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1章:乙女ゲームの中に転生したみたい?

誰かの記憶 ――2

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 そして、床に魔法陣を描いた。独自で調べて使うのは初めてだ。うまくいくと、良いのだけど。次はきっと、姉さんを、シェリルを守れるように――……。そう願って、自分の喉元をナイフで切った。

 ごめんなさい、父さん、母さん、屋敷の人たち。そして、カイル。朦朧とする意識の中、大切な人たちに心の中で謝罪し、血飛沫を上げながら魔法陣の中で倒れる。

 そして――ループが始まった。今度こそ、姉さんを助けてみせると心に決意を宿して、魔法や剣術を磨いた。しかし、一回目の人生とは違うことが起きた。姉さんが本当にセシリアをいじめようとしていたのだ。

 何度も止めようとしたけれど、そのたびに身体が動かなくなり、口からは『姉さんがなにをやったとしても、僕には関係ない』と本心とは違う言葉が出てきた。違う、僕は姉さんを助けたいんだ!

 僕はさらに調べて、今度こそと命を絶った。何回、それを繰り返しただろうか。時には僕と結婚するセシリア。だが、その裏でルトナーク家は没落していった。僕の口からセシリアへの愛が紡がれる。――やめてくれ、僕はセシリアを愛していない!

 ――この世界は狂っている。それに気付いたのは、きっと僕だけだ。

 そして、何度目の人生になるのか、数えるのも億劫おっくうになってきた頃、初めて魂を入れ替える術を知った。教えてくれたのはカイルだった。僕が悩んでいることに気付き、声を掛けてくれたのだ。そして、縋るように彼の服を掴み、相談した。

 僕がループしていることは伝えずに、ただ姉さんを助けるすべを探していることをカイルに話すと、カイルはいろいろな提案をしてくれた。だが、その提案を実行しようとすると、身体が動かなくなるようで、シェリルを直接助けることが出来ないことに肩を落とした。

 そこで僕がダメなのなら、別の魂が入った『エリス』ならどうなのだろうと考えた。禁術の部類に入るだろうと、屋敷の禁書を置いている場所に向かい、今までの人生で得た知識を駆使して禁書を手に入れ、読破した。そこで『魂の返還』という魔法を見つけた。もしかしたら、この魔法でシェリルを助けることが出来る人の魂を入れられるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら、今後のことを考える。今のうちに、出来ることをしなくては。

 そして今度こそ――姉さんに幸せになって欲しい。セシリアをいじめることなく、心穏やかに過ごせる平凡な日々を過ごせるようになって欲しい。そう思うのは、エゴなのかもしれない。
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