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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
記憶の整理 ――2
しおりを挟む隈があまりにも酷かったから、家族にも使用人たちにも心配されていたんだよなぁ。でも、『せっかく来客もいらっしゃっているのだから』と無理矢理参加したのだ。
なんでわざわざ誕生日パーティーで毒を飲んだかといえば、目立つため。誰かが『ルトナーク家』の没落を狙っていると思わせるため。
「戻った記憶では、何度もルトナーク家は没落していた。誰かがこの家を陥れようとしているのは確かだろうな」
「ルトナーク家は割と平和な家門なんですけどね?」
そうだよなぁ。なんでそんな平和な家門を狙うんだか。というか、悪役令嬢って悪党の家に生まれるわけじゃないんだな。乙女系のゲームや小説、漫画は読んだことがないからさっぱりだ。
「と言ってもさ、やっぱりこう、貴族同士のなんかがあるのかもしれないし」
「表面上は仲良さそうにしていても、裏では、と?」
「だってそうじゃないと説明できないじゃん」
「……ルトナーク家は王家からも信頼が厚いので、それを妬んでいる貴族もいるでしょうね」
「王家からの信頼が厚い?」
「ええ。ルトナーク領では高品質のルビーが採れるのです。そして、そのルビーを加工し、王家へ捧げていますから」
「あ、王族の色だから?」
「はい。王族の髪色ですからね。エメラルドを捧げている家門もありますよ」
「瞳の色だから?」
「はい。とはいえ、加工技術に関してはルトナークのほうが上でしょう」
宝石職人の腕がいいのか。あれ、宝石職人? それとも宝飾職人? ま、どっちでもいいか、今の時点でそれは関係ないのだし。
「とりあえず、『エリス』の記憶としては、シェリルがアレン殿下と婚約するけど、三年後に破棄されてルトナーク家が没落するって流れなんだよね」
「……そもそも、この世界は『創られた世界』なのでしょう? 我々にどうにか出来るものなのでしょうか?」
「それなんだけどさ、オレ、話していないことがあるんだよね」
そこでオレはカイルに女神の祝福を受けた日にあったことを話す。彼は大きく目を見開いて、それから考えるように顎に手を掛け黙り込んだ。
「女神の謝罪は、どうしてでしょうか」
「わからない。ちなみに、『咲耶』が死んだ年齢も十七歳だったんだ。ループ中、ずっと十七歳で死んでいるから、それもなんかあるのかも?」
ただ、『咲耶』は事故で命を落としたけど、ループしていた『エリス』は自決しているんだよな……。思い出すとサーッと血の気が引ける。だって、覚えている。喉元に触れる冷たいナイフの感触。喉を貫いたときの痛み。また救えなかったと嘆く無力感。すべて、覚えているのだ。
「エリスさま……」
ブルブルと身体を震えさせたオレに気付き、カイルが自分の上着を脱いでオレの背中に掛けた。そして、ベッドに腰かけると背中に手を回し、慰めるようにぽんぽんと軽く叩く。その手つきが無性に優しく感じて、ぐっと下唇を噛み締める。
「一気に記憶が戻ったから、思い出したくない記憶がぐるぐるしているんだ」
ここで生きる優しい人たちを失ったこと。シェリルを救えなかったこと。その悔恨の記憶が残っている。どうすれば、なにも失わずに済むのだろう? それを考えないといけないのに……と目を伏せた。
「きっと女神は、エリスさまに託したのでしょう。この世界の未来を」
「ループしていたとはいえ、今のオレは十歳だぜ? 世界を背負うの、重いと思うんだけど?」
「そうですね。ですが、あなたは独りじゃありませんよ」
ほんの少し身体を離し、こつんと額と額がくっついた。じんわりと広がるカイルの体温に、なんだか安心した。……ああ、なんかもう、カイルのほうが年上みたいじゃないか。
「……うん」
「……落ち着きましたか?」
震えが止まっていた。小さくうなずくと、カイルはぽんぽんともう一度背中を叩く。そして、「ありがとう」と口にすると、彼は首を左右に振った。
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