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2章:いろんな人の、いろんな事情。
招待状 ――6
しおりを挟む屋敷の周りを三周歩けるようになったけど、ランニングだと一周半が限界。せめて二周は走れるようになりたい。最近ではカイルと一緒にランニングしている。そこそこ体力も増えたし、今度は剣術でも習ってみようかな。やりたいことはたくさんある。
カイルと一緒に準備運動をしてから、玄関まで行き外の空気を大きく吸う。甘い花の香りが鼻腔をくすぐり、ゆっくりと息を吐く。ルトナーク家の空気はおいしい気がする。
「では、行きましょうか」
「うん!」
カイルの声にうなずいて、地を蹴り走り出す。一定のリズムで走っているつもりなんだけど、一周目後半からリズムが狂ってしまう。ちくしょう、まだ体力が足りないのか!
「エリスさま、ペースが乱れていますよ」
「知ってる!!」
隣を走るカイルは涼しい顔をしているのに……! なんか悔しいなぁ。オレもそのうち、カイルのように涼しい顔で走れるんだろうか。そしてやっぱり一周半しか走れなかった。ぜぃぜぃと肩で息を整えていると、カイルがタオルを取り出して差し出した。ありがたく受け取って汗を拭う。
「はーっ、またダメだった!」
「それでも一昨日より安定して走れていましたよ。この調子です」
「ん、がんばる。……カイルって、剣も使えたりするの?」
カイルの腰に携えている剣を眺めながら尋ねると、彼は剣の柄に触れながら答えた。
「はい、一応訓練しましたので」
「そっかー、じゃあ……」
「その前に、ダンスレッスンが待っていますよ。エリスさま」
オレの言葉を遮るように、にっこりと微笑むカイル。「え?」と首を傾げた。だって、ダンスレッスンなんてなんのために……?
「殿下の誕生日パーティーで必要かもしれないですからね」
「うっそぉ……!」
「本当です。誘ったり誘われたり、ダンスは必要不可欠な貴族のスキルです」
思わずその場でしゃがみ込んだ。あと二週間でダンスレッスンだと……!? 踊れる気がしないのはなぜだろう。壁の花になりたい。あ、花って女性しか使っちゃダメかな。男の場合はなんて言うんだろう。
「シェリルさまと一緒にがんばりましょうね」
「……シェリルのほうがうまい気がする……」
「エリスさまもこれからうまくなりますよ、練習するんですから」
そっと手を差し伸べるカイル。その手を取って立ち上がり、ちょっと憂鬱な気分になりながら、殿下の誕生日パーティーまでになんとかしなきゃなぁと考えて、はぁと小さく息を吐いた。
二週間徹底的に練習すれば、一曲くらいは覚えられるかな……
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