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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?
そして現在 ――3
しおりを挟むでも、カイルが『人形』じゃなかったから、『エリス』の話も聞けたし、魔法陣に仕掛けも出来たわけだ。そして、なにも知らないオレに合わせて『演じて』みせたのだろう、カイルもなにも知らないと。役者かよ!
「ちなみにシェリル、好きな人いないの?」
「はぁ!?」
おっと、女の子らしからぬ声が出てるぞ。そして呆れたように肩をすくめた。自分の額に手を置いて、はぁーっと思い切りため息を吐かれてしまった。
「え、だってカイルを護衛にしたかったんだろ?」
「あたくし、『人形』だったのよ?」
「あ、そっか。自分の意思とは関係ないのか」
えーっと、じゃあシェリルがカイルを好きなように見えたのは、この世界がそれを望んでいたからってことで……十四歳の頃にアレン殿下に惚れるのに、その設定必要か? 百面相をしていたであろうオレを見て、シェリルがぽつりと呟く。
「あんた、変な子ね……」
と。ちょっと待ってくれシェリル。『子』はないだろう!
「言っとくけどオレ、『咲耶』の頃はお前らよりも年上だったからな!?」
「それがなによ、今はあんたもあたくしも十歳の子どもなの!」
ふんっと腰に両手を当ててふんぞり返るシェリルに、肩の力を抜けと言われた気がした。シェリル、本当に姉なんだと感じて、思わずくすくす笑ってしまった彼女も同じように笑みを浮かべた。カイルは首を傾げていたけど、すぐに「お茶とお菓子を用意しますね」と部屋から出て行く。
「とりあえず……万が一、公爵がシェリルを狙っていたとして、目的が謎だな」
性癖かもしれないし、もしかしたらそのケーキにはなにも入ってなかったかもしれない。『エリス』が作った毒薬が遅効性だった可能性もある。顎に手を置いて眉間に皺を刻んでいる間に、カイルがお茶とお茶菓子を用意してくれた。シェリルは一口サイズのマドレーヌを手にして、オレの口に押し付けた。
「今から皺を作る気? 甘いものでも食べて落ち着きなさい」
「むぐ……」
押し付けらマドレーヌを黙って咀嚼する。そっと差し出されたカップを受け取り、マドレーヌを飲み込んでからお茶を口にした。口の中がさっぱりしたところで、カイルも椅子に座るように促すと、彼は素直に座った。
「うちは伯爵家だから、公爵さまとの繋がりはあまりないはずなんだけど……」
「なんだけど?」
「お母さま、綺麗でしょ? 若い頃はひくてあたまだったって聞いたわ!」
ひくてあたま? ああ、引く手あまた、ね。訂正してやるとむぅと頬を膨らませた。年相応の顔は思っていた以上に可愛らしい。もしかしたら、毒薬じゃなくて即効性の睡眠薬が入っていた可能性もあるのか? 『エリス』はなんでシェリルからケーキを取り上げたんだろう?
「あー、謎だらけ!」
「でも、こうやって自由に動けるようになって良かったわ。あたくしの意思で行動して、未来を変えられるもの」
「それにしても、なんで解けたんだろうな。オレはともかく」
そもそも目覚めてからずっと『人形』ではなかったオレと、『人形』として過ごしていたシェリル。彼女が解放された理由がわからないや。
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