81 / 184
1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
『エリス』と『咲耶』の願い ――3
しおりを挟む実母が亡くなったときの記憶はない。ただ、父さんが泣いていたのは覚えている。愛する妻を失い、泣き叫ぶ父さんの姿が忘れられなかった。
そのうちに、父さんとかあさんが出会って、オレらは家族になった。
初めのうちはぎこちなかったと思う。父さんは仕事で遅いことが多かったし、家でひとり、留守番をすることがだいぶ慣れた頃だったから。家に帰って「おかえりなさい」と迎い入れられることがくすぐったかった。
『今日は咲耶の好きなおかずにしよっか。なにが食べたい?』
『えっと……』
『ゆっくりで良いのよ。お母さんに、咲耶の好きなものを教えて欲しいの』
目線を合わせて優しく頭を撫でる母さんに、いつの間にか懐いた。沙織はかあさんを取られるのかと思ったのか、べったりとかあさんにくっついていた。そのたびに、かあさんはオレらを一緒に抱きしめて『大好きよ』と言ってくれた。
仕事から帰ってきた父さんがそれを見て、『なになに、愛を伝える日?』と混ざって来たのを覚えている。そのうちに、段々と自分はここに居て良いのだと思えるようになった。沙織もオレに懐いて、一緒に過ごす時間が多くなって、思春期に入ったけれど仲の良さは変わらなかった。
クラスメイトたちが冷やかすくらいには、仲が良かった。
『私、お兄ちゃんがいないと生きていけないかもしれない……』
『いや、沙織……、カレーくらい誰でも作れるから!』
『お兄ちゃん、知っているでしょ!? 沙織の料理の腕が壊滅的なことを……!』
包丁を握らせれば指を切り、フライパンを持たせたら火傷をし、それならばとカップラーメンを作らせたが、やかんを持とうとして火傷をし、さらにお湯を溢れるほどに入れてしまい……そのカップラーメンは転倒して中身が飛び散り食べられなくなった。……沙織は壊滅的に料理がダメだった。
『結婚するなら、お兄ちゃんみたいに家事得意な人と結婚するぅ……』
カップラーメンでさえダメだったからか、沙織がぐすぐすと泣きながらそんなことを言って、ちょっとしたショックを受けたのを覚えている。そうか、いつまでも一緒には居られないのか、と。つい、ずっと一緒に居るような気がしていた。
『じゃあ、沙織が旦那を見つけるまでは、オレが沙織を守るから』
泣き止まない沙織を慰めるように頭を撫でてやると、すぐに笑顔を見せてくれる。……普通の一般家庭とは、ちょっと違った形ではあったかもしれないけれど、それでもオレには大切な家族たち。
『お兄ちゃん!』
――ちゃんと沙織、家事が得意な旦那を見つけられたかな……。夢の中で、沙織の幸せを願った。
ああ、もしかして――妹の幸せを願ったオレと、姉の幸せを願った『エリス』。半分に割れた魂で、似たようなことを願っていたんだな。だから、『エリス』がシェリルを託したのは『咲耶』だったのかもしれない。記憶が戻ってもオレの人格が残ったのはきっと、そういう――……
4
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。



真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。
琉海
BL
不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。
しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。
迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。
異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる