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2章:いろんな人の、いろんな事情。
話してみよう。 ――2
しおりを挟む――見覚えあるぞ、この公爵。七歳の誕生日パーティーの日、シェリルにケーキを渡した人だ。彼はじっとオレを見て、「そうかい」と穏やかに目元を細め、カーティスに視線を向けた。恐れているのか身体が微妙に震えているのを見て、思わず、彼の腕をガシッと掴む。いきなりのことに目を丸くするカーティス。
「こうして友達もできましたし、ね」
「ほう、友達。それは良かったな、カーティス。おっと、そろそろ輪に戻らなければ。では、またいつか」
できればあまり会いたくないです。とは顔に出ていないはずだ。にっこり微笑んで「はい」と答え、輪に戻る公爵を見て息を吐く。怯えているように見えるカーティスを放っておけなかった。我ながら、お人好しだとは思うけど。
「大丈夫か?」
「な、んで……」
「いや、なんか身体が勝手に。な、ちょっと話さない?」
答えを聞かずにぐいぐいとカーティスの腕を引く。彼は戸惑いながらもオレに引っ張られるまま歩く。シェリルとカイルにアイコンタクトを送ると、ふたりともすぐに察して来てくれた。
パーティー会場の入り口を守っている騎士に、「休憩できる場所はありますか?」と尋ねると、視線を合わせるように屈んで「疲れちゃったかい?」と首を傾げられた。顔色の悪いカーティスを見たからか、オレがこくりとうなずいたからか、休憩室まで案内してくれた。
休憩室にしてはえらく広い部屋に四人。連れて来てくれた騎士は、「ゆっくり休むんだよ」と労わるように微笑んでから持ち場へ戻った。
「で、どういうつもりなの?」
扉が完全に閉まって数秒。シェリルが腕を組んで説明を求めた。
「どうもなにも、疲れたから休憩したかっただけ。それに付き合ってもらおうと思ってね」
「なんで俺まで」
「……怯えていたように見えたから?」
顔色も悪いし、と言葉を続けた。怯えている子どもをそのままにしておくのは憚られるし、そういうときひとりでいるのは心細いと考えたのだ。
「怯えていた? 誰が?」
「カーティスが、公爵を前にして」
公爵、と耳に入れるだけでも恐ろしいのか、悪かった顔色がさらに青ざめる。血の気を失う、とはまさにこんな感じだろう。そんな彼の様子を見て、オレらは顔を見合わせてうなずく。やっぱりなにかあるのだろう。カーティスと公爵の関係は。
カーティスは顔を俯かせて、それから逃げるようにその場から去ろうとした。
「カイル!」
「かしこまりました」
カイルの名を強めに呼べば、心得たとばかりにカーティスの背後に回り、彼の腕を掴み拘束した。……いや、そこまでしろとは言っていない。彼は「ぐっ」と苦しそうにもがいていたけれど、すぐに無駄だと悟ったのか、諦めたように大人しくなった。
そして――じわり、とカイルの掴んだ腕から血が流れていくのを見て、オレとシェリルは息を呑んだ。
「て、手当てしなきゃ! え、どこで怪我をしたの!?」
すぐにシェリルが我に返った。カーティスは忌々しそうにカイルを睨みつけていたが、痛みには耐えられなかったようだ。
とりあえず、手当てをしようと彼の腕を見て、言葉を失う。だって、切り傷だらけなんだ……
「……いったそう……」
「これを見た感想がそれだけかよ!?」
ぽつりと呟くと、すかさずカーティスがツッコミを入れた。だって本当に痛そうなんだもん。鋭利な刃物で傷つけられたのだろうと想像して、背筋がゾッとした。
「……まさか、それ、『代償』?」
「なにそれ?」
「――エリス、体力作りもほどほどにして、勉強しなさい」
呆れたような視線を向けるシェリルに、ごめんなさい、と頭を下げた。
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