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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
家族一緒に ――8
しおりを挟むまた転ばないかちょっとハラハラしたけれど、男の子はずいっと手に持った花束(恐らくどこからか摘んできた花をリボンで結んだもの)を差し出した。……お礼、ってことなのかな。それなら、受け取らないという選択肢はないだろう。
「バイバイ!」
「え、ちょ……」
そう叫んで、男の子は逃げるように去って行った。ぽかんと口を開けて花束を眺めると、母さんが「あら、綺麗な花束ねぇ」と花を愛でていた。シェリルと父さんが「知り合い?」と聞かれて、とりあえず馬車に乗り込んでからさっきのことを話した。
「赤い髪に緑の瞳だったのか?」
「うん」
「あらあら。殿下ったら、護衛の目を盗んで遊びに来たのね」
――え、母さん今、『殿下』って言った……? オレとシェリルは顔を見合わせて、重々しくため息を吐いた。
「なんで殿下がこの領地に?」
「視察を兼ねているのよ。あと、殿下がうちに来る予定だったのよ」
「……えっと、それって、会わなきゃダメ……」
「ええ、殿下とお友達になってくれると嬉しいわ」
ですよね。まさかこんなに早くアラン殿下と会うことになるとは思わなかった。……というか、待って。ちらりとシェリルに視線を向けると、彼女もオレを見ていて、小さくうなずいた。どうやら、あとで話そうという気持ちが伝わったようだ。……これも双子シンパシーだったりするのだろうか。
家について、とりあえずまず着替えることにした。
「着替えたら行くわ」
「待ってる」
オレの体力を考慮してくれているのだろう。きっと、彼女のほうが体力がある。……体力作り、がんばらないとな。せめて、彼女に並びたい。
自室に戻り、ハッとした。部屋に入らないように命じたけれど、このワンピースはひとりじゃ着替えられない! とりあえず、ハーフパンツを履いてから、扉に近付いて、カイルに声を掛ける。
「どうしました?」
「ちょっと手伝って!」
カイルの手首を掴んで部屋に入れる。背中を向けて、ワンピースのジッパーを下げて欲しいと頼むと、「ああ」と納得したようにうなずいた。ジッパーを下げてもらって、ようやくワンピースを脱ぐことが出来た。ハーフパンツは履いているから、シャツに袖を通せば着替え完了。
「エリスさま、靴も別の物にしましょう」
「そうだった!」
女の子用の靴を履いていたので、別の靴に履き替える。貴族の女性って着替えるのも大変だなぁとしみじみ思いつつ、シェリルを待った。脱いだ服はカイルが回収して、あとで洗濯するとのこと。
「もう二度と女装しないぞ……!」
「似合っていましたよ?」
「あれのどこが!?」
からかっているんだろうかと彼の顔を見つめたけれど、全然そんな感じはしない。本心からそう思っているのか。あの微妙な女装を。そう考えていたら、扉がノックされた。
「エリス、着替え終わった?」
「うん、入っていいよ」
やっぱりシェリルだった。……なんでシェリルのほうが着替えるのも素早いんだ?
「カイル、そのワンピース大切に保存しておいてね」
「かしこまりました」
「いや、もう二度と着ないからな!?」
思わずそう叫んでしまった。カイルもシェリルも心底楽しそうに笑い出してしまい、結局明日来るアレン殿下のことについて話し合えたのは一時間後だった。
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