最終目標はのんびり暮らすことです。

海里

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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

誰かの記憶 ――6

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 ふと気になって、彼女が手にしているものに視線を落とす。そして思わず息をんだ。僕がそこにいる。姉さんも。

『はー……、やっぱりシェリルちゃん断罪されちゃったー! 咲耶サクヤお兄ちゃん、またダメだったよー!』
『それは残念だったな。あ、沙織サオリ、そろそろ夕飯だけど、なにか食べたいのある?』
『咲耶お兄ちゃんが作るの? じゃあねー、グラタン!』
『りょーかい、ちょっと待っててな』

 女の子がベッドにごろんと仰向けになって、じたばたと足を動かす。

 ――もしかして、僕は。僕たちは……、誰かに、作られた存在だった?
 そうだと思えば行動が制限されるのも、心にも思っていないことを口にするのも理解出来た。――やはり、人形だった。……僕の仮説が正しければ、目覚めた『エリス』は人形ではなくなる。『エリス』であって、『エリス』じゃない者になるのだから。

 ――どうか、姉さんを……シェリルを救って欲しい。

 暴走するなにかから妹を庇った彼の魂を引っ張り込み、空っぽになった『エリス』の身体に融合させる。その魂が定着するまで三年の時間が掛かった。三年くらい、と記されていたからあの禁書に書かれていたことは正しかったようだ。

 姉さん……シェリル。今度こそ――幸せになって欲しい。

 アレン殿下に惚れることは確定なのだろうか。出来れば、あんな人に惚れて欲しくないな。そして、なによりも、彼女が世界から解放されることを願っている。

 平凡な人生なんて、と姉さんは言うかもしれないけれど、ただなにもなく幸せに暮らして欲しい。姉さんは姉さんらしく生きて欲しい。

 姉さんの弟として、それを願うことくらい許されるよね?

 ――何度も断罪される彼女を見た。

 ――何度も家族の崩壊を見た。

 ――どうか、これが最期の――……

 最期の、ループでありますように。

 家族や使用人が笑って暮らせる日々で、ありますように。そこに僕は、居なくてもいいから。

 鏡の中でただ祈る。神よ、本当にいらっしゃるのなら、今度こそ、と。

 ゆっくりと目を閉じる。これまでの人生、とても長い時間を過ごした。だからもう――僕も、休んで良いよね?

 きっと、目覚めた『エリス』が僕に気付いてくれるから、そのときまでは――……少し、休ませて欲しい。

 どうか、『魂の返還』がうまくいっていますように。いろいろなことを考えていたけれど、なんだかふわふわとした気持ちになってきた。魂だけになったからだろう。十七歳の姿でいるのはなんだか不思議だったけれど、毎度十七歳でループしていたからだろうか。

 ああ、ダメだ。もう意識が保てない。みんなが幸せに暮らせる世界になりますように。最後にそれだけを願い、意識が薄れていった。
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