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2章:いろんな人の、いろんな事情。
お祭り ――3
しおりを挟む「たこ焼きは中が熱いから気をつけろよ」
シェリルがたこ焼きを食べようとしていたから、そう言って制した。彼女はこくりとうなずいてそうっと口にした。オレはお好み焼きを食べる。……ソースとマヨネーズの相性っていいよなぁ。ふわふわのお好み焼きで、カリカリと豚肉とシャキシャキのキャベツの食感が楽しい。みんなとワイワイと食べられるのも良いなぁとしみじみ思った。
「そういえばカイルは?」
「飲み物を買いに行ったわ」
炭水化物オンリーだからな……。たこ焼きと焼きそばも食べる。庶民の味。懐かしくて美味しくて、心身ともに満足だ。
カイルが飲み物を持ってリンジーと一緒に来た。リンジーは手に甘い物をたくさん持っていた。チョコバナナもある。祭りの定番だなーって思うと、本当に懐かしい。『咲耶』もお祭りに遊びに行っていた。
小学生までは家族と、中学生からは沙織と行っていた。そういえば、屋台や露店は日本のお祭りの雰囲気なのに(というかあからさまに日本のお祭りだよな)、浴衣の子はいないんだなぁ。いや、それもそうか。殿下の誕生日祭だもんな。
「リンジー、よくこんなに買えたわね?」
「いやぁ、早めに来ていて良かったよ。主くんにはこれがいいかな?」
はい、といちご飴を渡すリンジー。確かにそれならシェリルの口にも入るだろう。りんごを丸々使った飴はどうやって食べたら良いのか悩むところ。持って帰った記憶がある。それにしても美味しいなー、この屋台料理。懐かしさもあって余計にそう思うのかもしれない。
「エリスくんはチョコバナナとクレープ、どっちがいい?」
「クレープ。って、オレの分も買って来てくれたの?」
「もちろんさ。こういうのはたくさんの人数で食べるのが美味しいのだろう?」
確かに、とうなずいてクレープを受け取る。それをかぷりと食べて、思わず目を見開いた。白桃のクレープのようで、桃のジャムとホイップがたっぷり入っていた。甘いけど美味しい。ちょっと口の中が甘くなったなーってところで、カイルが買ってきた飲み物をこくりと飲んだ。
ハーブティーかな。さっぱりとした味。そしてまたクレープへ。無限ループができそうだったけど、さすがにお腹がいっぱいになってきた。
「ごちそうさまでした」
久しぶりの庶民の味を堪能した。なんという満足感。みんなもそれぞれ食べ終わったみたい。シェリルは椅子から立ち上ると、「エリス、行きましょ! いいわよね? お父さま、お母さま?」と父さんたちを見る。
「護衛と一緒ならね」
「はーい、シェリー、カイル、行くわよ! リンジーはお父さまたちのところにいてね!」
「はいはい、楽しんでおいで」
「もちろんよ!」
リンジーに両親を任せて、シェリルは元気に先陣を切るかのように歩き出した。
改めて、いろいろな人たちを見た。ポーラのように猫耳をしている人や、うさぎの耳をしている人、エルフなのか耳が尖っている人、ドワーフのように小さい人。そしてもちろん、人間もたくさんいて、この世界の種族の多さに驚いた。天族と魔族は羽をしまっていると全然わからないや。
……カイルやリンジーの背中にもあるのかな、羽。じっとカイルを見つめると、「どうしました?」と朗らかに聞いてきた。
「いろんな人たちが楽しんでいるなぁと思って」
「殿下の誕生日祭ですからね」
「あ、あっちに露店があるわ!」
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