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2章:いろんな人の、いろんな事情。
招待状 ――4
しおりを挟む部屋に残ったのはオレとリンジーだけ。リンジーはシェリルの護衛なのに、一緒に行かなくても良いのかなと彼を見ると、のほほんとお茶を飲んでいた。
「さて、ボクもきみに話があるんだ、エリスくん」
「話って?」
「きみ、水と光の属性だけ練習しているけれど、他の属性は練習しないのかい?」
「!」
カイル以外に話してないことを、なんでリンジーが知っているんだ!? と思わずリンジーを見つめる。彼はくすくすと笑い、カップのふちを指でなぞった。
「ずいぶん驚いているようだけど、ボクの目は確かだったようだね?」
「……カマかけた?」
「否定派しない。人間でそれだけの属性を持つ者を、ボクは初めて見たよ」
「……人間って多くのどのくらいの属性を持てるの?」
おや、という顔をした。リンジーは「ふむ」と一言呟いて口元に手を当て、目を伏せる。そして、オレをじぃっと見ると手を組んでテーブルに肘をつき、にんまりと口元に笑みを浮かべる。
「いいかい? この世界で一番弱い種族は人間だ。寿命も短く身体も脆い。なのになぜ、王族は人間が主だと思う?」
「へ? え、ええと……新しい風を吹かせるため?」
「なるほど、その考えも面白い。だが、一番はやはり『弱い存在』だからと言えよう」
「弱いから、王族?」
リンジーの言っていることがよくわからない。首を傾げると彼は「ふふふ」と笑い。クッキーに手を伸ばしてぱくりと食べる。
「庇護対象なのだよ、人間は。この国では、特に。そして王族のもつ属性は最大三つ。きみはそれ以上の力を得てしまった。これは人間が持てる属性の数を軽々しく超えている。いわば神の領域に近い。バレたら大変なことになりそうだね!」
「黙っていてくださいお願いします!」
そんな世界の事情なんてオレは知らなかったぞ、女神さま――!!
ふたつも、ってそういうことか。王族が最大三属性なら、それを上回る属性を持ってしまったオレは目の上のたんこぶなのでは!? 神の領域に近いっていうのも困るんだけど!?
リンジーは楽しそうに「あっはっは」と腹を抱えて笑っている。笑い事じゃないって!
「しかしまさかこんなところに多属性を持つ者がいるとはね! いやぁ面白いことになりそうだ」
「楽しんでない!?」
「楽しんでいるとも。人生楽しむのが一番だからね。あと数十年は退屈しなくて済みそうだ」
にっこりと笑顔で言われて、オレは思わず頭を抱えてしまった。そして、リンジーはかたんと椅子から立ち上がり近付いてくると、ポンっと軽く肩に手を置いてぐっと親指を立てた。
「これからのきみの人生を、ひっそりと楽しむことにするよ!」
「なにその怖い発言! シェリルを守ってよ!」
「もちろん、主くんも守るさ。だがボクにとって一番なのは、人生をより楽しく過ごすことだからね!」
オレはリンジーの娯楽か! と心の中でツッコミを入れたところで、カイルが戻ってきた。リンジーの手がオレの肩に置かれているのを見ると、ぴくりと眉を動かして早足で近付き、パシンと彼の手を払った。
「エリスさまに触れないでください。あなたの護衛対象はシェリルさまでしょう」
「おー、怖い怖い。それじゃあボクは主くんの元に行こうかな。それじゃあね、エリスくん!」
颯爽と部屋から出て行くリンジーを見て、嵐のような人だなと思った。……というか、急募、ツッコミ……!
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