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2章:いろんな人の、いろんな事情。
話してみよう。 ――1
しおりを挟むこれは話しかけるチャンスなのでは? と思いつき、グラスをふたつ取ってカーティスに近付いてみた。彼はどんどん近付いてくるオレに困惑しているようだった。びくりと肩を震わせているし。
……なにもそんなに警戒しなくても、取って喰いやしないのに。
ちょっと肩をすくめつつ、彼の前にすっとグラスを差し出した。
「飲む?」
「……いきなりだな」
「だって、ずっと見ていたじゃないか。飲みたいのかと思って」
要らないならカイルに渡す、と伝えると、カーティスは案外素直にグラスを受け取った。恐る恐るというようにゆっくりグラスに口をつけるのを見て、オレも飲む。アレン殿下の友人で、攻略対象。でも、この時点では友人かどうかは知らないや。
ちょっとね、『エリス』と『咲耶』の記憶が混ざり合って、必要な情報を引き出すのに時間が掛かるんだ。彼はジュースを飲み込むと、目を大きく見開いて、それから本当にゆっくりと、味わうようにこくりと飲み込む。
「変わった飲み物だな」
「そう?」
もしかして、初めて飲んだのかな、炭酸飲料。お気に召したようで、美味しそうに飲んでいる。……あの口の中でパチパチ弾ける飴を食わせてみたい。眉間に寄っていた皺がなくなったのを見て、ほんの少しいたずら心が出てしまった。
「……悪くない」
「結構好み割れると思うんだけど、カーティスは平気だったみたいだね」
「ああ……って、名前……」
「あ、ごめん。同い年だと思って呼び捨てにしちゃった」
別に良い、とオレの視線から逃れるように顔を横に逸らすカーティス。赤くなった顔を隠そうとしたんだろうけど、残念、耳まで真っ赤! こんな風に話す人、いなかったのかな。不敬だっ! なんて言われるかもしれないと思ったんだけど。すぐにこほんと咳払いをした。
「カーティス、パーティーを楽しんでいるのかい?」
背の高い人が声を掛けてきた。カーティスはびくっと大きく肩を震わせて、それから怯えるように視線を彷徨わせてから、顔を上げた。
どうしたんだろう? と首を傾げると、カーティスがなにか言う前にオレの存在に気付いた背の高い人がそっとしゃがみ込んできた。
暗い赤色の髪型に、青い瞳。ちょっと年老いた人だけど、それでも美形とわかる。若い頃はさぞモテただろう。……この世界、本当に美形しかいないな……
「ルトナーク伯爵家のエリス、だったか。楽しんでいるかい?」
「ごきげんよう、公爵さま。はい、楽しんでいます。料理も美味しいし、炭酸も飲めますし」
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