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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

シェリルという、双子の姉 ――1

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「エリス、エリス。起きて、エリス」

 ゆさゆさと身体を揺さぶられ、目が覚めた。どのくらいの時間寝ていたかはわからないけれど、眉を下げてオレを覗き込んでいた。繋いだ手はそのままに、起こされたみたいだ。

「……どうしたの?」
「どうしたの、は、こっちのセリフよ。泣いているわ」
「……へ?」

 シェリルがオレの目尻をトントン、と突く。自分の目元に手をやって、そこから涙が出ていることに気付いた。

「怖い夢でも見た?」
「……ううん、違う。『咲耶サクヤ』の夢を見た、だけ……」
「……そう」

 一緒に起き上がって、ぐしぐしと乱暴に涙を拭う。悲しい夢じゃなかったはずだ。なのに、なんでオレ、泣いたんだろう。沙織サオリたちの顔を、見られたから? 繋いでいた手を離して、代わりにシェリルが大きく腕を広げた。なにしてんだ? と首を傾げると、彼女は「いらっしゃい」と口にする。

「え? は?」
「いいからいらっしゃい。早く」
「え? う、うん……?」

 とりあえずシェリルに近付くと、彼女はぎゅむっとオレを抱きしめて、ぽんぽんと優しく頭を撫でた。慰められていることに気付いて、オレは思わず眉を下げて笑う。十歳の女の子に慰められるとは……中身、高校生なのに。なんか格好悪いな、オレ。

「あたくしの鼓動、聞こえる?」
「……うん」
「ちっちゃい頃のエリスはね、あたくしがこうすると落ち着くみたいで、すぐに眠っちゃったのよ。……あたくしが生きている、と安心できたんでしょうね」

 心臓が止まると、鼓動は聞こえないから。トクントクンと聞こえるシェリルの鼓動に、なぜかまた涙が出てきた。

「……置いてきちゃって、つらかったね」
「……うん」

 沙織は、両親は、『咲耶』が死んだあと、どうしたのだろう。悲しんで、泣いたかな。泣いてくれると嬉しいとは思う。そう思う反面、やっぱり笑顔でいて欲しいとも感じる。元気で過ごしてくれたら、一番なんだけど。

「……シェリル、本当に姉みたい」
「失礼ね、あたくしが姉だって言っているでしょ!」

 ごつんと額と額がぶつかって、痛い。痛いはずなのになんだかおかしくなって、プッとふたりで笑い出した。オレが『エリス』であることを受け入れられたから、『咲耶』の夢を見たのかな?

「きっと愛されていたのね、『サクヤ』は」
「どうして、そう思うんだ?」
「だって、優しい顔をしているもの。あたくしの覚えているエリスは、ずっとなにかに怯えた顔をしていた。顔で笑って、目で怯えて。思えばそれもイラっとしたのよね。なんであたくしに言わないのかしらって。まぁ、言えるわけもなかったよね……。……あたくしね、エリスに助けてもらったと思っているの。それは、あたくしのために毒を飲んだ『エリス』と、『サクヤ』の記憶を持つエリス、両方よ。こうして、またエリスと笑い合えるなんて、信じられないくらいの奇跡だと思うの」

 幼い子に言い聞かせるような、ゆったりとした口調でシェリルが話す。それから満開の花のようにとびきりな笑顔を浮かべ、そっと手を伸ばしてオレの頬に手を添え――思い切り頬を引っ張った。
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