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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
未来に向かって、出来ることを ――1
しおりを挟む「……でもこれ、まだ誰にも言わないほうが良いよな、たぶん」
アレン殿下とアランのことを、詳しくは知らないのだから。そう結論付けて立ち上がる。二枚のハンカチに視線を落とし、さっきまでのやり取りが夢ではないことを確認してから、ぎゅっとハンカチを握った。
そして、握っていないほうの手を天井に翳す。オレには糸なんて見えない。その糸が見えるアランは、どんな存在なのだろう?
ただ、彼の言った通りだとすれば、この世界は――神の箱庭なのかもしれないな。……この場合の神って、ゲームの制作者なんだろうか。だって、あの『ヴィーナス』と名乗った女神は申し訳なさそうにしていた。
女神でさえゲーム制作者の『人形』なのかもしれない。いや、ただそう思っただけなんだけど。
ぼんやりとしていたら、扉がノックされた。ビクッと肩が跳ね、「だ、誰っ?」と上擦った声で尋ねると、シェリルの声が耳に届いた。その声に安心する自分がいて、なんだかおかしかった。
「エリス? どうしたの?」
ハンカチをポケットに押し込んで、扉を開けて廊下に出ると、オレの表情になにかを感じ取ったのか、シェリルが頬を包むように触れてきた。
「――絶対に生き残ろう」
硬い声で小さく呟くと、彼女は目を丸くして、それから頬から手を離し、代わりにオレの背中をバンっと勢いよく叩いた。
「いってぇ!」
「なーに当たり前のことを言っているのよ! もう、そんなシリアルな顔で!」
「シェリル、シリアルじゃなくて、シリアスな」
「やだ、そうだっけ?」
ぺろ、と舌を出して笑う彼女に、今の言い間違いはわざとだと感じた。きっとオレのことを気遣ってくれたのだろう。
「もうお昼の時間よ。早く行きましょ!」
「そうだね、なんかお腹空いたや」
オレとシェリルの腹がぐぅぅう、と鳴いた。ん! と手を差し出すシェリル。その手を掴んで一緒に食堂まで行き、両親と一緒にお昼ご飯を食べた。そして、お昼を食べたらなにをして過ごすの? という母さんの質問に、手を上げて言葉を発する。
「今すぐじゃなくて良いので、この国のことが知りたいです」
「……国?」
「はい。王族がどういう人たちなのか、貴族がどういう人たちなのか。それと――シェリル」
ちらりとシェリルに視線を向けると、彼女は小さくうなずいてから立ち上がり、左手を腰に、右手を胸元に添えて高らかに宣言する。
「お父さま、お母さま。ルトナーク家はこのシェリル・I・ルトナークが継ぐと、宣言しますわ」
父さんはオレがルトナークを継ぐ気がないことを知っているけれど、母さんは目を大きく見開いてオレらを交互に見た。それから、目にうるうると涙を浮かべさせ、ハンカチを取り出して目元を拭う。……なくような場面?
「あんなに小さかったシェリルが……! 王妃候補を自ら事態するなんてどうしたのかと思ったら……!」
子どもの成長に喜んでいたらしい。感極まると泣くタイプなのかもしれない。
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