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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

誰かの記憶 ――5

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『この魔法陣は……?』
『あ、消しちゃダメ! これは絶対に必要なものだから!』

 カイルは床に描かれた魔法陣に気付いて、触れようとする。彼の袖を引っ張って、首を勢いよく左右に振るとカイルの動きが止まった。

『……この魔法陣、未完成の『魂の返還』ですよね』
『魔法陣を見ただけでわかるの? というかこれでも未完成なの?』

 僕の持てる知識すべてを使って描いたのに、と床に視線を落とす。

『魂の主が抜けていますね、これだと』
『え、ああ、もしかしてあの場所に書く文字?』
『はい。あれではただの幽霊になります』

 カイルが教えてくれた場所を直す。こうすれば、どこかの世界に旅立った僕の魂を呼び込めるだろう。

『これをすべておひとりで……?』
『うん。シェリルを救う、それだけを考えて、ね』

 カイルは僕をじっと見て、それから言葉を紡いだ。

『おつらかったですね』

 労わるように柔らかい声色。

 ――つらかった。何度も何度も……何度も! 姉さんを救うことが出来ずに断罪されるのを見るのも、ループを繰り返すのも! だけどもう、これで終わりになるだろう。

『――そうだね、つらかった。でも、今回で絶対に終わらせる』
『エリスさま……』
『だから、カイル。目覚めた『エリス』をよろしくね』
『お約束いたします、エリスさま』
『……ありがとう……』

 カイルがそう約束してくれたから、安心して作り上げた毒薬を飲める。この身体を死なせるわけにはいかないから、少しずつ毒に慣らしていった。そして七歳の誕生日に、僕はあの毒薬を飲んだ。ジュースに入れて飲み干し、薄れていく意識の中、姉さんが泣きながら僕に近付くのが見えた。

 ――ああ、なんだ。姉さんは僕を心から嫌っているわけじゃ……なかったんだ……

◆◆◆

 毒薬と魔法陣をリンクさせていたから、僕は鏡の中に入ることに成功した。その鏡の中から、半分に割った僕の魂を探す。すぐに見つかった。自分の魂だからか、すぐにわかった。

 そこでの僕は、見慣れない服を着て、見慣れない場所を歩いていた。そして、『また放課後に』と言葉を交わしていた。鏡の中から、この世界の僕はどんな人なんだろうと観察していた。一緒に居たのは妹、なのだろう。彼女の口から『うん、お兄ちゃん、またね!』と聞こえたから。

 場面が変わり、ベッドに座ってなにかをしている女の子が見えた。その子を慈愛に満ちた瞳で見つめている男の子。あの兄妹だ。妹がなにかを言って、男の子が彼女の頭を撫でる。なにかを話して、ふたりで笑い合っている……僕の理想の姉弟像。
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