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2章:いろんな人の、いろんな事情。

体力付けたはずなのになぁ。 ――1

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 カーティスはシェリルをいぶかしむように眉間に深い皺を刻む。なにも知らないのか、それとも知っていても話せないのかはわからなかった。カイルがちらりと時計に視線を向け、

「そろそろ、誰か戻ったほうが良さそうです。こちらを気にしている方々がいらっしゃるみたいなので……」

 カイルの話だと、こちらを窺っている大人が数人いるらしい。なんでわかるんだ、扉閉めているのに。でも、どのくらい休憩室にいたっけ? と時計を見るとすでに一時間近くいた。子どもたちで休憩室に入っているから、心配させているかもしれないと立ち上がろうとして、くらりと眩暈がした。

「エリス!」
「ごめん、平気。ちょっとくらっとしただけ」

 シェリルが慌てたようにオレを支えてくれた。女の子に支えられるとは……ちょっと自分が情けない。カーティスが明らかに狼狽ろうばいしていたのが印象的だった。そして、それをじっと見るカイルの姿も。

 心配を掛けたくないから、へらりと笑みを浮かべて軽く手を振る。カイルの袖を掴んでいると、彼がオレを支える。シェリルはそれを見てからオレのことをカイルに預けるように手を離した。

「シェリルとカーティスは先に戻って。オレ、カイルともう少しここで休むから」
「……わかったわ。行きましょう、カーティスさま」
「あ、ああ……ゆっくり休めよ」

 カーティスのことをさま付けで呼ぶシェリル。そのことに彼はちょっと目を見開いたけど、すぐに扉を見てからオレに声を掛ける。ふたりが休憩室から出て行くのを見送り、ソファに座り背もたれに頭を預ける。

 カイルが隣に座り、そっと手を伸ばして頬に触れる。ガラス細工に触れるような、恐る恐るとした触り方だった。そんなに繊細に触らなくても、壊れないって。

 ぼんやりと彼を見ると、眉を下げて下唇を噛み締めている。ほんのり冷たいカイルの手が、オレの体温でじわじわ温まっていくのを感じて、「ごめんな」と呟いた。

 この二年、体力をつけてきたはずなんだけど、なんでこんなに急に眩暈がするんだろう。貧血……ではないはずだし。ルトナーク家のかかりつけ医に診てもらったときも異常なしだったんだよな。

「――ちょっと休ませて」
「はい、エリスさま。ちゃんとここにおりますので、ご安心ください」

 彼の言葉にほっと安堵して、オレの意識はブラックアウトした。最悪の結末を見たからか、それとも魔力を使いすぎたのかはわからないけれど、とにかく一気に怠さが襲い掛かってきた。
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