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2章:いろんな人の、いろんな事情。
話してみよう。 ――4
しおりを挟む公爵家って貴族の中では一番身分が高いよな。王族は王族で別格って感じ。じっとカーティスを見ると、彼は治った腕を不思議そうに擦っている。……実は治癒魔法を使うのは初めてだったので、うまくいって安心した。
「公爵家の力は強大です。……それこそ、王家を揺るがすほどに。万が一、カーティスさまが召喚順を得れば、なにが起きても不思議ではないでしょうね」
げ、下剋上……? 眉を顰めてまさかな、と頭を横に振る。乙女ゲームの世界でクーデターなんて物騒なことが起きるとは思いたくない。そもそも乙女ゲームって、乙女に夢を与えるゲームだろ? それが血みどろになるかもなんて、考えたくない。
公爵は召喚獣を手に入れて、どうするつもりなんだろう。力が欲しいから、彼に召喚させているんだろうけど、理由がわからない。カーティスは知っているのかな? 知っていても、口止めされているような気はする。……でもさ、大人は子どもを守るもんじゃねぇの? あんなに傷だらけにする大人は、保護者失格じゃねえかな。
思考を巡らせていると、シェリルがパンっと両手を叩く。そして、カーティスに鋭い眼光を向ける。うーん、シェリルの表情が『悪役令嬢』っぽい。不思議だ。
「あなたが召喚獣を呼ぶのは、公爵に言われたから?」
「……」
沈黙は肯定、ってよく言うよな。カーティスは少し迷うように視線を落とし、それからぽつぽつと公爵家での出来事を教えてくれた。その内容が、子どもに背負わせるものじゃない気がするんだよなぁ。いや、本当に。
「俺は元々、召喚獣を従える村の出身なんだ」
「……うん? そんな村あるの? 召喚獣いっぱいいるってこと?」
「お前、疑問だらけだな……」
「ここ二年、勉強よりも体力作りに精を出していたからな!」
胸を張って言い切る。ここ二年、カイルと父さんと一緒にトレーニングメニューを練って、それをこなしながら魔法の練習。水属性の魔法ばっかり使っていたけど。たぶん、使い方は基本的に同じ。どんな魔法を使いたいのか、イメージをしっかりと固めて、魔力を放つ。
カーティスはオレのことを目元を細めて眺め、ぎゅっと自分の腕を掴んだ。
「どうした?」
「優しいのか、バカなのかを考えていた」
「んー、じゃあバカのほうで!」
自ら進んで片手を上げると、彼は目を丸くして、数秒後にはふはっと笑い出した。「なんだよ、それ」と可笑しそうに肩を震わせる。おお、笑った。良かった。
笑顔はずいぶんと年相応……というか、幼く見える。でも、笑えるのなら本当に良かった。
人って、笑えない状態のときのほうが、怖い気がするから……
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