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2章:いろんな人の、いろんな事情。
まさかの再会 ――3
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ひ孫!? そっか、長生きしてくれたんだな……良かった。
沙織はオレの胸をぽかぽかと叩きながら「なんであのとき庇ったのぉ……」とわんわん泣きながら言われて、なんでって……沙織を助けることしか考えていなかったから、仕方なかったというか。しどろもどろに説明すると、ますます泣いてしまった。あたふたと沙織をなだめようと彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
「か、カイル、あ、飴! 今すぐ飴!」
「は、はい」
大泣きしている沙織。カイルに声を掛けて飴をもらう。飴の包み紙を剥がし、「ほら、あ~ん」と言うと、沙織は素直に口を開けた。そこにコロンと飴を入れてやると、口を閉じてころころと飴を転がし始め泣き止んだ。昔からこの手は沙織に効く……!
「……ん? そういえば、沙織は今、なんていう名前なんだ?」
もごもごと飴を舐めている沙織に問うと、沙織は口を開こうとして、飴を食べていることに気付いて口を閉じた。
「舐め終わってからでいいよ」
こくんとうなずき、飴を舐めることに集中し始めた。それから五分もしないうちに舐め終わって、気持ちも落ち着いたのか自分の胸に手を置いて自己紹介をした。
「取り乱してごめんなさい。私の名は――セシリア。セシリアと申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
オレとシェリルは顔を見合わせて、それからふたり同時に「えええええっ!?」と叫んでしまった。だって、それはヒロインの名前じゃないか!
その叫び声を聞きつけたのか、それとも偶然教会に近い場所にいたのか、リンジーが父さんと母さんを連れてきた。彼を見るとにんまりと笑っている。まるですべてわかっているかのように。
「こんなところまで来ていたの? あら、それは?」
「えっと、彼女が描いた絵です。気に入ったので、買おうかと」
母さんが沙織の描いた風景画に興味を示した。沙織――いや、セシリアはちょっと照れたように頬を朱に染めながらにこにこと微笑む。父さんも彼女の絵を見て「ほう」と感心したように呟いた。
「これをきみが描いたのかい?」
「はい。風景画も人物画も得意です!」
元気よく答えるセシリアに、父さんと母さんは顔を見合わせて、それから彼女と視線を合わせるようにしゃがみ込みこんだ。
「――ルトナーク家に来ないか?」
「えっ?」
それに驚いたのはセシリアだけではない。その場にいた全員が驚いたと思う。唯一カーティスだけは不思議そうにオレらを見ていただけだ。あ、リンジーはただ目を細めてセシリアを見つめていたから、驚いていたかどうかはわからない。
父さんの言葉はシスターや子どもたちも混乱させたようで、じぃっとこっちを見つめられている。
「……それはどういうおつもりでしょうか、ルトナーク伯爵」
コツコツと足音を響かせて歩いてくるシスター服の女性。中年くらいかな。眼鏡をかけた女性だ。厳しそうな目を父さんに向けている。ただ、父さんはそんなことを全然気にしていないみたいだ。
「この子の絵をもっと見てみたい、ということさ」
立ち上がってシスターの真正面に立つ父さん。――を、見上げるオレたち。母さんはセシリアを見つめている。
「それはこの子を雇うということでしょうか。それとも――……」
「行きます! なんでもします! 絵もたくさん描きます! お願いします、ルトナーク家に行きたいです!」
セシリアは一気にまくしたてる。その勢いに少し、目を丸くしてしまった。あまりにも鬼気迫っていてから。母さんは彼女の肩にぽんと手を置き、父さんに視線を移し小さくうなずく。父さんも母さんを見てからシスターに向けてにっこりと笑顔を浮かべた。
「構わないだろう、シスター?」
「勝手に話を進めないでください……!」
沙織はオレの胸をぽかぽかと叩きながら「なんであのとき庇ったのぉ……」とわんわん泣きながら言われて、なんでって……沙織を助けることしか考えていなかったから、仕方なかったというか。しどろもどろに説明すると、ますます泣いてしまった。あたふたと沙織をなだめようと彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
「か、カイル、あ、飴! 今すぐ飴!」
「は、はい」
大泣きしている沙織。カイルに声を掛けて飴をもらう。飴の包み紙を剥がし、「ほら、あ~ん」と言うと、沙織は素直に口を開けた。そこにコロンと飴を入れてやると、口を閉じてころころと飴を転がし始め泣き止んだ。昔からこの手は沙織に効く……!
「……ん? そういえば、沙織は今、なんていう名前なんだ?」
もごもごと飴を舐めている沙織に問うと、沙織は口を開こうとして、飴を食べていることに気付いて口を閉じた。
「舐め終わってからでいいよ」
こくんとうなずき、飴を舐めることに集中し始めた。それから五分もしないうちに舐め終わって、気持ちも落ち着いたのか自分の胸に手を置いて自己紹介をした。
「取り乱してごめんなさい。私の名は――セシリア。セシリアと申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
オレとシェリルは顔を見合わせて、それからふたり同時に「えええええっ!?」と叫んでしまった。だって、それはヒロインの名前じゃないか!
その叫び声を聞きつけたのか、それとも偶然教会に近い場所にいたのか、リンジーが父さんと母さんを連れてきた。彼を見るとにんまりと笑っている。まるですべてわかっているかのように。
「こんなところまで来ていたの? あら、それは?」
「えっと、彼女が描いた絵です。気に入ったので、買おうかと」
母さんが沙織の描いた風景画に興味を示した。沙織――いや、セシリアはちょっと照れたように頬を朱に染めながらにこにこと微笑む。父さんも彼女の絵を見て「ほう」と感心したように呟いた。
「これをきみが描いたのかい?」
「はい。風景画も人物画も得意です!」
元気よく答えるセシリアに、父さんと母さんは顔を見合わせて、それから彼女と視線を合わせるようにしゃがみ込みこんだ。
「――ルトナーク家に来ないか?」
「えっ?」
それに驚いたのはセシリアだけではない。その場にいた全員が驚いたと思う。唯一カーティスだけは不思議そうにオレらを見ていただけだ。あ、リンジーはただ目を細めてセシリアを見つめていたから、驚いていたかどうかはわからない。
父さんの言葉はシスターや子どもたちも混乱させたようで、じぃっとこっちを見つめられている。
「……それはどういうおつもりでしょうか、ルトナーク伯爵」
コツコツと足音を響かせて歩いてくるシスター服の女性。中年くらいかな。眼鏡をかけた女性だ。厳しそうな目を父さんに向けている。ただ、父さんはそんなことを全然気にしていないみたいだ。
「この子の絵をもっと見てみたい、ということさ」
立ち上がってシスターの真正面に立つ父さん。――を、見上げるオレたち。母さんはセシリアを見つめている。
「それはこの子を雇うということでしょうか。それとも――……」
「行きます! なんでもします! 絵もたくさん描きます! お願いします、ルトナーク家に行きたいです!」
セシリアは一気にまくしたてる。その勢いに少し、目を丸くしてしまった。あまりにも鬼気迫っていてから。母さんは彼女の肩にぽんと手を置き、父さんに視線を移し小さくうなずく。父さんも母さんを見てからシスターに向けてにっこりと笑顔を浮かべた。
「構わないだろう、シスター?」
「勝手に話を進めないでください……!」
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