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2章:いろんな人の、いろんな事情。

お祭り ――1

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「おはようございます、エリスさま。体調はいかがでしょうか?」
「おはよう。うん、平気。すっきりしているし、魔力もちゃんと戻っているみたい」

 魔力が一気に減ると眠くなるのかも? じゃあ、あまり魔力を持っていないってことか? オレ。昨日使った魔力なんて、飴とカーティスの傷を治しただけだし。魔力って増えないのかなぁ。そんなことを考えながら服を着替えて祭りに行く準備を始めた。

 平民が着る服を用意してくれたみたいだ。ただ、生地は貴族仕様のようだ。肌触りが良い。

 扉がノックされて、「はーい」と返事をすると、父さんがひょこっと顔を見せた。

「おはよう、エリス」
「おはよう、父さん。先に言っておくけど、体調は大丈夫だよ!」
「はは、そのようだね。朝ご飯はここで食べるかい? それとも、祭りの屋台?」
「屋台!? 屋台もあるのっ?」
「あるさ、お祭りだからね。……屋台が良いみたいだね」

 期待を滲ませる声色だったからか、父さんはぽんとオレの頭を撫でてそのまま手を引いて歩いていく。すでにシェリルたちは準備を終えていたようだ――って!

「な、なんでそんな恰好!?」
「似合うでしょ?」

 パチンとウインクをひとつしてから、くるりと回ってみせるシェリルの格好を見てから、父さんと母さんを見上げる。彼らはシェリルの格好を気にした様子はない。なんで、なんで男物着ているんだよ、シェリル! しかもオレと同じ服!

「せっかくのお祭りだもの。動きやすい服装のほうがいいじゃない」
「かわいいです、シェリルさま!」
「ふふん、でしょう?」

 髪はポニーテールにしている。確かに男物のほうが動きやすいとは思うけど。それがまた似合っているのがすごい。まさか今日も双子コーデをするとは思わなかった。ちなみにオレはカイルに渡された服を着た。……カイル、知っていたな! と彼を見るとにっこりと微笑まれた。

「そういえば、リンジーは?」
「先に向かったわ。見てみたい露店があるんですって」
「露店もあるんだ!」

 声を弾ませてそう言うと、シェリルはぱちくりと目を瞬かせてそれから「ふふ」と笑った。全員でお祭りへと向かう。お祭り会場まではまた魔導師が転移魔法を使ってくれた。今日もお礼に飴をあげた。魔導師は嬉しそうに受け取り、「優しい子ですねぇ」と父さんに話しかけている。

 今回はそんなに苦しくなさそうだった。距離で魔力の消費も違うのかもしれない。

「ちなみに魔導『し』はどっちの『し』ですか?」
「我らは『師』のほうの魔導師です。王宮から要請があったので、仕事をしているだけですよ。普段は研究に没頭しています」
「あ、王宮専属ってわけじゃないんですね」
「はい、そうなのです」

 魔導師はどこにも王侯に属さないらしい。魔導士は属すけど。魔導師はオレの手に『師』の文字を書いてから教えてくれた。

「それでは、お祭りを楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」

 笑顔でお礼を言うと、魔導師は「いえいえ」と首を左右に振り見送ってくれた。歩き出すと、父さんがオレの手を掴んだ。人がたくさんいるからはぐれないように、だって。母さんはシェリルと手を繋いでいた。
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