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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
『エリス』と『咲耶』の願い ――1
しおりを挟む「エリス、大丈夫?」
扉をノックしてから、薄く扉を開けてひょこっと顔を出すシェリル。小さい子がやると可愛いなぁ。……じゃなくて、殿下は? と彼女に視線を向けると、部屋の中に入って扉を閉め、オレに近付いて来て「帰ったわよ」と口を開く。……あれ、オレ、口に出していたっけ?
「おねーさまには、エリスの考えていることなんてお見通しなのよ」
えっへんとばかりに腰に手を添え、胸を張るシェリルにオレとカイルは、顔を見合わせて小さく笑いを噴き出した。
結局、オレが自室に戻ったことでお茶会は終了。殿下は休んでいる宿へと戻ったのこと。
「あんまりお話はしなかったわね。……それよりもね、殿下も『人形』のような気がするの」
「どうしてそう思うんだ?」
「殿下の目よ。なんか、濁っている気がするの」
シェリルは自分の目元をトントンと人差し指で叩く。昨日出会った殿下は、澄んだ瞳をしていたのを覚えている。他人の空似って可能性もあるのか?
「呪われているのかしら、あたくしたち」
「呪われているのなら、解かないとな。呪いを解いて、目指せハッピーエンド!」
「ねえ、エリス。ハッピーエンドの定義ってなぁに?」
おっと、なんだか難しいことを聞かれた気がするぞ。そりゃあ、物語のハッピーエンドと言えば、大団円、王子さまのキスで呪いが解けるとか、王子さまと結婚するとか? 沙織にせがまれて読んでいた絵本の内容を思い出しながら口にすると、「それ本当にハッピーエンド?」と聞かれた。
どういう意味なのかわからなくてシェリルを見ると、彼女はオレのベッドに寝転んでうつ伏せ、足をパタパタと動かす。
「言葉通りよ。例えば王太子と結婚することで王宮入りしたら、待っているのは王妃としての責務と世継ぎを周りに言われるプレッシャー。もちろん、メリットもあるでしょうけど、王宮のごたごたには巻き込まれたくないわ。あたくしなら」
「……ずいぶん、現実的な考えだな……」
「あたくしにだって理想はあるもの。そもそも王妃になるにはそれなりの教育を受けないといけないから、それも大変なのよ」
しみじみと実感を込めて呟かれて首を傾げる。
「なんでそんなことを知っているんだ?」
「あたくし、王妃候補だったもの。寝込んだあと、正式に辞退したけれど」
……オレの知らないうちにいろいろ進んでいることにびっくりだよ。
「まず、同年代の令嬢は大体候補ね。殿下の十四歳の誕生日に候補たちがお茶会に呼ばれて、そこで選出されるのよ。まぁ、そのお茶会に行く気はないから、デビュタントで夫を探すわ」
あまりにもすらすらと今後の予定も含めて話すから、聞いているこっちが混乱しそうだ。
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