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2章:いろんな人の、いろんな事情。
お祭り ――6
しおりを挟む「わたしは、シェリルさまのイメージで選びました」
「ふふ、ありがとう。あなたにはあたくしがこう見えるのね」
可愛らしいピンク色のブレスレットを撫でて、シェリルは嬉しそうに目元を細める。シェリーは「はい」と照れたように頬を赤らめた。シェリルは自分の護衛のことを大切に思っているし、護衛であるシェリーも主であるシェリルのことを大事に思っている。いい主従関係なのでは? リンジーはちょっとわからないけどね。
「エリスたちは?」
「カイル、帰ってからでいい?」
「はい」
シェリルとシェリーのブレスレット交換はすっごく可愛らしかったようで、人気がない場所だったというのに、いつの間にか周囲の視線が注がれていた。
こんな注目を集めている中で、カイルにブレスレットを渡す勇気はない。彼もオレの性格を知っているから、即座に答えてくれた。途端に唇を尖らせるシェリルに、オレは肩をすくめてみせた。
「ほら、まだ見ていないところもあるんだから、他の場所も巡ろう?」
シェリルに手を差し出しながらそう言うと、彼女はむぅと頬を膨らませたままぎゅっと手を握る。そして、歩き出す。
「ブレスレット、似合っているよ」
「シェリーが選んだものだから、当たり前よ!」
誇らしげに胸を張るシェリル。上機嫌のようだ。気持ちの切り替えが素早い。四人で露店巡りをした。水風船掬ったり、射的をしてみたり、日本の縁日を満喫している気がする。いや、気じゃないな、満喫していると言い切れる。
ちなみに射的では大きなぬいぐるみをゲットしてしまい、抱っこして歩くということになった。この大きさのぬいぐるみを持って歩くのはなかなか大変だ。
見かねたカイルが「持ちます」といってくれたけど、彼が持っているほうが注目を浴びると思い、断った。
そして、ふと――赤茶の髪を持つ少年の後ろ姿が見えた。オレは自然と駆け出し、
「カーティス!」
と名前を呼んだ。びくりと肩を震わせて、それから恐る恐る静かに振り返り、オレ――というか、抱っこしている大きなぬいぐるみにぎょっとしたように目を瞠った。
「え、エリスか。ぬいぐるみが喋ったかと思った」
「ははは、なにそれ怖い。ところでこれいらない?」
「はあ?」
「射的の景品なんだけど、ぬいぐるみを当てる気はなかったんだよ……! しかもこれなんのぬいぐるみ? ユニコーン?」
「いや、角が二本だから、バイコーンだ」
ばいこーん? そんな生物いたっけ? と思考を巡らせていると、「可愛いのか格好良いのかわからない顔をしているな」なんてぬいぐるみの頭を撫でるカーティス。こういうの好きなのかな。
「……いらない?」
「……本当に、エリスはいいのか?」
「うん。欲しい人のところに行けたら、ぬいぐるみだって本望だろうし」
ぐいっとカーティスにぬいぐるみを差し出した。彼はそれを受け取って、「ありがとう」と小声で呟いた。聞こえるか聞こえないかって感じの、小さな声。オレの耳には届いたから、「どういたしまして!」とにっと歯を見せて笑った。
「あ、でも持ち歩くの大変じゃない?」
「大丈夫だ、こうすれば」
すっすっとぬいぐるみになにか文字を書くと、ぬいぐるみが手のひらサイズまで小さくなった。え、これも魔法!? ちょっとテンションが高くなった。便利な魔法もあるんだなぁ……!
大切そうにポケットにぬいぐるみをポケットに入れるのを見て、オレを追いかけてきたであろうシェリルが隣に立ち、目を数回瞬(またた)かせる。
「……意外。あなた、ぬいぐるみ好きだったのね」
「うわっ、びっくりした!」
「びっくりしたのはこっちよ。いきなり駆け出して……!」
「それは、ごめん。心配かけたな」
「とりあえず、ここに固まっていたら歩行者の邪魔でしょうし、少し歩きましょう」
カイルの提案に、みんな首を縦に動かした。
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