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2章:いろんな人の、いろんな事情。
今後の話し合い ――2
しおりを挟む「……おいおい、女の子が男のベッドに寝っ転がるなよ」
「あら、別に良いじゃない。エリスのベッド、広いし」
お前のベッドだって広いだろうが、と心の中でツッコミを入れる。シェリルの部屋にも数回入ったことあるけど、なんというかいつの間にか部屋のコンセプトががらりと変わっていったような気がする。それを聞いたら、『人形』だったときはフリルたっぷりのいかにも『女の子系』しか選べなかったが、解き放たれたら自分の部屋に違和感を覚えたらしい。
『自分好みの部屋にしたかったのよ』
紅茶を飲みながらそう言っていたのを思い出し、肩をすくめた。
しかも部屋の家具や配置すべてシェリルが自分で選んで決めたというのだから、彼女の思い切りに感心したものだ。
「そうそう、ポーラがスープを用意してくれたわよ。目覚めたばっかりだから、胃に優しいスープをってね」
「そういえばポーラは?」
「他に仕事があるみたいよ」
そっか、と呟いて、テーブルの上に置かれたスープに視線を移す。ほわほわと白い湯気がたっているのを見て、ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。
「食欲はありそうね」
「……お兄ちゃん……」
腹が減ってはなんとやら。テーブルに近付いて椅子に座り、「いただきます」と口にしてからスプーンを手に取る。透き通るようなコンソメスープ。優しい味は五臓六腑に染み渡る。アレン殿下の誕生日パーティーで食べた料理も美味しかったけど、ルトナーク家のシェフの味は心からホッとする味だ。……やっぱり、ここが『帰る場所』なんだよなぁと考えながら、スープ一杯をぺろりと平らげた。
シェリル、セシリアがオレの正面に座り、カイルが横に座った。
「ところで、身体は大丈夫なの?」
「ん? ああ、原因はリンジーが教えてくれたから、あとはまぁ、なんとかなるんじゃない?」
「……あんたね」
呆れたような視線を向けられ、「はは」と笑う。でも、自分の護衛であるリンジーが関わっていることに、シェリルは首を傾げる。
「っていうか、なんでリンジーがそんなことを知っているのかしら? ハーフエルフだから? 何歳か知らないけど」
やっぱり謎の人物っていうイメージが強い。
セシリアがちらちらとオレとシェリルを交互に見ていることに気付き、「どうした?」と声を掛けると、びくっと身体を揺らした。
「……セシリア?」
「あ、あの、あのね、お兄ちゃん、シェリルちゃん。私、本当にここに居ていいのかなぁ……?」
「え? どうしたんだよ、急に」
セシリアは視線を下に落して、言葉を探すように黙り込んだ。そして、顔を上げて胸元の服をぎゅっと握りながら話し出す。
「だ、だって、本当は私たち、学園に入ってから出会う予定だったんだよ? ゲームのシナリオと、全然違うの……」
「それなんだけどさ、ちょっと確認したいことがあるんだ。セシリアはさ、ゲーム通りの設定に沿って動いていたか?」
彼女が『人形』であるのかないのか、気になった。見ている限り、たぶん違うとは思うのだけど。
「ううん。私ね、赤ちゃんの頃に捨てられたの。本来なら、『セシリア』はある事件がきっかけで孤児になるんだけど……。あ、でもね、お兄ちゃんがこの世界に居るって知っていたから、怖くなかったよ! そりゃ、シスターたちはちょっと怖かったけど、優しい人もいたし……」
あのきに見せた怯え。そう問う酷いことをされてきたのかもしれない。そう考えたらはらわたが煮えくり返りそうだ。
シェリルはセシリアを慰めるように背中を優しく撫でた。
じわっと目に涙を浮かべて、彼女は静かに泣き始めた。沙織がこんなに静かになくところを、初めて見た。
「沙織、おいで」
優しい口調でそう言うと、セシリアは椅子から立ち上がり、迷うことなくオレの腕の中に飛び込んできた。がんばったな、と頭を撫でてやると、肩を震わせて涙を流す。シェリルも近付いて、背中を撫でていた。
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