82 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
シェリルという、双子の姉 ――1
しおりを挟む「エリス、エリス。起きて、エリス」
ゆさゆさと身体を揺さぶられ、目が覚めた。どのくらいの時間寝ていたかはわからないけれど、眉を下げてオレを覗き込んでいた。繋いだ手はそのままに、起こされたみたいだ。
「……どうしたの?」
「どうしたの、は、こっちのセリフよ。泣いているわ」
「……へ?」
シェリルがオレの目尻をトントン、と突く。自分の目元に手をやって、そこから涙が出ていることに気付いた。
「怖い夢でも見た?」
「……ううん、違う。『咲耶』の夢を見た、だけ……」
「……そう」
一緒に起き上がって、ぐしぐしと乱暴に涙を拭う。悲しい夢じゃなかったはずだ。なのに、なんでオレ、泣いたんだろう。沙織たちの顔を、見られたから? 繋いでいた手を離して、代わりにシェリルが大きく腕を広げた。なにしてんだ? と首を傾げると、彼女は「いらっしゃい」と口にする。
「え? は?」
「いいからいらっしゃい。早く」
「え? う、うん……?」
とりあえずシェリルに近付くと、彼女はぎゅむっとオレを抱きしめて、ぽんぽんと優しく頭を撫でた。慰められていることに気付いて、オレは思わず眉を下げて笑う。十歳の女の子に慰められるとは……中身、高校生なのに。なんか格好悪いな、オレ。
「あたくしの鼓動、聞こえる?」
「……うん」
「ちっちゃい頃のエリスはね、あたくしがこうすると落ち着くみたいで、すぐに眠っちゃったのよ。……あたくしが生きている、と安心できたんでしょうね」
心臓が止まると、鼓動は聞こえないから。トクントクンと聞こえるシェリルの鼓動に、なぜかまた涙が出てきた。
「……置いてきちゃって、つらかったね」
「……うん」
沙織は、両親は、『咲耶』が死んだあと、どうしたのだろう。悲しんで、泣いたかな。泣いてくれると嬉しいとは思う。そう思う反面、やっぱり笑顔でいて欲しいとも感じる。元気で過ごしてくれたら、一番なんだけど。
「……シェリル、本当に姉みたい」
「失礼ね、あたくしが姉だって言っているでしょ!」
ごつんと額と額がぶつかって、痛い。痛いはずなのになんだかおかしくなって、プッとふたりで笑い出した。オレが『エリス』であることを受け入れられたから、『咲耶』の夢を見たのかな?
「きっと愛されていたのね、『サクヤ』は」
「どうして、そう思うんだ?」
「だって、優しい顔をしているもの。あたくしの覚えているエリスは、ずっとなにかに怯えた顔をしていた。顔で笑って、目で怯えて。思えばそれもイラっとしたのよね。なんであたくしに言わないのかしらって。まぁ、言えるわけもなかったよね……。……あたくしね、エリスに助けてもらったと思っているの。それは、あたくしのために毒を飲んだ『エリス』と、『サクヤ』の記憶を持つエリス、両方よ。こうして、またエリスと笑い合えるなんて、信じられないくらいの奇跡だと思うの」
幼い子に言い聞かせるような、ゆったりとした口調でシェリルが話す。それから満開の花のようにとびきりな笑顔を浮かべ、そっと手を伸ばしてオレの頬に手を添え――思い切り頬を引っ張った。
3
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
消えたいと願ったら、猫になってました。
15
BL
親友に恋をした。
告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。
消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。
…え?
消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません!
「大丈夫、戻る方法はあるから」
「それって?」
「それはーーー」
猫ライフ、満喫します。
こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。
するっと終わる(かもしれない)予定です。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
だからっ俺は平穏に過ごしたい!!
しおぱんだ。
BL
たった一人神器、黙示録を扱える少年は仲間を庇い、絶命した。
そして目を覚ましたら、少年がいた時代から遥か先の時代のエリオット・オズヴェルグに転生していた!?
黒いボサボサの頭に、丸眼鏡という容姿。
お世辞でも顔が整っているとはいえなかったが、術が解けると本来は紅い髪に金色の瞳で整っている顔たちだった。
そんなエリオットはいじめを受け、精神的な理由で絶賛休学中。
学園生活は平穏に過ごしたいが、真正面から返り討ちにすると後々面倒事に巻き込まれる可能性がある。
それならと陰ながら返り討ちしつつ、唯一いじめから庇ってくれていたデュオのフレディと共に学園生活を平穏(?)に過ごしていた。
だが、そんな最中自身のことをゲームのヒロインだという季節外れの転校生アリスティアによって、平穏な学園生活は崩れ去っていく。
生徒会や風紀委員を巻き込むのはいいが、俺だけは巻き込まないでくれ!!
この物語は、平穏にのんびりマイペースに過ごしたいエリオットが、問題に巻き込まれながら、生徒会や風紀委員の者達と交流を深めていく微BLチックなお話
※のんびりマイペースに気が向いた時に投稿していきます。
昔から誤字脱字変換ミスが多い人なので、何かありましたらお伝えいただけれ幸いです。
pixivにもゆっくり投稿しております。
病気療養中で、具合悪いことが多いので度々放置しています。
楽しみにしてくださっている方ごめんなさい💦
R15は流血表現などの保険ですので、性的表現はほぼないです。
あったとしても軽いキスくらいですので、性的表現が苦手な人でも見れる話かと思います。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる