105 / 184
2章:いろんな人の、いろんな事情。
パーティー会場 ――2
しおりを挟むざわざわと周りが騒がしくなる。家族も息を呑んだ。オレは思わずシェリルを見る。彼女は少し表情を硬くしたけれど、すぐにそっと背中を押した。数回深呼吸をしてから、歩き出す。階段の下で足を止めると、上ってきなさいとジェスチャーされたので、緊張した面持ちで階段を踏みしめる。
「お、お呼びでしょうか?」
「ああ、そう緊張せずとも良い。先程、王宮の魔導師がとても元気に報告してくれてな。言付けを頼まれたのだ。『飴をどうもありがちょう。疲れも吹き飛んだよ』とのことだ」
あ、ああ――!! あの人か! っていうか陛下に伝言を頼むってすげぇな! 割とフレンドリーな感じなんだろうか。ぽん、と陛下がオレの肩に手を置いて、耳元で囁く。
「魔力を回復する飴など、売られていないはずだが?」
「!」
ぽんぽんと肩を叩いて顔を離し、ニヤリと笑みを浮かべる陛下に、冷や汗が背中に流れた。が、「なんのことでしょう?」と曖昧な笑みを浮かべる。あの魔導師、一体どんな報告をしたんだろう。
「ま、うちの魔導師を気遣ってくれてありがとうな。パーティーを楽しんでいってくれ」
ぽんぽんと軽く叩かれ、彼を見上げて「はい」と小さな声で返事をしてから、逃げるようにシェリルたちの元に戻る。一度振り返ると、たぶん王妃かな? という女性がにこりと微笑んで手を振っていた。放心状態のオレを現実に戻したのは、シェリルとカイルだった。
「大丈夫ですか、エリスさま」
「本当、大丈夫?」
「な、なんとか。すっごく緊張したけど」
もしかしてこれ、めっちゃ目立ってしまったのでは?
オレの予想は大当たりで、周りからジロジロと見られてなんだかなぁと肩をすくめる。なんで名指しで呼び出すかなー! 小さくため息を吐くと、父さんと母さんが周りの目から隠すように立つ。
シェリーはみんなと同じように目を丸くして驚いていたし、リンジーは腹を抱えて笑っていた。そんなに面白い余興だったか!?
「いつの間に飴を渡していたの?」
母さんに聞かれて、「ついてすぐ」と答えた。母さんと父さんは顔を見合わせて、「うちの子は優しい」と同時に口にした。親バカ!
それに、飴をあげたくらいで優しいと言われるのは、なんか違うような気もする。でも、愛しそうに目元を細めて褒められるのは、悪い気はしない。いつも通りの家族の姿を見て、さっきまで緊張していたのが嘘のように気が楽になった。
周りの視線ももう気にならない。オレはオレのまま、胸を張っていればいいだろう。
――そして、パーティーが本格的に始まった。
2
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。


箱庭
エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。
受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。
攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。
一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。
↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。
R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる