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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

『エリス』と『咲耶』の願い ――2

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「ちなみにシェリルの理想像ってどんなもの?」
「そうねぇ、領地を守るなら強い人が良いわ。そこそこに頭も良くて、あたくしとちゃんと話し合ってくれる人。そしてなにより、愛してくれる人が良いわね! 貴族の結婚は政略が主だけど、お父さまとお母さまをご覧なさいな。あたくし、あんな夫婦になるのが夢なのよ!」

 確かに父さんと母さんは仲睦まじい夫婦だな。互いが互いのことを尊重し合える関係は良いと思う。

「……シェリル、結婚に関して結構割り切っているんだな」
「当然でしょ? あたくしはルトナーク伯爵令嬢よ?」

 あの『人形』だったシェリルとは考えられないくらいの思考だ。十歳の子がそんなことまで考えているのかと感心させられてしまう。対してオレは、どうだろう。結婚相手のことなんて考えたこともなかった。これは、日本で生活していたときもそうだったけど、さ。

「そういうエリスはどうなのよ。理想の子とかいないの?」
「理想? んー、そりゃあ、あるような……ないような?」
「なにそのあやふや」
「いや、なんて言うか、考えたことなかったなって。でも、そうだなぁ。一緒にいるのが自然な人がいいかも。当たり前のように一緒にいる人。そんな人がいたら、良いなぁ……」

 ふわぁ、と欠伸をすると、カイルが「お昼寝しましょうか」と声を掛けて身体を横たわらせた。シェリルも眠そうだったから一緒にお昼寝をすることになり、そっと毛布を掛けられて胸元辺りを寝かしつけるように軽く叩かれる。みんな、こんな風に寝かしつけてくれるけど、なんだかそれが安心できるんだよなぁ。ここは安全だからおやすみ、と言われているようで。それがすっごく心地良くて……、うとうとしているとシェリルの手がオレの手を掴んだ。

 仲違いしていた時間を埋めるかのように。――気付けば、オレも彼女の手を握って眠っていた。

◆◆◆

『咲耶と沙織は仲が良いわね。お母さん、助かっちゃうなぁ。でも、ちょっと妬けちゃうから、お母さんも混ぜて?』

 親が再婚して間もない頃、怖い夢を見たという沙織と一緒に眠ったことがある。オレがお兄ちゃんなんだから、沙織を守らなきゃって思っていた。沙織も沙織でオレに甘えてきてくれるからすごく可愛くて、血が繋がっていないとはいえ、普通の兄妹よりも仲が良かったと思う。

 そして、そんな様子を見ていた母さんが一緒の布団に入ってきたこともあった。

 すやすやと眠る沙織を見て、かあさんがオレの頭を撫でてくれた。『咲耶』の血の繋がった母親は、小さい頃に亡くなってしまったらしい。身体の弱い人で、オレを産むのも大変だったらしいとはあとから知った。記憶の中の実母はいつも温かくて、甘やかしてくれる人だった。一緒にいられなくてごめんね、すぐに退院するからね、とそんなことを言っていたような気がする。……たぶん。
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