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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
そして現在 ――4
しおりを挟むオレの場合は恐らく、日本から来た魂だから。……そういえば、『咲耶』の魂は『エリス』が半分に割った魂だったみたいだ。ってことは、オレは彼の生まれ変わりとして日本で暮らしていたのかな。そして、あの事故でこの世界に帰ってきたってことになるのか?
ややこしいな!
シェリルが世界から解放されたのは……もしかしたら、『エリス』がそう願っていたから?
「お前、『エリス』に愛されてんな……」
「な、なによ、急に」
しみじみと呟いてオレもマドレーヌに手を伸ばす。ぽいっと口の中に放り込んでもぐもぐと食べ、お茶を飲む。あー、糖分が身体に沁みるー。考えすぎるとショートを起こしそうだ。
「要注意人物は公爵とアレン殿下ってことで」
「十四歳の頃に婚約するって本当かしら。拒めないのかな」
「惚れなきゃ良いんじゃね?」
「それもそうね!」
……この子の思考回路、実は単純だったりしない?
あ、そうだ。ついでにこのことも聞いてみよう。
「なぁ、シェリルはこの家を継ぐ気、あったりしない?」
「え? あたくしが?」
「オレの最終目標はのんびり暮らすことなんだよね。そうなると、この家に跡継ぎが必要になるだろ? シェリル、継いでくれない?」
「さらっと問題発言してない!? ええ、じゃあ婿養子探さないといけないじゃない……」
結構乗り気っぽい? 女伯爵ってのも響きが良いな。そして割とあっさりオレの目標は達成できそうでラッキー。
すると、シェリルは真摯なまなざしをオレに向けて問う。
「……ねえ、それ、自分が『エリス』じゃないからって考えたから?」
ドキリと鼓動が跳ねた。それを考えなかったわけじゃない。『咲耶』の意識を持ったオレよりは、純粋にこの家の子が跡継ぎになれば良いと思っていたから。……なんでバレた、とシェリルを見ると、彼女は見たことのないくらい、慈愛の笑みを浮かべてオレを見た。
「エリスじゃないって言ったけど、訂正するわ。あんたはエリスよ。だって、――考えていることが、わかるもの」
双子シンパシー!? オレがぽりぽりと頬を指で軽く掻くと、シェリルが天井を見上げた。
「今ね、頭の中がスッキリしている感じなの。頭痛もないし、好きなように動けるし」
天井からオレに視線を移すシェリル。自分の胸元に手を置き、柔らかい表情を浮かべて、歌うように言葉を紡ぐ。
「シェリル・I・ルトナークが認めます。あんたは――いえ、あなたが『エリス・F・ルトナーク』だと。『サクヤ』の記憶を受け継ぐあなたを、エリスと認めましょう。だから、さ、あなたもあたくしたちを『家族』と認めなさいな」
まるで、天使のように慈悲深い微笑みでそう言った。自分の意思で話せる彼女は、こんな性格の子だったのか。『悪役令嬢』という役割を与えられたから、あんなに攻撃的だったのか。……そう考えると、『エリス』のこの世界は狂っているって考えが、とても納得できる。
「家族、か……」
日本の両親と沙織は、オレがそれを受け入れることを許してくれるだろうか。――心優しい人たちだから、きっと許してくれる。
「そうだな、受け入れよう。――オレは……いや、オレが『エリス・F・ルトナーク』だと」
オレが自分のことを『エリス』だと認めた瞬間、身体の中でなにかが弾けたような……そんな感覚がした。
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