上 下
123 / 184
2章:いろんな人の、いろんな事情。

お祭り ――3

しおりを挟む

「たこ焼きは中が熱いから気をつけろよ」

 シェリルがたこ焼きを食べようとしていたから、そう言って制した。彼女はこくりとうなずいてそうっと口にした。オレはお好み焼きを食べる。……ソースとマヨネーズの相性っていいよなぁ。ふわふわのお好み焼きで、カリカリと豚肉とシャキシャキのキャベツの食感が楽しい。みんなとワイワイと食べられるのも良いなぁとしみじみ思った。

「そういえばカイルは?」
「飲み物を買いに行ったわ」

 炭水化物オンリーだからな……。たこ焼きと焼きそばも食べる。庶民の味。懐かしくて美味しくて、心身ともに満足だ。

 カイルが飲み物を持ってリンジーと一緒に来た。リンジーは手に甘い物をたくさん持っていた。チョコバナナもある。祭りの定番だなーって思うと、本当に懐かしい。『咲耶サクヤ』もお祭りに遊びに行っていた。

 小学生までは家族と、中学生からは沙織サオリと行っていた。そういえば、屋台や露店は日本のお祭りの雰囲気なのに(というかあからさまに日本のお祭りだよな)、浴衣の子はいないんだなぁ。いや、それもそうか。殿下の誕生日祭だもんな。

「リンジー、よくこんなに買えたわね?」
「いやぁ、早めに来ていて良かったよ。主くんにはこれがいいかな?」

 はい、といちご飴を渡すリンジー。確かにそれならシェリルの口にも入るだろう。りんごを丸々使った飴はどうやって食べたら良いのか悩むところ。持って帰った記憶がある。それにしても美味しいなー、この屋台料理。懐かしさもあって余計にそう思うのかもしれない。

「エリスくんはチョコバナナとクレープ、どっちがいい?」
「クレープ。って、オレの分も買って来てくれたの?」
「もちろんさ。こういうのはたくさんの人数で食べるのが美味しいのだろう?」

 確かに、とうなずいてクレープを受け取る。それをかぷりと食べて、思わず目を見開いた。白桃のクレープのようで、桃のジャムとホイップがたっぷり入っていた。甘いけど美味しい。ちょっと口の中が甘くなったなーってところで、カイルが買ってきた飲み物をこくりと飲んだ。

 ハーブティーかな。さっぱりとした味。そしてまたクレープへ。無限ループができそうだったけど、さすがにお腹がいっぱいになってきた。

「ごちそうさまでした」

 久しぶりの庶民の味を堪能した。なんという満足感。みんなもそれぞれ食べ終わったみたい。シェリルは椅子から立ち上ると、「エリス、行きましょ! いいわよね? お父さま、お母さま?」と父さんたちを見る。

「護衛と一緒ならね」
「はーい、シェリー、カイル、行くわよ! リンジーはお父さまたちのところにいてね!」
「はいはい、楽しんでおいで」
「もちろんよ!」

 リンジーに両親を任せて、シェリルは元気に先陣を切るかのように歩き出した。
 改めて、いろいろな人たちを見た。ポーラのように猫耳をしている人や、うさぎの耳をしている人、エルフなのか耳が尖っている人、ドワーフのように小さい人。そしてもちろん、人間もたくさんいて、この世界の種族の多さに驚いた。天族と魔族は羽をしまっていると全然わからないや。

 ……カイルやリンジーの背中にもあるのかな、羽。じっとカイルを見つめると、「どうしました?」と朗らかに聞いてきた。

「いろんな人たちが楽しんでいるなぁと思って」
「殿下の誕生日祭ですからね」
「あ、あっちに露店があるわ!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜
BL
本来のゲームでは冒頭で死亡する予定の大賢者✕元39歳コンビニアルバイトの美少年悪役令息 就職に失敗。 アルバイトしながら文字書きしていたら、気づいたら39歳だった。 自他共に認めるデブのキモオタ男の俺が目を覚ますと、鏡には美少年が映っていた。 あ、そういやトラックに跳ねられた気がする。 30年前のドット絵ゲームの固有グラなしのモブ敵、悪役貴族の息子ヴァニタス・アッシュフィールドに転生した俺。 しかし……待てよ。 悪役令息ということは、倒されるまでのモラトリアムの間は貧困とか経済的な問題とか考えずに思う存分文字書きライフを送れるのでは!? ☆ ※この作品は一度中断・削除した作品ですが、再投稿して再び連載を開始します。 ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、Fujossyでも公開しています。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

処理中です...