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2章:いろんな人の、いろんな事情。
誕生日パーティー ――2
しおりを挟む「あ、音楽が変わった」
「ダンスタイムみたいね。踊りましょうか、エリス」
「そうだな……注目も集めているみたいだし。カイル、それ、食べてていいから!」
取り集めた料理をカイルに押し付ける。彼は結局一口も食ってない。ちょっと戸惑ったように見えたけど、オレはシェリルと手を繋いで少し広いところまで向かう。他の人たちも。たぶん、みんな踊りに来たのだろう。
地獄の特訓を思い出しながらも笑顔を作る。シェリルも同じだ。その笑顔が互いにぎこちないのはご愛嬌。そこから音楽に合わせてダンスが始まった。まさかオレがこういう場でダンスを踊ることになるとはなぁ。なんだか感慨深い。
ワルツを踊りながら他の人たちの様子を眺める。やっぱり、大人のほうが綺麗に踊れているような気がする。オレらも練習の甲斐があってそれなりに踊れている、と思う。思いたい。
「結構上手に踊れているんじゃない? あたくしたち」
「オレもそう思う」
この調子なら一曲きちんと踊り終えられそうだ。しっかし、シェリルのほうが踊りにくそうだと毎回思う。ドレスにヒールだから。とはいえ、今日は身長差を考慮して低いヒールを履いてくれているけど。女の子って大変なんだなぁ。そんなことを考えながらも顔は笑顔。シェリルも笑顔。
無事に一曲終えてカイルたちのところに戻る。カイルとシェリーは拍手してくれた。父さんと母さんも「がんばったな」や「可愛かったわよ」と言ってくれた。ちょっと待って母さん、可愛かったってどういう評価? ちなみにリンジーは興味なさそうに料理を食べていた。
とりあえずルトナーク家で一ヶ所に集まっていると、父さんたちに声を掛ける人がちらほら。貴族の世界はよくわからないけれど、こういう場での会話も重要そうだ。
「シェリル、こちらへ」
父さんがシェリルを呼ぶ。彼女は父さんの隣に立つと、ドレスの裾を掴みお辞儀をした。うーん、こういう姿を見ると、シェリルって貴族なんだなぁとしみじみ思う。
父さんはシェリルの肩に手を置いて、彼女を誰かに紹介した。オレの傍にはカイルと母さんがいて、その光景を微笑ましそうに見ていた。一体、どんな紹介をしていたんだろう?
「シェリルは次期後継者だからね。今から顔を覚えてもらうのよ」
「あ、なるほど」
確かに幼い頃から顔を知ってもらってほうが良いよな。二年の間でちょこちょこ調べてみたけれど、女性が領主になるのは大変そうだった。でも、例がないわけではないから、シェリルは燃え上がっていたんだよな。
『難しいほうが燃えるじゃない?』
とは、彼女談。
そんなことを思い返していると、父さんが声を掛けてきた。そして、オレのことも紹介してくれた。――そして一時間くらい、わいわいがやがやと談笑が続いた。……貴族ってすげぇ。
一通り終わって、オレはちょっと暑くなってきたから休憩しようと人が少ないほうへと歩く。シェリルがどこに行くの? とばかりに視線を寄こしたので、ちょっと休憩と口パクで伝えると、仕方ないわねって感じで肩をすくめる。
ついでにトイレにでも行こうかな、とパーティー会場を出ると、「どうしました?」とたぶん警備のためにいる騎士に尋ねられた。オレが用件を伝えると、場所を教えてくれたのでお礼を言って頭を下げてから歩き出す。
人がたくさんいるところは熱気もすごいから、身体が火照ってしまう。よくみんな平気だなぁ。
トイレに行って用を済ませ、手をしっかりと洗いハンカチで手を拭く。きちんとハンカチをしまい、さて会場に戻ろうかと辺りを見渡すと――赤い髪の子が見えた。アレン殿下はパーティー会場にいるはずだし、アランかなって思い追いかけた。足音に気付いたのか、一瞬動きを止め、走り出した。
え!? と思い、オレも走り出す。ある部屋に入って行くのを見てどうしようかと悩んだけれど――とりあえず、扉をノックしてみた。
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