最終目標はのんびり暮らすことです。

海里

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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

アレン殿下の訪問 ――2

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「あ、甘いものは嫌いではない」

 むしろ、かなりお好きっぽいですね。ミニマドレーヌに伸びる手を眺めつつ、甘いものを食べると表情が柔らかくなるのを見て、普段から良いもの食べているんじゃないのかな? と思ったけれど、もしかしたら普段はあまり食べていないのかもしれない。

「それよりも、なぜそんなことを聞く?」
「いえ、気になっただけですわ。どんなところを見て回っていたのか」
「ふん……」

 シェリルのときも思っていたんだけど、『フン』って言うのなんなんだろうな。ツンデレ的なアレ? 沙織が言うにはこのアレンって子がメインヒーローなんだっけ。王子さまだから? まぁ、確かに成長すればイケメンっぽいけどな。

 ……この世界、イケメンと美女や美少女しかいないんじゃねーの。攻略キャラのはずなのに、なぜオレはこんなに地味なのか。にしても、本当昨日の態度とは違い過ぎない?

「マドレーヌはお口に合いましたか?」

 柔らかく微笑んで母さんが尋ねる。聞かなくてもわかるくらい、殿下の手は止まらない。やっぱり普段は抑えられているのかも?

「あ、ああ、美味だ」
「それはよろしゅうございました」

 パクパクとミニマドレーヌを食べる殿下に、シェリルはじーっと殿下を見てオレにだけ聞こえるように呟いた。

「……惚れる要素がないわ。あたくしの趣味じゃない」

 思わずお茶をき出すところだった。お茶を飲もうとしていたところだから、気管に入ってむせてしまい、カイルが優しくオレの背中を撫でる。

「エリス、大丈夫?」

 父さんと母さんが慌てたように駆け寄ってきた。シェリルは悪びれる様子もなく、お茶を飲んでいた。小悪魔め!

「旦那さま、奥さま、エリスさまは病み上がりですし、そろそろ……」
「そうね。殿下、申し訳ございません、エリスは下がらせてもらいますわね」

 いや、オレがむせたのはシェリルのせいだから……! じろりと彼女を睨むと、「ごめんって」とばかりに両手を合わせてウインクした。可愛いけど可愛くない!

「あ、ああ。その、無理させて悪かったな」
「お、おき、に、なさ、らず……」

 むせながらなんとか言葉を出す。カイルに支えられながら応接間から出て行き、自室まで歩いた。ベッドに寝転び大の字になると、カイルが「大丈夫ですか?」と聞いてきた。こくりとうなずくと、ほっとしたように息を吐く。その姿を見て、心配性だなと頬を掻いた。

「それにしても、あの殿下は本当に昨日お会いした殿下なのでしょうか」
「えっ?」
「怪我をした様子もありませんでした。足取りもしっかりしていましたし、まるで別人のように見えましたね」

 殿下に対する違和感があったのはカイルもか。オレは起き上がって「だよなぁ」と同意した。むせたのも治った。

 しっかしシェリルの趣味じゃなかったのか、殿下って。ってことは、シェリルが殿下に惚れたのは本人の気持ちとは違うってことで。乙女ゲームこわっ!
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