最終目標はのんびり暮らすことです。

海里

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2章:いろんな人の、いろんな事情。

パーティー会場 ――2

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 ざわざわと周りが騒がしくなる。家族も息をんだ。オレは思わずシェリルを見る。彼女は少し表情を硬くしたけれど、すぐにそっと背中を押した。数回深呼吸をしてから、歩き出す。階段の下で足を止めると、上ってきなさいとジェスチャーされたので、緊張した面持ちで階段を踏みしめる。

「お、お呼びでしょうか?」
「ああ、そう緊張せずとも良い。先程、王宮の魔導師がとても元気に報告してくれてな。言付けを頼まれたのだ。『飴をどうもありがちょう。疲れも吹き飛んだよ』とのことだ」

 あ、ああ――!! あの人か! っていうか陛下に伝言を頼むってすげぇな! 割とフレンドリーな感じなんだろうか。ぽん、と陛下がオレの肩に手を置いて、耳元で囁く。

「魔力を回復する飴など、売られていないはずだが?」
「!」

 ぽんぽんと肩を叩いて顔を離し、ニヤリと笑みを浮かべる陛下に、冷や汗が背中に流れた。が、「なんのことでしょう?」と曖昧な笑みを浮かべる。あの魔導師、一体どんな報告をしたんだろう。

「ま、うちの魔導師を気遣ってくれてありがとうな。パーティーを楽しんでいってくれ」

 ぽんぽんと軽く叩かれ、彼を見上げて「はい」と小さな声で返事をしてから、逃げるようにシェリルたちの元に戻る。一度振り返ると、たぶん王妃かな? という女性がにこりと微笑んで手を振っていた。放心状態のオレを現実に戻したのは、シェリルとカイルだった。

「大丈夫ですか、エリスさま」
「本当、大丈夫?」
「な、なんとか。すっごく緊張したけど」

 もしかしてこれ、めっちゃ目立ってしまったのでは?

 オレの予想は大当たりで、周りからジロジロと見られてなんだかなぁと肩をすくめる。なんで名指しで呼び出すかなー! 小さくため息を吐くと、父さんと母さんが周りの目から隠すように立つ。

 シェリーはみんなと同じように目を丸くして驚いていたし、リンジーは腹を抱えて笑っていた。そんなに面白い余興だったか!?

「いつの間に飴を渡していたの?」

 母さんに聞かれて、「ついてすぐ」と答えた。母さんと父さんは顔を見合わせて、「うちの子は優しい」と同時に口にした。親バカ!

 それに、飴をあげたくらいで優しいと言われるのは、なんか違うような気もする。でも、愛しそうに目元を細めて褒められるのは、悪い気はしない。いつも通りの家族の姿を見て、さっきまで緊張していたのが嘘のように気が楽になった。

 周りの視線ももう気にならない。オレはオレのまま、胸を張っていればいいだろう。

 ――そして、パーティーが本格的に始まった。
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