどんなものだったのかを話す。
シェリルとカイル、そしてオレはその話を聞きながら、ときどき相槌を打ったり、感心したように声をだしたり、疑問を尋ねたりしながら彼女の生涯の話を聞いた。平凡だけど幸せな一生だったと、セシリアは目元を細め、目尻に涙をにじませながら話を結んだ。
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