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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
そして現在 ――5
しおりを挟む頭の中にいろいろな記憶が流れ込んでくる。恐らくこれは、『エリス』の記憶だ。一気に流れ込んで来て思わず頭を抱える。ガンガンガン! と頭を強打されている気分だ。グラグラして倒れそうになったところをカイルに支えられた。
「エリスさま、大丈夫ですかっ?」
「むり……!」
オレの返答を聞いて、カイルは慌てたようにひょいと抱きかかえ、ベッドまで運んでくれた。シェリルも慌てたように近付いて来て、「お、お医者さまを呼んでくるッ!」と震える声で部屋から出て行こうとする。
彼女の手首を掴んで、首を横に振る。医者に診てもらったとしても、治るわけじゃないと思ったから。オレが自分のことを『エリス』だと認めたからだろうか、この記憶がよみがえったのは。
「記憶……が、戻った、みたい」
脳が揺さぶれるような感覚。もう二度と味わいたくないな、この感覚。ぐったりとしていると、シェリルがそっとオレの頭を撫でた。労わるように撫でられて、彼女に視線を向ける。
「休んでいなさい。無茶しちゃダメよ」
「……そうする……」
目を閉じると、シェリルがぽんぽんとオレの胸を優しく叩いた。そして、いつの間にか眠りに落ちていたみたいだ。一気に『エリス』の記憶が流れ込んで来て、オレのキャパシティを超えてしまったのだろう。
てっきり『エリス』の記憶は知らないままだと考えていたから、記憶が戻ってちょっと脳が混乱している。
ぐるぐると渦巻く記憶。『エリス』が経験してきたものすべて……ではないのだろうけれど、かなりの情報量だ。
目を開けて飛び込んできたのは暗闇。一体どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
「――くらい……」
シェリルとカイルと話していたときは、あんなに明るかったのに。今は恐らく夜なのだろう。どうせなら、明日の朝まで気を失ったままでいたかった……! 今から眠れるか?
いや、そんな風に思っても仕方ないか。一気に思い出したから頭が痛くなったのかな。今はとてもスッキリしている。そして、自分が確かに『エリス・F・ルトナーク』だと思えるようになった。
ベッドから降りて、部屋の扉まで向かう。扉を開けると、やっぱりカイルが立っていた。
「カイル、ずっとここに居たの?」
「はい。エリスさまがいつ起きても大丈夫なように。お腹は空いていませんか? 喉は乾いていませんか? 具合は治りましたか?」
質問攻めを受けて目を瞬かせる。カイルに心配性の称号を与えたい。十二歳の子にこんなに心配をかけて申し訳ないな。オレが苦笑を浮かべると、「まだ体調がすぐれないのでは?」とこれまた心配そうに眉を下げる。緩やかに首を横に振って、喉が渇いたから水を飲みたいと伝えた。あと、濡らしたタオルも。汗を掻いたから拭きたいと伝えると、「お風呂の準備をしますよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
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