上 下
97 / 184
2章:いろんな人の、いろんな事情。

招待状 ――4

しおりを挟む

 部屋に残ったのはオレとリンジーだけ。リンジーはシェリルの護衛なのに、一緒に行かなくても良いのかなと彼を見ると、のほほんとお茶を飲んでいた。

「さて、ボクもきみに話があるんだ、エリスくん」
「話って?」
「きみ、水と光の属性だけ練習しているけれど、他の属性は練習しないのかい?」
「!」

 カイル以外に話してないことを、なんでリンジーが知っているんだ!? と思わずリンジーを見つめる。彼はくすくすと笑い、カップのふちを指でなぞった。

「ずいぶん驚いているようだけど、ボクの目は確かだったようだね?」
「……カマかけた?」
「否定派しない。人間でそれだけの属性を持つ者を、ボクは初めて見たよ」
「……人間って多くのどのくらいの属性を持てるの?」

 おや、という顔をした。リンジーは「ふむ」と一言呟いて口元に手を当て、目を伏せる。そして、オレをじぃっと見ると手を組んでテーブルに肘をつき、にんまりと口元に笑みを浮かべる。

「いいかい? この世界で一番弱い種族は人間だ。寿命も短く身体ももろい。なのになぜ、王族は人間がおもだと思う?」
「へ? え、ええと……新しい風を吹かせるため?」
「なるほど、その考えも面白い。だが、一番はやはり『弱い存在』だからと言えよう」
「弱いから、王族?」

 リンジーの言っていることがよくわからない。首を傾げると彼は「ふふふ」と笑い。クッキーに手を伸ばしてぱくりと食べる。

「庇護対象なのだよ、人間は。この国では、特に。そして王族のもつ属性は最大三つ。きみはそれ以上の力を得てしまった。これは人間が持てる属性の数を軽々しく超えている。いわば神の領域に近い。バレたら大変なことになりそうだね!」
「黙っていてくださいお願いします!」

 そんな世界の事情なんてオレは知らなかったぞ、女神さま――!!

 ふたつも、ってそういうことか。王族が最大三属性なら、それを上回る属性を持ってしまったオレは目の上のたんこぶなのでは!? 神の領域に近いっていうのも困るんだけど!?

 リンジーは楽しそうに「あっはっは」と腹を抱えて笑っている。笑い事じゃないって!

「しかしまさかこんなところに多属性を持つ者がいるとはね! いやぁ面白いことになりそうだ」
「楽しんでない!?」
「楽しんでいるとも。人生楽しむのが一番だからね。あと数十年は退屈しなくて済みそうだ」

 にっこりと笑顔で言われて、オレは思わず頭を抱えてしまった。そして、リンジーはかたんと椅子から立ち上がり近付いてくると、ポンっと軽く肩に手を置いてぐっと親指を立てた。

「これからのきみの人生を、ひっそりと楽しむことにするよ!」
「なにその怖い発言! シェリルを守ってよ!」
「もちろん、あるじくんも守るさ。だがボクにとって一番なのは、人生をより楽しく過ごすことだからね!」

 オレはリンジーの娯楽か! と心の中でツッコミを入れたところで、カイルが戻ってきた。リンジーの手がオレの肩に置かれているのを見ると、ぴくりと眉を動かして早足で近付き、パシンと彼の手を払った。

「エリスさまに触れないでください。あなたの護衛対象はシェリルさまでしょう」
「おー、怖い怖い。それじゃあボクは主くんの元に行こうかな。それじゃあね、エリスくん!」

 颯爽と部屋から出て行くリンジーを見て、嵐のような人だなと思った。……というか、急募、ツッコミ……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

クズ王子、弟にざまあされる

相沢京
BL
「貴様を追放するっ!」 弟である第三王子の祝いの会でそう叫んだのは第一王子でクズ王子と言われているダグラスだった。 「え、誰を・・?」 「決まっておろう。カイン、貴様だっ!」 断罪から始まった事件が、この後、思いもよらない陰謀へと発展していく。 ***************************** BL要素が少なめですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。 誤字脱字の報告、ありがとうございます。 短編のつもりですが、今後もしかしたら長編となるかもしれません。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

転生したからチートしようと思ったら王子の婚約者になったんだけど

suzu
BL
主人公のセレステは6歳の時に、魔力および属性を調べるために行う儀式に参加していた王子の姿を見て、前世の記憶を思い出す。 そしてせっかくならチートしたい!という軽い気持ちで魔法の本を読み、見よう見まねで精霊を召喚したらまさかの精霊王が全員出てきてしまった…。 そんなにところに偶然居合わせしまった王子のライアン。 そこから仲良くなったと思ったら突然セレステを口説き始めるライアン?! 王子×公爵令息 一応R18あるかも ※設定読まないとわからなくなります(追加設定多々) ※ショタ×ショタから始まるので地雷の方は読まないでください。 ※背後注意 ※修正したくなったらひっそりとやっています ※主人公よく寝ます

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

処理中です...